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非合法組織を立ち上げて、スローライフを楽しみたい  作者:


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第四十四話 玲子のランクと初依頼

 二人のSランク誕生を見届け、どこか期待の眼差しで玲子を見つめるクロサワに対し、ぴしゃりと釘を刺した。


 「クロサワ、あなたは対象外よ。あなたには組織(Black Well)のトップとして動いてもらうんだから、プレイヤーとしての判定は無し。あなたが連れてきたコンサルタントたちも同様ね。彼らはあくまで『脳』。現場のランク付けには関与させず、コンサルと調査に集中してもらうわ」


 「……左様でございますか。少々、腕が鳴っていたのですがな」

 残念そうに肩をすくめる執事を横目に、玲子は不敵な笑みを浮かべてコンソールに向き直った。


 「さて、次は私ね。こんな面白いことを、私だけ外から眺めているなんてあり得ないわ……でも、マリー、メリー。大げさな判定は不要よ。私はCランクあたりから始めようと思うの。流石に新人扱いされるほど、腕は鈍っていないでしょうけれど」


 玲子の「自己申告」が室内に響いた瞬間、ダイニングの空気が一変した。

 そこにいた全員が、異口同音に、そして凄まじい熱量でそれを否定した。


 『玲子様、それは断じて承服できません。今までのどの実績データを参照しても結果は文句なしのSランクになります』

 『マリーも全力で同意! 玲子ちゃんはSだよ!』

 「お嬢様、それは謙遜を通り越して冒涜ですな」

 「お嬢がCなら、俺たちはFランクからやり直さなきゃならねえ」

 「玲子様……むしろSSSランクを新設すべきではないでしょうか?」


 嵐のような否定に、玲子は目を丸くして身を引いた。

 「ええ……? みんな、それは流石に買いかぶりすぎよ。私は現場で銃を撃つスキルもないし、心を読むスキルもないわよ」


 だが、追求の手は止まらない。今度は二体のAIが、プライドを懸けて玲子を追い詰める。


 『玲子様。戦略級AIである私に、Sランク未満の人間の指示に従えとおっしゃるのですか? 自己矛盾で停止してしまいます』

 『玲子ちゃん! マリーはSランク以外の玲子ちゃんの下で動く気なんてないもん!』

 「お嬢。あんたがCだったら、俺のこのSって看板が泣くぜ」

 「お嬢様、度を越した謙遜は時に猛毒となりますぞ」

 「玲子様。いえ、我が神よ! ぜひSを超える『神ランク』を今すぐ新設しましょう!」


 普段は冷静なカタリストまでが、心酔しきった目で「神」という言葉を口にする。

 四方八方からの「Sランク推し」の猛攻に、流石の玲子も両手を挙げて降参するしかなかった。


 「……分かったわよ。それじゃあ、私もSランクということで確定しましょう……もう、みんな本当に大げさなんだから」


 玲子が苦笑しながら承認ボタンを押すと、画面上には三つの「S」が並んだ。

 Black Wellという組織の絶対的な頂点が、改めて可視化された瞬間だった。


 ――ダークサイト立ち上げから一週間後。データセンター地下ダイニング。

 オイスターソースの上品な香りがキッチンを漂っていた。

 「本当にこの野菜って美味しいわよね」

 玲子は機嫌よさそうに鉄鍋を振るい終わると、あらかじめ盛り付けられていたご飯の上に中華丼の具を載せていく。

 「そう言って貰えると母も喜ぶと思います」

 カタリストは中華丼をトレーに載せ、嬉しそうにダイニングに運ぶ。

 「「「「いただきます」」」」

 クロサワはエージェントが本日から登録し始めた依頼をディスプレイに映し、中華丼を食べながら器用に説明している。

 「依頼番号は受付順です。日をまたぐと①から付け直されます。エージェントが整理できたものから順次公開される仕組みです」


 そういって案件ページを開いた。


 「記念すべき初日の案件は10件ありますな……これはセキュリティ案件です」


 依頼⑧:《運営サイトのセキュリティ強化コンサル》

 報酬:500万

 添付資料:システム構成図、別途資料


 玲子はレンゲを丼の端に寄せ、少しだけ興味深そうに眺めていた。

 「……これは、きっとお父様からね。どうして(4S)に依頼しないのかしら」

 クロサワはすまし顔で答えた。

 「国内では違法になる成人向けコンテンツの提供サイトだからですな。サーバーは海外にありますがグレーゾーンなのでなかなか受け手がいないみたいです。裏コンサルが鋭意活動中ですぞ」

 「あら、そう」


 コンソールを操作すると次の依頼がスクロールされた。


 依頼⑨:《美人局相手からお金を取り戻したい》

 報酬:15万

 添付資料:女性との会話メッセージ、脅された時の録音内容


 依頼⑩:《ネット詐欺師を特定したい》

 報酬:30万

 添付資料:アプリのやり取りの記録、振り込み記録


 イカロスはレンゲを持つ手は止めずに、意外そうな顔をしてまじまじと眺めている。

 「こんな依頼も受けているのか」

 「はい。他の若手メンバーにも仕事を振れるようにと、色々ツテをつかって集めています」


 カタリストはそわそわした感じでディスプレイを眺めていた。

 「私も依頼を受けてみたいです。クロサワ様、なにか私向けの依頼ってありますか?」

 「ふむ、そうですな……」


 その時、新規公開を示すアイコンが点滅した。依頼文はシンプルだったが内容が物騒なものだった。公開されたばかりの案件を開いた。

 依頼①:《新興宗教団体の殲滅》

 報酬:1000万+指名料100万

 添付資料:別紙参照

 特記事項:アイスエンジェルが指名されました


 「……おや、これは指名依頼です。指名されたのは……アイスエンジェル」

 玲子の目が輝いた。

 「ふふ……依頼①ということは最初のお客様ね。誰だか知らないけど、見る目あるじゃない。ちゃんとコードネームが使われているのもポイント高いわ」


 玲子とは対照的にイカロスは怪訝そうな顔をした。

 「なんか、嫌な予感しないか? だってまだ活動始めたばっかだぞ」


 クロサワは一瞬、ディスプレイから視線を外した。それから、いつもより丁寧な口調で言った。

 「はい。依頼主は……奥様ですな」


 それを聞いた玲子は肩をがっくり落とした。

 「……お母様」

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