第三話 二人ぼっちジューン・ブライド
公園を回りながら、ここではあんなことがあった。こんなことがあったと思い出を振り返る。
なんてことはない、日本だけでもいくつかあるようなありふれた公園。そんな公園でも、俺達にとってはかけがえのない場所だ。
もう二度と、文香とこの公園を歩く日は来ないと思っていたのに。
そんなことを考えていれば「ねぇ、この場所覚えてる?」と文香に声をかけられる。
文香かが立っている場所は、俺達が初めて結婚の約束をした場所だ。小学生くらいの時だったと思う。
「もちろん。忘れるわけないよ」
「そっか。ふふ、嬉しい」
そういう彼女を見つめる。そして、気づいた。
彼女の身体が、どんどん透けていることに。
いや、本当は最初から気づいていた。時間が経てば経つほど、彼女の身体は薄くなっていたのだ。
「えっと……やっぱりバレてる?」
俺の様子を察したのか、文香がそう声をかけて来た。
「うん。やっぱり、ずっとここにはいられないんだね」
「えへへ……そうみたい。ねぇ、徹」
「最後に、お願い聞いてくれる?」
「もちろん」
聞かれるまでもない。文香の頼みを断る理由なんてないのだから。
「嬉しい。あのね……私、結婚式凄く楽しみだったんだ。だから……ね」
「ここで、二人だけで……結婚式、したいなって」
「結婚式か……うん、いいね。俺もそうしたい」
二人だけの結婚式を、この場所で。
二人で誓いの言葉を口にする。
「新郎、徹」
「新婦、文香」
「健やかなる時も、病める時も喜びの時も、悲しみの時も富める時も、貧しい時もお互いを愛し、敬い慰め合い、共に助け合いその命ある限り真心を尽くすことを誓います」
今日、六月二十一日は、俺達にとって特別で、大切な日になった。
俺達だけが知っている、二人だけの特別な日。
二人ぼっちの結婚記念日。
この日以降、文香が俺の前に現れることはなかった。
だけど、ずっとそばで見守ってくれている。そんな気がして、寂しさは感じなくなった。
この日のことを、俺はきっと永遠に忘れない。忘れることなんてできないだろう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回のお話はいかがだったでしょうか。
もし、楽しんでいただけたのなら幸いです。
また、別の作品でお会いしましょう。