表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

私が真犯人である。沙汰はまだない。

作者: 三毛狐

 私が真犯人だ。


 いま目の前で冤罪が生まれようとしている。

 

 私は本懐を遂げたので捕まっても構わなかったのだが、自首をするのも癪なので「やってない」とだけ嘘をついた。

 何のアリバイも用意していない杜撰な嘘である。


 さっさと証拠を揃えて私を確保するといい。

 そう思い待機をしていたのに、まさかの冤罪である。


 しかも事もあろうに完璧なアリバイを崩してまで、冤罪を作った。


 正気か?



 たまたま同じホテルに探偵が寝泊まりしていた。

 そこで私が事件を起こした。

 事件を調べた探偵は泊まっていた13名をエントランスに集め、推理を披露し、完璧なアリバイをひとつ崩してから冤罪を作った。


 「犯人はあなたです!」と指まで向けて。


 ビシッとやらかしている。


 何だか申し訳ない。

 自首をする気はないのだが、そんなに難しい事件だっただろうか。


 名指しされた容疑者は膝から崩れ落ちた。

 まるで犯人のようだった。


 嫌疑をかけられている残り11名もホッとした空気をだしている。

 まるで犯人が特定されたかのようだった。


 漸く解放されると思ったに違いない。


 繰り返すが冤罪だ。

 犯人は私なのだから、それ以外は冤罪なのだ。

 つまり事件は終わっていない。


 犯行についても、その際に容疑者扱いされるであろう人々についても、私の中ではもう踏ん切りがついている。


 だからその辺りについては、青空の下にいるような清々しい気持ちしかない。

 詳細は教えられないが私の我儘に付き合ってくれてありがとう、と感謝の念すらある。


 だが探偵は別だ。

 私が想定したのはあくまで警察に捕まるという展開だけだ。


 探偵が探偵ムーブをしたあげく胸を張って冤罪をつくるだなんて望んでいない。


 私はミステリ小説が大好きなのだ。

 唯一の趣味といっても過言ではない。

 こんな探偵は嫌だ。

 

 そのとき探偵がハッとした顔をして「私は思い違いをしていたようだ」と口走った。

 聞こえてくる独り言から、どうやら推理の穴に気が付いたようだ。


 そうか。気が付いたか。

 大丈夫だ。まだ間に合うぞ。


 名指しした時点で冤罪が確定したのかと思ったが、まだ可能性はあったようだ。

 

 探偵は新たな推理を披露しながら、私達の前を横切っていく。

 そして足を止めた。


 犯人はあなたですね、と口走った探偵の姿を私はそこそこ離れた位置から眺めていた。


 こうして二人目の冤罪候補に探偵は指を突き付けて、確信をこめて名指しする。


 冤罪を受けた容疑者は泣き崩れた。

 まるで犯人のようだった。


 でもこれは犯行がバレた嘆きではなく、冤罪を受けた悲しみだと私には判る。


 本当に私しかこれ判っていないのか?

 探偵がこれなら優秀な助手とかいるんじゃないの?

 この探偵、普段からこうなのだろうか。


 私は胸が痛い。


 私が犯行を思いとどまってさえいたら、探偵による冤罪は起こらなかったのだろうか。


 重い罪悪感で潰されそうだ。


 探偵がまた何かに気が付いたようで、推理をやり直している。


 でもその内容はやっぱり見当違いだ。


 あぁ、なんてことだ。


 事件なんて起こすんじゃなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ