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非合法組織を立ち上げて、スローライフを楽しみたい  作者:


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第七話 おままごとの内容

 イカロスは戸惑いながらも低い声で復唱する。

 「……4Sグループに敵対する企業へのサイバー攻撃。法で裁けぬターゲットの『社会的抹殺』……か」


 「最初の項目は、お父様が出資してくれる際の絶対条件。二つ目は私の完全な趣味よ」

 玲子は笑みを浮かべていたが、その瞳の奥には、すべてを見透かすような冷徹な光が宿っていた。

 「世の中を必死に回してくれている、つまらない『善人』をターゲットにする気はないわ。私の獲物は、この社会のシステムを食い物にして肥え太っている連中だけ。この連中をバラバラにしたときにどういう反応が起こるのか、じっくり観察したいの」


 彼女はそこで言葉を切り、二人を射貫くような真剣な眼差しで見渡した。

 「はっきり言っておくけれど、これは非合法活動(ブラックワーク)よ。警察も、国家も、私たちの味方にはならない。もちろん、駒として利用はするけれどね……いい? 黙っていてくれるなら、今この場で辞退しても構わないわ。これは冗談でも試しでもなく、私の本気よ」


 地下空間を支配する、重苦しい静寂。だが、イカロスの答えは早かった。

 「辞退はない。正人様からこの件を依頼されたとき、既にその手の『匂い』は嗅がせてもらっていた。それを含めて、俺はあんたについていくと決めたんだ」


 クロサワも、穏やかな、だが岩のように揺るぎない微笑みを湛えて応じる。

 「お嬢様の不始末を片付けるのも、汚れを払うのも、すべては『執事』の延長線上の仕事。私も今さら、引き下がる理由などございませんな」


 女王と、彼女に魂を売った二人の騎士。「七時間労働」という奇妙な契約で結ばれた彼らの前に、暗く、けれどどこまでも自由な「遊び場」が拓かれようとしていた。


 玲子はダイニングテーブルの向こう、自分を選んだ二人を嬉しそうに眺めた。

 「ありがとう、二人とも……さて、これからは組織として動く以上、相応しい『名前』が必要になるわね。いつまでも私の『おままごと』と呼ぶわけにもいかないでしょう?」


 クロサワが、思案するように白手袋のはまった指先を顎に添えた。

 「表向きの社名(白坂先端AIシステム)を名乗るのは、流石に得策ではありませんな。あちらはあくまで、カモフラージュですから」


 「そもそも、株式会社にすらできない性質の組織だものね」

 玲子は楽しげに笑い、指先で空中に円を描いた。

 「少し考えていたのだけれど……ここはそれっぽく、『Black Well(ブラックウェル)』というのはどうかしら?」


 「“黒い井戸”、ですか。……悪くない。シンプルでいて、底が知れない響きですな」

クロサワが頷くと、イカロスもその名に含まれた意味を噛みしめるように、低く声を重ねた。

 「闇を、さらなる闇に葬る……か。俺たちの役割にはぴったりだ」


 「じゃあ、これで決まりね。私たちの組織名は――ブラックウェル」

 玲子は椅子から立ち上がり、窓のない地下空間の、そのさらに奥にある指令室の方角を見据えた。

 「今日はこれで解散。私はこれから、お人形に『魂』を入れる作業に移るわ。明日の昼頃、またこのダイニングに集まって頂戴。あなたたちに、私の可愛いお人形を正式に紹介してあげる」


 彼女の瞳の中で、先ほどまでの穏やかな光が消え、冷徹で青白い光がまたたいた。


 ――玲子は二人と別れた後、一人指令室の扉を開けた。

 壁一面のランプが、深い眠りにつく獣の呼吸のように青白く明滅している。冷却ファンが奏でる重低音は、教会のパイプオルガンのように空間を震わせていた。


 そこに、生命の気配はない。 あるのは、生命を模倣しようとする巨大な意志の集積だけだ。待機状態のその知性たちが、目覚めの瞬間を待っていた。


 玲子はコンソールに指を置き、自身にしか聞こえないほど小さな声で呟いた。

 「――マリー。メリー。さあ、私と一緒に『おままごと』を始めましょう」

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