表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非合法組織を立ち上げて、スローライフを楽しみたい  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/72

第四十三話 ランク制度導入

 夕暮れ時。データセンターのダイニングで、解散の挨拶を交わそうとしたその時、玲子が静かに右手を挙げた。


 「これから、Black Wellの全構成員に対して『ランク制度』を導入しようと思うの」


 クロサワが興味深そうに眉を動かし、相槌を打った。 「ほう、ランク制度ですか。それはまた、組織の血の巡りを良くしそうな試みですな」


 「いいんじゃねえか。誰が一番強いか、数字で分かった方が連中の気合も入る」

 イカロスも、戦士らしい視点から同意を示す。


その傍らで、カタリストが控えめに、どこか不安げに呟いた。

 「……私はまだ新入りですし、実戦経験もありませんから。きっと、一番下のランクからのスタートになりますね」


 その言葉に、カタリストを除く全員が『それはない』という無言の視線を向けたが、あえて誰もそれを口には出さなかった。玲子はコンソールを操作しながら、制度の意図を説明する。


 「実力を競わせるのが目的じゃないわ。実力不相応な依頼に手を出させて、無駄にメンバーを危険に晒したくないの。依頼の不達成に加えて、私の資産(メンバー)に損害が出たら、組織としては大赤字でしょう?」


 イカロスは納得したように頷いた。

 「なるほど、安全装置としての格付けか」


 玲子は人形達に視線を向ける。

 「判定は、客観性を保つためにマリーとメリーに任せるわ。どうかしら?」

 『いいよー! 過去の経歴から身体能力まで全部調べるね!』

 『お任せください、玲子様。忖度なしの、公平かつ残酷な分析を行いましょう』


 「なら、決まりね。ランクはDからSまでの5段階」

 玲子が空中にホログラムのリストを投射した。

 「Dは新人。Cは一定の経験者。Bは安定して依頼を完遂できる精鋭。Aは、その中でも組織の柱となる最高クラスのスペシャリスト……そしてSは、『代えの利かない特殊技能』や『常人には不可能な実績』を持つ者に与える、名誉ランクよ」


 玲子の瞳が、いたずらっぽく光る。

 「さっそく、ここにいる実行メンバーの二人をテストケースとして判定してみましょうか。マリー、メリー。お願い」


 沈黙は一秒もなかった。メリーが即座に、鈴を転がすような声で告げる。

 『判定完了――カタリスト様は、最高位「S」ランクです』

 『マリーもメリーに同意! ぶっちぎりのSランクだよ!』


 「えっ……!?」

 当の本人は、椅子から転げ落ちんばかりに驚愕した。

 「ど、どうして!? 私、まだ何もしてないのに……!」


 玲子は、評価の詳細をタブレットで確認した後、狼狽えるカタリストに向けて、優しく、けれど断定的な微笑みを投げかけた。


 「おめでとう、カタリスト。あなたこそがBlack Wellの最初のSランクよ……『人の心を読む目』と、それを『戦闘に転用する才能』。マリーたちの計算によれば、それは他の誰にも真似できない、唯一無二の特殊技能だそうよ。不服かしら?」


 「そんな……私、玲子様のお役に立てるなら何ランクでも構いませんが……Sなんて、責任重大です……」


 震えるカタリストの横で、イカロスが「へっ、俺たちの目も狂ってなかったってことだな」と愉快そうに笑った。


 こうして、Black Wellという闇の組織に、明確な「階級」が生まれた。

 それは恐怖による支配ではなく、玲子が個々の才能を正当に評価し、守るための聖域の証でもあった。


 玲子は満足げに頷くと、視線を隣の巨漢へと移した。

 「さて、次はイカロスの評価をお願い。彼は私たちの『盾』そのものだわ」


 メリーの返答は、やはり機械的なまでの速さだった。

 『はい。判定は「Sランク」です。それ以外にあり得ません』

 『マリーも、メリーに100%同意! 文句なしのSだよ!』


 二体のAI人形の言葉に、ダイニングの空気が引き締まる。玲子がその「根拠」を問うと、メリーは理知的な声で実績を列挙し始めた。


 『第一に、パンドラ・グローバルの極秘実験施設における被験者の解放。第二に、特殊詐欺拠点「Z」からの綾乃様の救出。これら全てのミッションにおいて、部隊を完璧に指揮し、味方に一切の損失を出さず、かつ速やかに完遂しました。これは単なる「優秀な兵士」の枠を超えた、戦略的重要人物としての業績と判断されます』


 「……そう言われると納得はするが、面と向かって褒められると、少し照れるな」

 イカロスは大きな手で短く刈り込んだ頭をガシガシとかき、視線を泳がせた。彫りの深い顔が微かに赤らんでいる。戦場では弾丸の雨の中でも眉一つ動かさない男が、AIによる客観的な「称賛」には弱いらしい。


 「ふふ、照れることなんてないわよ。あなたの腕が鈍れば、Black Wellの安全性は一気に崩れるんだから。誇りに思ってちょうだい、Sランク様?」


 玲子のからかうような微笑みに、イカロスは「……応よ。そのランクに恥じねえ働きは見せてやる」と、不器用ながらも力強く応えた。


 カタリストとイカロス。

 Black Wellという組織に、二つの「S」が刻まれた。一人は、未来を予見する「目」として。もう一人は、全てを粉砕する「拳」として。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ