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非合法組織を立ち上げて、スローライフを楽しみたい  作者:


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第五十七話 低温実験室

 玲子は建物内の入り口の脇の隠れた場所に、ドローン用の特殊電波中継デバイスを置くと、地下へと続く階段を下りて行った。地下低温実験室前の静まり返った廊下で足を止める。


 リュックからドローン二機を取り出すと、片膝をつき、床に置いた。

 起動音すら発さず、二つの小さな影がふわりと舞い上がる。それらは天井を這う複雑なダクトの隙間へと吸い込まれ、完全にその姿を消した。


 立ち上がると左右を見渡し、誰もいないことを確認する。扉の前のカードスキャナーにカードを滑らせ、ドアノブを回して扉の中に滑り込んだ。


 リュックからさらに取り出したドローン二機を素早く実験室の床に置く。ドローンはすぐに舞い上がり、部屋の陰へ姿を隠した。入った時と同様に、素早く部屋を出て扉を閉めた。


 「これでよし」

 玲子は満足げな笑みを浮かべると、翻って実験棟を出た。


 ――再び、移動司令部『シロ』の車内。

 後部シートに深く腰掛けた玲子は、キャップ帽と眼鏡を外した。後ろに結わえていた長い髪を解くと、さらりと流れる黒髪が日の光を反射する。


 「メリー。実験棟に置いてきたドローンたちのステータスを確認して」

 『玲子様、四機ともオンライン。擬態(ステルス)モード正常です。監視とハッキング――どちらも即座に対応可能です』


 「マリー。何かおかしな動きがあったら教えて」

 『玲子ちゃん、了解だよ! おめめをぱっちり開けて見てるから!』


 心強い返事に満足そうに頷くと、クロサワから差し出された湯呑みを受け取った。形の良い指を使って湯呑を口に寄せる。


 「さて……本当は私の取り越し苦労で終わって、何も起こらないのが一番いいのだけれど」

 一息ついた玲子に、運転席のイカロスがニヤリと笑って振り返った。


 「……お嬢、世間じゃそれを『ふらぐ』っていうらしいぜ」


 ――17時57分。

 地下二階、低温実験室の奥にある低温室。外気との急激な温度差を和らげるためのその場所には、厚手の防寒着に身を包んだ五人の学生が集まっていた。


 「あれ、案内役の人は? 俺たちだけか?」

 一人の学生が、誰もいない室内を見渡して首を傾げた。

 クリーム色の外壁に囲まれた、窓一つない殺風景な空間。部屋の隅には連絡用の内線電話と、中央にぽつんと置かれた大きな実験机だけが、重苦しい存在感を放っている。


 「まだ、開始まで三分あるし。もう少し待ってみましょうよ。大学の先生って、時間ぴったりに来るイメージあるしね」

 スマホで時刻を確認した女子学生が、のんきな声で入り口の扉を振り返った。

 背の高い男子学生、前髪を長く伸ばした大人しそうな学生、そして彼女の三人。どうやら同じサークルか何かの友人同士らしく、この「心理実験」さえもレクリエーションの一部であるかのように談笑を続けている。


 部屋の隅で、メガネをかけた男子学生が一人、スマホ画面をじっと見つめている。


 カタリストもメガネの学生と同じ様に、部屋の隅で専門書を読みながら実験が始まるのを静かに待っていた。

 (……さて、どんなことをするのでしょうか。とても楽しみですね)


 ふと、楽しげに笑い合う友人グループを眺めた。彼らから感じるのは、四万円の報酬に対する喜びと、実験に対しての好奇心だけだった。


 ――17時57分、同時刻。移動司令部『シロ』の車内。

 張り詰めた沈黙を破ったのは、マリーの緊迫した警告だった。


 『玲子ちゃん、見て! 警備員姿の男が実験室の入り口に近づいているよ……あ、ノブを鎖でぐるぐる巻きにし始めた!』


 モニターに映し出されたのは、玲子が設置したドローンのモノアイカメラが捉えた広角映像だった。

 先ほど玲子に声をかけてきたあの男が、一切の迷いがない動作で、扉の取っ手に太い鎖を幾重にも巻き付けている。仕上げとばかりに、鎖の結び目に南京錠をかけ、鍵をポケットに突っ込むと、男は足早に廊下から消えていった。


 「……あの男、実験棟で私を足止めしようとしていた奴だわ」

 物理的な封鎖。これは単なる「実験」ではない。明確な意志を持った監禁だ。


 『玲子様、あの男を追跡しますか? 今ならドローンで捕捉可能です』

 メリーのどこか心配そうな提案。


 「……いえ、今は駄目ね。逃げるネズミよりも、中にいる彩香の安全確保が最優先よ」


 玲子は前席の二人に鋭く指示を出した。


 「クロサワ、イカロス。最悪のケースを想定して、動く準備をしておいて頂戴」


 クロサワは顎を引き、シートの下に忍ばせた装備を確認する。

 「承知しました。いつでも」


 イカロスがハンドルの上で拳を鳴らす。

 「おうよ。お嬢のゴーサインが出りゃ、即座にあの鎖ごと扉を吹き飛ばしてやるぜ」


 車内のモニターに映る時計は17時58分を示していた。


 ――18時00分。結局、約束の時刻になっても教員たちは一人として姿を現さなかった。

 「……来ないね。ちょっと、様子を見てこようか」

 一人の学生が、実験室へと向い、出口へ続く扉に手をかけた。だが、ノブは岩のように微動だにしない。

 「あれ? 開かないぞ、これ……」


 その刹那、天井のスピーカーから、ノイズ混じりの歪んだ声が降り注いだ。


 『――皆さん、お集まりいただき、ありがとうございます』

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