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第11章:あの日、僕を救ってくれた彼女

僕は木の根元に腰を下ろしながら、考えていた。


「セバスの言う通り、人間以外に子供をちゃんと治療できる存在としてエルフもあるけど…」

「――問題が大きすぎる」

「今、僕らがどこにいるのか全く分からない」


僕はため息をひとつついた。

「巨大な木は見当たらないし、獣以外の気配も感じない」と。


【セバス】「マスター、適当に方向を定めて進んでみましょう。遅かれ早かれ誰かに出会います。その時、最寄りの都市やエルフの領域の方向を尋ねればいいです」


「その通りだ、セバス。少なくとも動き出すべきだ」と僕は思った。


すると、僕の腕に抱かれていた子供が、まだたくさんの食パンとジャムを残しているのに気づいた。


「十分食べたのかな? それともまだお腹いっぱいじゃないのかな?」と思った。


子供はゆっくりと、確かに楽しそうに食べていた。それに僕もちょっと安心した。


【セバス】「子供はとても気に入っているようです、マスター。すでに丸一斤分を平らげました。お皿を二回補充しました」


「そうか」僕は微笑んだ。

「よかった」と。


「他に重要な通知、見逃してない?」と聞くと、


【セバス】「ミニマップが解除されました」


「おおっ!」と驚いたが、すぐに興味が薄れた。


「でも…今さら何の意味があるんだろう。もう僕には全部を感知できる」と少し残念な気持ちになった。


【セバス】「すべて視覚的に表示されているだけです、マスター。ただし周辺地形の詳細表示も可能なので、感知に慣れるまでは無理しなくて済みます」


「それはありがたい」と僕は思った。


「今は無敵に近い気もするけど――普通の人と比べたらの話だ」と自分に言い聞かせる。


「飢えて死ぬこともあるかもしれない。毒にやられるかもしれない。そして鬱陶しい“英雄”たち…」とも考えた。


「アニメでは、英雄ってたいていぶっ壊れた能力を持ってるよな」

「誰かが全ステータスを速度に振ってたら? 僕の感知で追い切れない速さだったら?」

「防御や盾を完全に無視する武器を持ってたら? リバーサルフィールドは消えたし、新しいスキルが盾と見なせるかも分からない」

「自由に生きるには、まだまだ遠い――強さが足りない」


【セバス】「毒耐性はショップで購入できます、マスター」

【セバス】「価格は10,000ポイントです」


その値段を見て僕は言葉を失った。


「…それを思うと、あのマナ特性パッケージが1000ポイントで済んだのは相当割引されてたんだな」と思った。


ふと思い出した。以前に欲しかったスキルがある。


「セバス、『他者を見る視覚』のスキルを手に入れてくれ」


【セバス】「1000ポイント必要です、マスター」

【セバス】「『異世界視覚』を購入しますか?」


「イセカイ物語では最重要でぶっ壊れたスキルだ」

「敵を知ることが戦いで最大の利点だし、食料は十分ある」

「買おう」


【ショップ:残り30ポイント】

【異世界視覚を取得しました】

【説明:召喚された英雄に与えられる特別なスキル。誰にでも何にでも詳細情報を見ることができます】


「これでだいぶ楽になるはずだ」と僕は周囲を見渡して思った。


冷たい微風が顔を撫で、僕の感知範囲が拡がった。

木の粗い樹皮、若葉の柔らかな揺れ、下草に潜む見慣れない異世界の植物の集団すら感じられる。


ひとつ、異常なほど強いマナを放つ植物に視点を合わせた。


【セバス】「その植物はアウレフローラと呼ばれます。回復薬の主要素材です」

【セバス】「この個体は質が高いです」


「あれ? 生で食べることはできるのかな?」と興味本位で聞いた。


【セバス】「未加工では効果は微少です。精神を和らげ、軽い疲労を癒す程度です」


「加工すれば?」と聞くと、


【セバス】「一つの薬草で、低・中級薬を複数作れます。高級薬なら二本ほど」

【セバス】「低級薬は切り傷や軽疲労を癒し、中級薬は深い傷や中程度の疲労、精神疲労まで回復、高級薬は深肉外傷を封じて回復力・スタミナ・疲労を一気に...迅速に使えば切断された肢体の再接着も可能です」


「すごい…価格も相当だろうな。みんな戦闘中にスーパーポーションを乱用できないはずだ」


「回復魔法と比べてどうなんだ?」と聞くと、


【セバス】「その効果は低〜高級回復魔法に相当します、マスター」

【セバス】「ただし、神聖なパワーが純粋であるほど癒し効果は強くなります」


「なるほど。エルフは世界樹を心から崇めてるんだから、自然と癒しに長けているはずだよな」


【セバス】「正しいです、マスター」


子供に目を向けると、彼女は食べるのをやめていて、数片のパンが残っていた。

でも彼女は僕をじっと見つめていた。戸惑いと無言の問いが瞳に映っていた。


ジャムの赤い跡とパンくずが口元に残っている。


「考え込んじゃってた」と僕は気づいた。


「他に何か食べたいものある?」と優しく聞くと、

子供は首を横に振った。


次に彼女はペットボトルを持ち、僕に見せた。空になっていた。


僕はそれを取り、背中に隠して新しいボトルと取り替えた。


「はいどうぞ。ちゃんと満タンだよ」そう言って穏やかに微笑んだ。


彼女は驚きと好奇心で目を見開き、再び僕を見上げた。

答えを探すような表情だった。ただ、僕には答える準備がない問いばかりだった。


僕はボトルから彼女の唇に水を促すように指さした。

彼女は瞬きし、瓶を見て、思い出したように――ああ、のどが渇いてた――と飲みだした。


勢いよく飲み、そして小さな手の甲で口を拭った。

頬に水とジャムが混じって染まる。


僕はその姿を見ながら胸が温かく満たされるのを感じた。


だけど――それでも訊かねばならない質問があった。

過去の暗い記憶を越える前に、彼女の人生に少しでも良いものを刻みたかった。どこから始めればいいのか分からなかった。


「君は家族のところに戻りたい?おうちあるの?」と僕は打ち明けるように訊いた。


彼女の表情は暗く沈み、首を小さく振った。

それだけが、僕に必要な答えだった。


落ち着いた呼吸を整え、僕は言った。


「これから、僕と一緒にいたい?」


子供はゆっくり目を見開き、数拍の沈黙のあと、涙をためたまま頷いた。


僕は微笑んで、彼女の濡れた髪を優しく撫でた。


「これからはずっと家族だよ。もう心配しなくていい。僕が君を守る。僕が面倒を見る。」


彼女の悲しげな表情が、控えめな微笑みに変わり、喜びの涙が瞳に浮かんだ。


そして――彼女は訊いてきた。


「なにって呼べばいいの?」


僕の頭には「ミスター」「おじさん」「お兄ちゃん」…という言葉が浮かんだけれど、

彼女が二語目に発した言葉が、僕にはっきりと響いた。


「パパ」


僕は驚いて目を見開いた。

「パパ?」と思わず口にした。


彼女は首をかしげながら、もう一度その言葉を繰り返した。

そして僕の反応を待つような顔をした。


「…うん?」と僕が言うと、彼女の下唇が微かに震えた。


優しく腕を取り、僕は彼女を抱きしめた。


「これからは君が僕の娘だよ」


その瞬間、胸の内に温かさが溢れた。

彼女は笑顔で僕を抱き返した。

言葉は必要なかった。僕には守るべきものが、そこにいるという確かな感覚があった。


——しばらくして——


僕は彼女を高く持ち上げ、ゆっくり空中に回した。


「まず、君をきれいにしよう」

彼女は僕のジャムのついた服を見つめた。パンくずだらけだった。

僕はため息をひとつついた。


「僕もふたりとも、洗わないとな」


彼女の足元に風が巻き起こり、数センチだけ地面から浮かせた。

最初は楽しそうだったけど、次第に驚き始めた。

僕は咄嗟に抱き戻した。


「大丈夫だよ――僕なんだから。君を絶対傷つけないって約束したでしょ」

と僕は囁いた。


彼女はうなずき、僕にしがみついた。


「一緒にやろう」


僕は立ち上がり、風を強めた。

二メートルほど、森の床から浮かび上がった。


霧のような空気から水が凝縮し、僕らの足元を洗うように上昇した。

それはゆっくりと僕の腹、次に彼女の脚へ――ほんの少しだけ足を離れた高さで止まった。


彼女はその水を見つめ、次に僕を見つめた。

そっと胸に顔を寄せる――触れそうで触れたくない気持ちだったのだろう。


僕は髪を撫で、微笑んだ。


「信じて」


彼女は僕を見つめたままで、僕はその無言の同意を受け取った。


水は首まで上がり、僕らを浄化し洗い流した。

強く息を吸い、目をつぶり、そして二人同時に吐いた。

目を開けると、互いに安堵の笑顔が返ってきた。


「怖くなかったよ」


風が戻り、濡れた服や髪を優しく乾かした。

僕らはゆっくりと地面に降り立った。


僕は彼女のボロボロの服を見て思った――

(君にはもっとちゃんとした服を見つけないと)


素早くシャツを脱ぎ、それを彼女にかけた。袖と裾を折り返して、足元まで落ちないように調整した。


「すぐちゃんとした服を探すから、今はこれを着てていい?」


彼女はにっこり笑って頷いた。

僕は上半身裸になり、自分の体に軽く驚いた。


(思ってたより引き締まってる…厚すぎず、いい感じだな。

熊か巨大狼系の獣でも狩って、その皮や毛でクローク作ったらカッコよさそうだ)


【セバス】「マスターにぴったりですよ」


僕は笑った。


「…さて、どっちへ向かおうか?」


(北東かな。召喚された英雄なら、馬賊や山賊に襲われてる商隊や、モンスターとの遭遇とか。まるでアニメみたいに展開するといいな)


「行こう」


彼女を腕に抱え、僕らは森の中へと歩きだした。


――続く――

応援ありがとうございます!ついに2つ目のコメントをいただきました(╥﹏╥)——いや、今回は別の方からのコメントで、本当に嬉しかったです。

もし物語の中で「展開が早すぎる」とか「繰り返しが多い」「ちょっと不自然かも」と感じた部分があれば、遠慮なく教えてください。皆さんのフィードバックは本当に貴重です。


それと、「ゼロがちょっと狂気的じゃない?」と思った方もいるかもしれませんが、ご安心を。

彼の内面や過去については、もうすぐ明かされていきます。

その狂気には理由があります。どうかお楽しみに!


……ちなみに、はい。ポケモンのゲームはやってます。

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