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第14章:戦の息吹からパンのぬくもりへ

僕は目を閉じ、鉄と血が混じる風の匂いを深く吸い込んだ。

血の匂いを運ぶ風。草は真紅に染まり柔らかく潰れていた。

三体の死体が大地に広がっている。

うち一体は馬車護衛の制服を着ており、残り二体は山賊風なボロ革服だった。


――右から、低い声が雷鳴のように響いた。

「お前は誰だ?」


目を開け、右を見ると山賊たちが隊列を組んで立っていた。

ただの雑魚ではない。緊密な布陣――前衛に剣士と双剣使いの女、弓手が男ひとり女ひとり、低姿勢の魔導師。

そして最前列には、筋骨隆々の体躯の男が立っていた。褐色の髪に傷跡が刻まれ、胸には革ベストだけ。肩には金属の肩当て、大きな戦斧を肩に担いでいる。


「…また斧か?効率いいのか?」という思考を巡らせていた。


【セバス】「マスター、魔法ダメージ付与された武器は検知されていません」

【セバス】「防御貫通や防御無視のスキルもありません」


「情報を出せ」と命じる。


スキャンを終え、判断した。

こいつらは殺意がある。容赦する必要はない。


護衛の山賊たちは動きを取り戻そうとしていた。

「おい、答えろ!」とリーダーが叫ぶ。


僕は右手を上げると、風が鎖状に変化。腕、脚、胴を縛り、口元にも巻きつけて呪術的に封じた――リオラに聞かせないように、呪いの言葉も遮断する。


左腕の毛皮に包まれたリオラを見る。小さな両手が僕のシャツにしがみつき、じっと目を見開いて、僕が約束を守るのを待っているようだった。


「全員バラバラに粉飾してやろうか、心臓を風で破裂させて内臓を空気切れのように切り裂こうか、骨から水分を抜き取ろうか…?」と空想に耽る。


【セバス】「体内の水分を抽出することは可能ですが、未経験の技術なので高度な集中が必要です」


山賊たちはそのまま動けない。すると馬車側から声がかかる。

「冒険者さま、どうか助けてください。いくらでも払います!」


声は震えていたが確かに必死だった。

頭には動くべき計画が自然に浮かんでいた。


【セバス】「マスター、お望みなら10秒後に三、二、一とカウントダウンしましょう。私は時間を計ります」


頷いて、


「リオラ、出てきて。ね?パパは誰も傷つけたりしないよ」と優しく誘った。


リオラは両手を毛皮にかけ、ゆっくり顔を出す。「ほんと?」


「うん。パパが約束したでしょ?」と促すと、

「うん、パパは約束した…」と彼女は小さく呟いた。


「ほら、見て」と指差すと、リオラは縛られた山賊たちをじっと見つめた。

顔は鎖に隠れて表情は見えないが、目からは恐怖や衝撃、リーダーは怒りがにじんでいた。誰かが瞬きをして目を閉じた。


【セバス】「武器と地面の血痕を浄化しました。リトルミスが精神的に動揺しないよう配慮しました、マスター」


僕は静かに感謝した。リオラの記憶に良くないものを残さないのが最優先だった。


「どうして動かないの?パパ?」とリオラが声を震わせた。


「リオラ、数を数えるのを知ってる?」と僕が訊くと、彼女は首をかしげ、「カウント?」と困惑した顔。


「じゃ数字を覚えようか?」と提案すると、リオラは頷いた。


「三」

「スリー」と小さく彼女が真似る。可愛すぎる。


「二」

「トゥー」


「一」

「ワン」できた瞬間、僕は指を鳴らした。


すると風がほどけ、山賊たちは眠りに落ちた。まるで糸が切れた操り人形のように、倒れていく。


リオラは目を見開いた。「どうしたの、パパ?」


「パパが寝かせたの。今から“ピカピカの人たち”に連れて行くね。そしたら良い人になれるかもよ」と説明した。


リオラは少し困った顔。


そのときお腹が鳴った。


「お腹すいた?食べる?」と気をそらすように話題を変えると、

「うん」と彼女が答えた。


——馬車側から再び声があった。

「彼らはどうなった?」と震える声。


僕は御者に向けて口元に指を当て、黙るように合図した。

彼はリオラが毛皮から顔をのぞかせているのに気づき、小さく頷いた。


「こちらへどうぞ。食料があります。娘さんにも与えてください」という。


馬車に近づき、僕は中に座った。

外では負傷兵が仲間を助け、薬を渡す様子が見える。

『なんで今まで使わなかったんだろう…?』と思った。


突然、リオラの小さな手が胸をトントンと叩く。

「パパ、パパ」と。


「うん、さあ食べよう」と答えた。


「リオラ、あの甘い赤いヤツ、また食べる?」と彼女が期待のまなざし。


「うん。またジャムパンを食べようね」と僕は微笑む。


——ちょっと待て。こんなに甘いもの食べて健康に大丈夫か?

配送の人は兵士の世話をし続けてるし、無断で物を取るわけにもいかない。


――その時、透明な青のパネルが目の前に現れた。


【 日用品に販売されるすべての商品は、化学合成物や防腐剤を一切使わず、自然由来の成分のみで構成されており、砂糖も無添加の天然甘味です。 】


混乱しつつも、リオラは食事を待っている。

僕は疑問を脇に置き、リオラを膝の上に安定させ準備をした。


「セバス、昼食サービスを開始して」 と頼むと、


まず透き通る水のボトルが2本現れ、横に水滴が伝う。

次にパンの塊が浮かび、均等にスライスされながら宙に漂う。

ジャムが一つの透明な赤い球体となってパン片の上にゆっくりと広がる。


パン片は風に乗って宙を舞い、ひとつひとつがジャムに触れてはリオラの元へ戻っていく。


馬車の天蓋から差し込む光がジャムの艶を反射し、動きと共に美しく輝いていた。


「パパ、パンが踊ってるよ」とリオラが指を差して喜んだ。


彼女は目を輝かせながらひとつ手にとり、口に運ぶ。

甘酸っぱいジャムと、香ばしい焼きたてのパンの香りが漂う。


『素晴らしいプレゼンだ、セバス』と僕は心で称えた。


【セバス】「私こそ光栄です、マスター」


「パパ、どうぞ」 とリオラがジャムをのせた一切れを差し出す。

彼女のその心遣いが胸を温かく満たした。


僕はかじりつき、甘さが舌の上で弾けた。

『美味しい』 と僕は思った。


「おいしい?」 リオラが舌足らずに訊く。

「うん、とてもおいしかった」と笑い返す。


リオラは次々にパンを食べ続け、ほぼ半分を平らげた。

そして眠気が訪れたように目をこすりあくびをした。


「眠い?休もうか」 と優しく促すと、彼女は頷き、僕の胸に頭を預けて眠った。


僕は髪を撫でながら思った。『この毛皮が本当に気に入っているみたい…でもまたすぐに眠くなるのは?』


【セバス】「マスター、小さな体ですので栄養吸収の速さに伴う眠気は通常です」


「そうか。すぐに元気にしてみせるよ」と頭を優しくなでた。


足音が近づき、馬車の御者が軽く頭を下げながら戻ってきた。


「再び助けてくださり感謝します。私は商人のコリン・ベリスと申します」

彼は礼を尽くしながら話していた。


僕は軽く頷く。


「もしよろしければ、仲間の兵士の遺体を後部に置いてくださって構いません。家族へ返す必要がありますので」

と丁寧に尋ねられ、僕は静かに答えた。

「構いません」


リオラに嫌なものを見せないよう考えながら。


「ありがとうございます」御者が言い、周囲を見回して微笑んだ。


「こちらの箱にご自由にお取りください。今朝収穫したばかりの果物があります」


僕は感謝を込めて頷いた。


御者は兵士たちに新しい指示を伝え、やがて傷兵たちは同僚を優しく馬車へ乗せた。


「助けてくれてありがとう」兵士たちは深く頭を下げて感謝の意を示した。

僕はただ頷いた。


やがて眠った山賊たちも馬車に載せられる。


「これで最後です」と一人の兵士が告げた。


木と革の軋む音がし、馬車はようやく動き出した。


しばらくして、

「あなたは彼らに何をしたのか?」と兵士が訊く。

「眠りの呪文をかけただけです」と僕は即答した。


「新しい呪文か?不眠症や悪夢に苦しむ人に役立つかもしれない…」と商人が言えば、

「副作用もあります。体への影響があるので気軽には使えません」と僕は慎重に説明した。


「どの魔法塔に所属しているのか?」と訊かれ、

「所属なし。森で一人で魔法を研究していました。外に出るのも久しぶりです。金はいるんですか?」と即興で返答。


(イセカイあるある確認だな。関所とか料金とか? ジャムを売るお金儲けもあるかな)と心で考えながら。


「冒険者IDカードがなければ通行料がかかります。ただし命を救ってくれた恩があります。料金は私が負担します」と商人。


僕は感謝の意を示して頷いた。


「ほら、着きましたよ」 と彼が案内し、馬車は穏やかに停まった。


――続く――

最後の章を書き終えてタイトルを付けたとき、思わず笑ってしまいました。ゼロが受けたトラウマのことをすっかり忘れてました!タイトル自体は正直、可愛くてちょっと面白いんですけどね。


今回はアクション少なめの回でしたが、次回からまた勢いをつけていきます。

たくさんのコメントありがとうございます。そして、読んでくださって本当にありがとうございます!

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