第三話 彼女の部屋の灯り
第三話 彼女の部屋の灯り
美咲の腕の中は、
人間だった頃よりもずっと温かく感じた。
猫の身体だからなのか、
それとも──
美咲の震える手のせいなのか。
「……あきお……」
美咲は小さくつぶやいた。
その声は、あきおの胸の奥に直接落ちてくる。
呼ばれているのに、返事ができない。
名前を呼ばれているのに、“自分”として届かない。
あきおは、喉の奥がきゅっと締まるような感覚を覚えた。
「にゃ……」
それが精一杯だった。
美咲は涙を拭い、
あきおをそっとソファに置いた。
「……ごめんね。
急に抱きしめちゃって。
寒かったよね」
あきおは首を振りたかった。
寒かったのは自分じゃない。
美咲のほうだ。
でも、できるのは
小さく身体を寄せることだけ。
美咲は少し笑った。
「……優しい子だね。
あきおみたい」
その言葉に、
胸がぎゅっと痛んだ。
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◆ 写真立ての前で
美咲は立ち上がり、
棚の上の写真立てを手に取った。
そこには、
笑っている自分と、
隣で照れくさそうに笑うあきおが写っていた。
「……なんで、
なんであきおが死ななきゃいけなかったの……」
声が震え、
涙がぽたぽたと写真に落ちる。
あきおは思わず美咲の足元にすり寄った。
「にゃ……にゃあ……」
美咲はしゃがみ込み、
あきおを抱きしめた。
「……ありがとう。
そばにいてくれるだけで、
なんだか、少し楽になるよ……」
あきおは、
その言葉に胸が熱くなった。
そばにいることしかできない。
でも、それでもいい。
今は、それでいい。
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◆ 眠れない夜
美咲は布団に入り、
あきおはその横に丸くなった。
部屋の灯りは落ちているのに、
美咲の涙の気配だけは、
暗闇の中でもはっきりわかった。
「……あきお……
会いたいよ……」
あきおは、
そっと美咲の手に頭を押しつけた。
美咲は驚いたように目を開け、
そして微笑んだ。
「……ありがとう。
あなた、本当に……優しいね」
そのまま美咲は、
あきおの背中を撫でながら眠りについた。
あきおは目を閉じられなかった。
守りたい。
そばにいたい。
でも、自分はもう“人間のあきお”じゃない。
それでも──
美咲の寝息を聞きながら、
あきおは静かに決意した。
この身体でもいい。
美咲を守れるなら、それでいい。
夜がゆっくりと更けていった。




