表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非合法組織を立ち上げて、スローライフを楽しみたい  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/71

第二十七話 一流の支配

 ――以前、なにげなく正人が玲子に言った言葉が脳裏によみがえった。

 ――4Sの会長室にて。

 「玲子、お前に支配哲学を教えてやろう」

 上機嫌な父が玲子に伝えた言葉。

 「力で支配する者は三流。人心掌握で(なび)かせる者は二流……敵対する者の論理を解析し、その逃げ道を全て塞ぎ、自らの服従を切望させる者こそが一流だ」


 「……プロフェッサー。あなたの『三流の支配』を、私の『一流の支配』で塗り替えてあげるわ」


 ――30分後。

 イカロスから作戦完了の報告が入った。

 「お嬢、拠点は全て制圧した。親玉の『ぷろふぇっさー』だったか? お嬢と話したいそうだが、どうする?」

 「さすがプロね……仕事が早いわ。あと、プロフェッサーに伝えておいて。『くず』とは話す気はないってね……それよりスカル・ラッツのメンバーをロビーに集めておいて。ちょっとした演説をするから」

 言い終わると、玲子は高級感のあるヘッドセットを頭に付けた。


 ――廃ホテルのロビーに集められたスカル・ラッツのメンバーたち。 暗闇の中、ドローンがプロジェクターで投影した「Black Well」のロゴ(紋章)だけがロビーの壁に青白く浮かび上がり、そしてドローンの全方向スピーカーから玲子の、鈴の音のように澄んだ声が響き渡る。


 「……皆さん、こんばんは。私はBlack Well(非合法組織)のオーナーよ。混乱しているでしょうけれど、落ち着いて私の話を聞いて。あなたたちには今、二つの選択肢があるわ」


 わざと間を空けて、玲子は選択肢を告げる。

 「一つは、私の組織に入って私の庇護を受けること。もう一つは、このまま警察に引き渡されること。好きな方を選びなさい」


 ざわつく男たちを遮るように、玲子はクスクスと、だが冷ややかに笑った。

 「一応言っておくけれど、日本という国は犯罪者にはとても厳しいわ。前科、実刑、社会的な静かな死……刑期を終えた後、まともな職に就けず、世間に石を投げられながら生きる人生。それがあなたたちの選択可能な『未来』よ……ねえ、まともな人生が送れるといいわね?」


 絶望がロビーを支配する。玲子は片方の選択肢が「社会的な死」しかないことを淡々と告げた。


 「私は、あなたたちの側に転がっている『くず(教授)』のように、恐怖や暴力であなたたちを縛るつもりはないわ。私のゲームに付き合ってくれるのなら、あなたたちの人生の質も、再就職先も、私が責任を持って考えてあげる」


 「ただし――」

 声の温度が、一瞬で絶対零度まで下がる。


 「裏切った時は、死んでもらう。それも、ただの死じゃない。この世に存在した痕跡ごと、綺麗に清掃させてもらうわ……あなたたちの後ろにいる『専門家』たちがね」


 闇の中から、雅から派遣された二人の清掃員が、無機質な視線でメンバーたちを射抜く。


 「私のゲームはね、社会のシステムを食い物にしている、肥え太った『本物の悪党』を抹殺すること。面白そうでしょう? 世の中を必死に回してくれている、つまらない善人たちをターゲットにする気はないわ……私と一緒に、この腐った世界をハックしてみない?」


 沈黙。そして、一人の若者が震える声で叫んだ。

 「……助けて、くれ……俺、(教授)に脅されてただけなんだ……俺、あんたのゲームに参加したい!」

 「俺もだ!」

 「警察は嫌だ、助けてくれ!」


 一人、また一人と、彼らは自らの意志で膝を突き、闇の中にいるはずの「新しい主」に救いを求めた。全ての逃げ道を塞がれた彼らは、今や服従を「切望」し始めていた。


 玲子は演説を終えると、ヘッドセットを頭から外し、脇にどけた。

 「ふう、演説終わり。クロサワ、どうだったかしら?」

 「お世辞抜きで名演説でしたな。私が彼らの立場でしたら一番にお嬢様に服従を誓うでしょう」

 「それはよかった……もうひと仕事ね。クロサワ、カレー作るから手伝って……材料足りるかしら?」

 クロサワは玲子をまるで孫娘をみるような目で慈しんだ。

 「もちろんですとも……材料の心配も必要ありません。籠城戦も可能なよう食糧スペースに、たんまりと積んであります」


 ――2時間後。

 若者たちが跪き、ロビーが嗚咽と懇願に包まれる中。 「シロ」の後部にあるキャビンモジュールから、張り詰めた空気を和らげるような、芳醇で温かなスパイスの香りが流れ込んだ。


 「――お前ら、オーナーの温情に感謝しろ。ここからは契約の話だ」


 イカロスが大鍋二つを運び出し、無造作にロビーのテーブルの上へ置いた。ブルームとダストパンの二人が、流れるような動作で紙皿を並べ、黄金色のカレーを盛り付けていく。


 「Black Wellはプロの集団だ。お前らを『家畜』としてではなく、『牙』として育てる。一日7時間勤務、週休2日。残り5日の内、1日は自由行動。夏休みと冬休みはそれぞれ二週間だ」


 絶望の淵にいた若者たちの前に、湯気を立てる一皿が置かれる。

 「……え? 休みがあるのか?」

 「嘘だろ、ここじゃ寝る間もなかったのに……」

 「冬に実家に帰れるかな……?」


 イカロスは鋭い眼光で彼らを射抜いた。

 「勘違いするな。これは最高のパフォーマンスを出すために用意したものだ。オーナーのゲームは遊びじゃない。心身ともに磨かれた牙でなきゃ、一秒で死ぬことになる……まずは黙って食え」


 若者たちは、震える手でスプーンを握った。一口食べた瞬間、暴力と恐怖で麻痺していた味覚に、玲子の慈愛(と、隠し味の計算尽くされた旨味)が爆発する。


 「……うめぇ……うめぇよ……っ!」

 誰かが泣き出し、それは瞬く間に全員へと広がった。温かい食事が、彼らの凍りついた心を溶かし、論理を超えた忠誠心を胃袋から刻み込んでいく。


 その様子を「シロ」の中から見届けていた玲子は、優雅にカップを置いた。


 「クロサワ、後始末をお願いね……『檻』の準備はいいかしら?」

 「ええ。ブルームとダストパンが、すでにプロフェッサーを“梱包”しております。青木様を通じて、奥様への最高の手土産になるでしょう」

 玲子は満足げに頷くと、モニターに映る「新しい兵隊」たちの姿を見つめた。今夜、一つの犯罪組織が消滅し、Black Wellに飲み込まれた。


 その後、玲子は思い出したようにクロサワに指示を出す。

 「クロの中の彼は解放して廃ホテルに移して」


 クロサワは一礼し、玲子に尋ねた。

 「奥様には何と?」

 「私から話すわ……少し考えがあるの……マリー、メリー、ホテルのリノベーション・プランを策定しておいて。ここを正式に買い取って、私たちの『城』の一つにしたいわ……ひと眠りした後、彩香にも会いに行く」

 人形たちの了解の言葉を聞きながら、一度大きく伸びをする。

 「働きすぎね……」

 愚痴ともつかない呟きを一つした後、玲子はロフトのベッドの中で深い眠りについた。

 夜明けの光が、廃ホテルの窓から差し込み始める。Black Wellの長い夜は、最高の勝利と共に幕を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ