第十一話 お風呂が好き
第十一話 お風呂が好き
美咲は仕事から帰ると、
あきおを抱き上げて言った。
「今日は寒かったし……
お風呂、入ろっか?」
普通の猫なら逃げるところだが、
あきおはむしろ尻尾をぴんと立てた。
(風呂……!?
温泉……!?
最高じゃん!!)
美咲は目を丸くした。
「え……逃げないの?
猫ってお風呂嫌いじゃないのに……」
あきおは胸を張るように「にゃっ」と鳴いた。
(俺は違う!
人間の頃から風呂大好きなんだよ!)
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◆ 湯気の中で
湯気がふわりと立ちこめる浴室。
美咲は湯船に浸かり、
あきおは洗い場の桶にちょこんと座っていた。
「……なんか不思議だね。
猫と一緒にお風呂って」
あきおは湯気を吸い込みながら、
気持ちよさそうに目を細めた。
(あ〜……最高……
温泉かよ……)
美咲は笑った。
「ほんとに好きなんだね、お風呂」
あきおは桶の縁に前足をかけ、
湯船を覗き込む。
その瞬間、美咲が慌てて胸元を押さえた。
「ちょ、ちょっと……!
あき、見ないの!」
(いや、見ようとしてるわけじゃ……!
高さ的にこうなるだけで……!)
猫の身体なのに、
人間としての“気まずさ”が込み上げてくる。
尻尾が恥ずかしそうに揺れた。
美咲はその様子を見て、
くすっと笑った。
「……なんか、
猫なのに人間みたいだね」
あきおは思わず顔をそむけた。
(やめろ……
図星すぎる……)
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◆ タオルで拭かれる
風呂上がり。
美咲はタオルであきを包み、
優しく拭いてくれた。
「ふふ……あったかいね、あき」
あきおはタオルの中で目を細めた。
(……悪くない。
いや、むしろ最高だ……)
美咲はふと呟いた。
「……あきおと温泉行った時、
こんな感じだったのかな」
その言葉に、
あきおの胸がぎゅっと締めつけられた。
(……覚えてるよ。
あの時も、美咲はこんな風に笑ってた)
タオルの中で、
あきおはそっと美咲の手に頭を押しつけた。
美咲は驚き、
そして優しく微笑んだ。
「……あき。
あなた、本当に不思議な子だね」




