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非合法組織を立ち上げて、スローライフを楽しみたい  作者:


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第二十五話 制圧

 「シロ」の強力なライトに射抜かれ、クロはもはや夜闇に逃げ込むことさえ許されない。


 「あの嬢ちゃんを回収してくる。旦那、バックアップしてくれ!」

 運転席のドアを勢いよく開けたイカロスは、返事も待たずに野獣のような速さで駆け出した。


 「承知いたしました……メリー嬢、ドローン1号機と2号機で周辺の熱源を監視。逃げ出す鼠がいたら、ドローン5号機でその眼を焼いてやりなさい!」

  珍しく高揚した様子のクロサワも、ステッキを手に執事らしからぬ身軽さで後に続く。


 取り残されたメリーが、ぽつりと呟いた。

  『……クロサワ様、承知しました……ってもう、聞こえていませんね』


 玲子はその様子を可笑しそうに眺めながら、シートに深く背を預けた。

 数分後。イカロスがワンボックスのドアを力任せにこじ開け、意識を失った彩香をその太い腕に抱え上げた。


 「……彩香ちゃん、無事だね。よかったぁ……」

 マリーの安堵の声が車内に響く中、クロサワは逃げ惑うスカル・ラッツのメンバーへ、踊るような足取りで近づく。ステッキが空を裂くたびに、男たちの関節が的確に叩かれ、呻き声と共に無力化されていった。


 「イカロス、彼女をシートへ……クロサワ、このドブネズミ三匹の処理はどうする?」

 玲子の冷たい問いに、クロサワは血の付いていないステッキを整え、冷酷な笑みを浮かべた。


 「処分するのは容易いですが……奴らの拠点は50キロ先の廃ホテル。そこにはまだ『動ける手足』が数十ほど残っているはずです」


 玲子はモニターに映る構成員名簿を指先でなぞる。

 「そうね。Black Wellも、いつまでも私たちだけで動くわけにはいかないわ。下働きが必要よ……マリー、メリー、廃ホテルの構造スキャンと解析をお願い。イカロス、突っ込むわよ」


 その矢先。 静寂を取り戻しつつあった森の道に、一台の高級車のライトがあたりを照らしながら、威容をもって近づいてきた。


 それを見た玲子は、驚きの声を上げる。

 「あっ、お母様の車……」

 滑り込んできた漆黒のセダンの後部ドアが、運転手の青木によって恭しく開けられた。 そこから降りてきた雅は、今にも泣き出しそうな、いじらしいほどの心配顔を湛えていた。

 「玲子、無事なの!? 夜中に凄まじい音が聞こえてきたから……心配で心配で様子を見に来てしまったわ」


 玲子は車を降り、淑女の所作で深く雅に頭を下げた。

 「お母様、夜分にお騒がせして申し訳ありません。ご心配をおかけしました」


 ゆっくりと頭を上げた玲子の顔は、か弱き“お嬢様”としての「悲痛な表情」を完璧に作り上げている。

 「……キャンプリーダーの彩香さんが、悪意ある者たちに攫われそうになったのです。でも、もう大丈夫。今は私の車の中で休んでもらっています」


 それを聞いた瞬間、雅の表情から温もりが霧散し、絶対零度の「氷」へと変貌した。

 「あらあら……私が大切にしているお友達を、そんな目に遭わせるなんて。玲子、そこに転がっている『殿方』たちが、その不届き者かしら?」


 雅は微笑みを向けるが、その瞳は一切笑っていない。ただ、深い夜の深淵のように、無機質な殺意が揺れているだけだ。

 「……お掃除が必要なようですね。ねえ、青木さん?」

 傍らに控える運転手の青木が、一分の隙もない綺麗な所作で一礼した。

 「はい。奥様、すでに手配済みです。本職(プロ)の清掃員たちが、間もなく綺麗に清掃してくれるでしょう」


 玲子はそのやり取りだけで、即座に悟った。 雅にこの「ドブネズミ」たちを引き渡せば、彼らは肉片一つ残らず消滅させられるだろう。それは組織の防衛としては正しい。けれど、今のBlack Wellに必要なのは死体ではなく「手足」だ。


 玲子は、あえて雅の懐に飛び込むような甘えた声で切り出した。


 「あのね、お母様。その三匹のうち、一匹だけ――大人しそうなのを私の元に残してくれないかしら?」

 雅が、慈愛に満ちた(恐ろしく鋭い)視線を娘に向ける。

雅は組んだ腕の指先をそっと頬に当て、小首をかしげた。

 「あら、玲子。こんな汚れたものを、一体何に使うつもりなの?」


 玲子は両手を後ろで組み、小悪魔のような悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 「ドブネズミの巣まで案内させようと思って。徹底的に掃除するために。また変なのがうろちょろされても困るでしょう?」

 「……それもそうね。分かったわ、一匹だけ貸してあげる。その代わり、使い終わったら『檻』に入れて青木に送って頂戴。処理はこちらでするわ」

 雅は満足げに頷くと、視線を「シロ」の車体へと向けた。

 「それから……彩香さんは私が引き取るわね。イカロス、こちらの車への移動、お願いできるかしら?」


 それを聞いたイカロスは、背筋を鋭く伸ばし、靴のかかとをカツンと鳴らして一礼した。

  「もちろんです、雅様。喜んで」


 彼はシロへ戻ると、せっかく寝かせた彩香を再び優しく抱き上げ、雅のセダンへと静かに移し替えた。


 「それではお母様、一匹お借りしていきますね――イカロス、あちらのワンボックスの運転をお願い。ドブネズミから情報も聞き出して」

 イカロスは玲子に一礼を返すと、地面にうずくまっていた運転手だった男をゴミ袋でも扱うようにつまみ上げた。そして、乱暴にワンボックス(クロ)の助手席へ放り込み、自らも運転席に陣取った。


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