第二話 帰れない家
第二話 帰れない家
猫の身体で目覚めたあきおは、
なぜ、なぜと繰り返し、呟きながら無我夢中で走っていた。
理由なんてなかった。
ただ──
「帰らなきゃ」
その思いだけが身体を動かしていた。
実家の前に着いたとき、
玄関の灯りは消えていた。
窓から灯りが漏れていた、
向こうには、
遺影と花が置かれている。
あきおは、そっと玄関の前に座った。
中から、母の声がかすかに聞こえた気がした。
「……あきお……どうして……」と。
すすり泣く声。
父の低い声。
線香の匂い。
自分のために泣いている。
この姿でどうすることも出来ない。
自分はもう“家族のあきおに”ではない。
あきおは、
小さく「にゃ……」と鳴いた。
もちろん届かない。
届くはずがない。
しばらく座っていたが、
やがて立ち上がった。
ここは、もう帰る場所じゃない。
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気づけば、足は別の方向へ向かっていた。
夜の街を歩き、
見慣れたマンションの前に着く。
あきおの彼女──
美咲の家。
窓の灯りはついていた。
近くの木に登れば、中が見えた。
中では、美咲がソファに座り、
スマホを握りしめて泣いていた。
「……なんで……
なんであきおが……」
かすかに聞こえたような気がする。
あきおは、胸が締めつけられた。
自分の死を悲しんでくれる人がいる。
でも、なぜ、自分はもう人間じゃない。
木を降りマンションの玄関の前で、あきおは思わず鳴いた。
「……にゃあ……」
すると、美咲がドアを開けた。
「……猫?」
ドアの隙間から、
あきおは思わず飛び込んだ。
美咲は驚きながらも、
そっと抱き上げた。
「……寒かったでしょ。
どうしたの……?」
あきおは、
胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
帰れない家はあった。
でも、ここにはまだ温かさがある。
こうして──
“あきお猫”と美咲の生活が始まろうとしている。




