第十三話 キャリーケースの窓から
第十三話 キャリーケースの窓から
今日は美咲の休日。
朝から機嫌が良く、
あきおを抱き上げて言った。
「ねぇ、あき。
今日は一緒にお出かけしよっか」
(お出かけ……?
外……?)
美咲はクローゼットから
キャリーケースを取り出した。
また注射か。
あきおは固まった。
(……ああ、これか。
猫の外出用の……)
美咲は扉を開け、
優しく言った。
「入ってみる?」
あきおは恐る恐る中に入った。
狭い。
暗い。
でも、美咲の匂いがする。
(……悪くないかも)
美咲は嬉しそうに微笑んだ。
「よし、行こっか」
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◆ 外の空気
マンションのエントランスを出た瞬間、
あきおはキャリーの小窓から外を見た。
風の匂い。
車の音。
遠くの子どもの声。
(… 俺がいた世界だ)
胸の奥がじんわり熱くなる。
美咲はキャリーを大事そうに抱えながら歩いた。
「今日はね、公園に行こうと思って」
(公園……!
美咲とよく行った……)
人間だった頃の記憶が
ふっと蘇る。
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◆ 公園のベンチで
美咲はベンチに座り、
キャリーの扉を少し開けた。
「ほら、あき。
外の空気、気持ちいいよ」
あきおは顔を出し、
風を吸い込んだ。
(……ああ……
やっぱり外はいいな)
美咲はその様子を見て微笑んだ。
「なんか……
あきおと来てた頃を思い出すなぁ」
あきおは胸が痛くなった。
(俺だよ……
ここにいるよ……)
でも言えない。
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◆ 子どもたちの声
近くで遊んでいた子どもたちが
キャリーを覗き込んだ。
「わぁ、猫ちゃんだ!」
「かわいい〜!」
美咲は少し照れながら言った。
「この子、あきって言うんです」
子どもたちは笑顔で手を振った。
あきおは思わず尻尾を振りそうになった。
(……人間の頃は、
こんな風に見られる側じゃなかったのにな)
不思議な気持ちだった。
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◆ 美咲の言葉
帰り道。
美咲はキャリーを抱えながら
ぽつりと呟いた。
「……あき。
あなたと外に出るとね、
なんだか心が軽くなるんだ」
あきおは小さく鳴いた。
「……にゃ」
(俺もだよ。
美咲と一緒なら、どこでもいい)
美咲はキャリーをそっと撫でた。
「また一緒に来ようね」
あきおは目を細めた。
(うん……また来よう)
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◆ 帰宅後
部屋に戻ると、
美咲はキャリーを開けて言った。
「お疲れさま、あき」
あきおは伸びをして、
美咲の足元にすり寄った。
(外もいいけど……
やっぱり美咲のそばが一番だな)
美咲は笑いながら
あきおを抱き上げた。
「今日は楽しかったね」
あきおは喉を鳴らした。
ゴロ……ゴロ……
その音は、
美咲と過ごした一日の幸せそのものだった。




