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魂は、猫のかたちをして  作者: velvetcondor guild


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21/23

20

    朝の光の中で


朝。

美咲が目を覚ますと、

あきおは枕元で丸くなっていた。


「おはよう、あき」


その声に、

胸の奥が温かくなる。


(……おはよう……)


言おうとした。

でも、やっぱり声にはならない。


美咲は気づかず微笑んだ。


「今日も一緒にいようね」


その言葉が、

胸に深く刺さった。


(……今日も……

今日“だけ”かもしれないのに)


---


◆ 2 名前が遠くなる


午前中。

美咲は掃除をしながら、

あきおに話しかけていた。


「ねぇ、あき。

この前の友だちがね──」


(友だち……?

誰だ……?)


思い出そうとすると、

記憶が霧のように散っていく。


(……沙耶……

沙耶……?

どんな顔だったっけ)


胸がざわつく。


美咲は気づかず続ける。


「藤堂さんにもね、

“猫ちゃん元気ですか”って聞かれたよ」


(藤堂……

誰だ……?)


名前が、

意味を持たなくなっていく。


(……やばい……

本当に……消えていく)


怖かった。

でも、美咲の前では震えられなかった。


---


◆ 3 美咲の気づき


昼下がり。

美咲はソファに座り、

あきおを抱き上げた。


「ねぇ、あき……

最近、ちょっと変じゃない?」


あきおは固まった。


「なんか……

前より“猫っぽく”なった気がするの」


胸が痛い。


(……そうだよ。

俺は……猫になっていく)


美咲は続けた。


「前はね……

もっと“考えてる”って感じがしたのに」


あきおは美咲の胸に顔をうずめた。


(考えてるよ……

美咲のことばかり……

でも……

言えないんだ)


美咲は優しく撫でた。


「……大丈夫だよ。

あきはあきだもんね」


その言葉が、

あきおの心を締めつけた。


---


◆ 4 記憶の崩壊


夕方。

美咲が料理をしている間、

あきおは窓辺に座っていた。


(美咲……

美咲……

み……さ……)


名前が、

口の中で溶けていく。


(……嘘だろ……

美咲の名前まで……?)


思い出そうとすると、

胸が苦しくなる。


(……俺は……誰だ……?

なんで……ここに……?)


その時、

ふと視界に美咲が映った。


その瞬間だけ、

胸の奥が温かくなる。


(……この人……

大事な人……

それだけは……わかる)


名前も、

思い出も、

言葉も消えていくのに。


“好き”という感情だけが残っていた。


---


◆ 5 美咲の涙


夜。

美咲は布団に入り、

あきおを抱き寄せた。


「ねぇ、あき……

最近、呼んでも来てくれない時あるよね」


あきおは目を閉じた。


(……ごめん……

名前が……聞こえないんだ)


美咲は続けた。


「前はね……

“あきお”って呼ぶと、

すぐ来てくれたのに」


その名前を聞いた瞬間、

胸が強く締めつけられた。


(あきお……

俺……

俺は……)


でも、

その先が出てこない。


美咲は涙をこぼした。


「……あきお……

どこに行っちゃったの……?」


あきおは美咲の頬に顔を寄せた。


(ここにいるよ……

ずっと……)


でも、

その言葉は声にならなかった。


---


◆ 6 最後の記憶


深夜。

美咲が眠ったあと。


あきおは、

静かに美咲の顔を見つめた。


(……この人……

大事……

大事……)


言葉はもうない。

名前もない。

記憶もほとんど消えた。


でも、

美咲を愛した気持ちだけは残っていた。


それが、

最後の“人間としての記憶”だった。


---


◆ 7 完全な猫へ


朝。

美咲が目を覚ますと、

あきおは足元で丸くなっていた。


「おはよう、あき」


あきおは顔を上げ、

小さく鳴いた。


「……にゃ」


その声は、

もう完全に“猫”の声だった。


美咲は微笑んだ。


「今日も一緒にいようね」


あきおは尻尾を揺らした。


(……にゃ)


その返事には、

もう“言葉”も“意味”もなかった。


ただ、

美咲のそばにいたいという

小さな本能だけが残っていた。


---


    エピローグ


数年後。


美咲は、

窓辺で丸くなって眠る猫を撫でながら微笑んだ。


「……あき。

あなた、本当に不思議な子だよね」


猫は目を細め、

喉を鳴らした。


ゴロ……ゴロ……


美咲は続けた。


「でも……

あなたがいてくれて、

私はずっと救われてきたよ」


猫は何も言わない。

ただ、美咲の手に頭を押しつけた。


その仕草は、

かつて“誰か”がしていたものに

とてもよく似ていた。


美咲は気づかない。


この猫が、

かつて自分が愛した人だったことを。


猫も気づかない。


自分が誰だったのかを。


でも──

二つの魂は、

静かに寄り添い続けていた。


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