第十八話 選ばなければならないもの
第十八話 選ばなければならないもの
夜。
美咲が眠ったあと、
部屋は静まり返っていた。
あきおは窓辺に座り、
街の灯りをぼんやりと眺めていた。
(……今日も、言葉が出なかった)
美咲に話しかけようとすると、
頭の中で言葉が霧のように消えていく。
(“ありがとう”って言いたかったのに……
なんで……出ないんだよ)
胸が痛む。
猫の身体は、
あきおの魂を少しずつ“猫”へと引き寄せていた。
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◆ 美咲の寝言
その時、
布団の中から小さな声が聞こえた。
「……あきお……」
あきおは振り返った。
美咲は眠りながら、
涙を一粒こぼしていた。
「……どうして……
いなくなっちゃったの……」
あきおの胸が締めつけられた。
(美咲……
俺は……ここにいるのに……)
でも、
声にはならない。
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◆ ケンの訪問
窓の外から、
軽い声がした。
「よっ。
そろそろ限界だな」
ケンがベランダに座っていた。
あきおは睨んだ。
(……お前の言った通りだ。
記憶が……消えていく)
ケンは真剣な顔で言った。
「だから言ったろ。
魂は器に馴染むんだよ。
お前はもう……七割くらい猫だ」
(……七割……)
その数字が、
妙に現実味を帯びて胸に刺さった。
ケンは続けた。
「そろそろ決めろ。
三つの道のどれを選ぶか」
あきおは息を呑んだ。
(……三つ……)
ケンは指を三本立てた。
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◆ ケンが告げる“三つの選択”
「一つ目。
このまま猫として生きる道。
記憶は消えるが、美咲のそばにいられる」
あきおは黙って聞いた。
「二つ目。
人間に戻る方法を探す道。
ただし……美咲の前からは消えることになる」
胸が痛む。
「三つ目。
魂の形を合わせる道。
美咲を“こちら側”に連れてくる方法だ」
あきおは震えた。
(……美咲を……?
猫に……?)
ケンは静かに言った。
「どれも正解だ。
どれも間違いじゃない。
でも──
“選ばない”という選択肢だけは、ない」
あきおは目を閉じた。
(……選ばなきゃいけないのか)
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◆ 美咲の声
その時、
美咲が寝返りを打ち、
小さく呟いた。
「……あき……
どこにも行かないで……」
あきおの胸が熱くなった。
(美咲……
俺は……)
ケンはため息をついた。
「お前の心は決まってるんだろ。
あとは……覚悟だけだ」
そう言い残し、
夜の闇に溶けるように消えた。
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◆ 選択の前夜
あきおは美咲の枕元に戻り、
そっと寄り添った。
美咲は眠りながら、
あきおの毛に指を絡めた。
「……あき……
大好きだよ……」
あきおは目を閉じた。
(美咲……
俺も……
ずっと……)
でも、
その“ずっと”が
どんな形になるのかは、
まだ決められなかった。
選ばなければならない時が、
すぐそこまで来ていた。




