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第一話 一人ぼっちジューン・ブライド

 六月二十一日……その日は特別な日だ。

 良い意味でも、悪い意味でも、特別な日だ。

 決して忘れることはできない、決して忘れてはいけない……そんな日だ。

 今日、六月二十一日は俺にとって……いや、俺達にとって大切な日で、もっと大切な日になるはずだった日だ。

 一年前の、六月二十一日。その日、幼馴染である文香も結ばれるはずだった。

 しかし、式の会場に彼女の姿は無く、代わりに届いたのは、彼女が事故に遭ったという連絡だった。

 轢き逃げだったそうだ。

 俺は頭が真っ白になりながら、彼女が運ばれたという病院へと向かった。ただただ、彼女の無事を祈りながら、急いで病院へと向かった。

 その日の夜、彼女は息を引き取った。頭が真っ白になった。現実を受け入れられなかった。

 彼女の死を告げられた時、涙は一滴もでなかった。

 我ながら、なんて薄情な奴なのだろうと思ったほどだ。

 家に帰り、電気を付けた。

 いつもの癖で「ただいま」と、声をかけた。

 いつもなら、文香から「おかえり」という返事がある。しかし、そんな返事は返ってこない。

 そこで、ようやく現実を悟った。

 あぁ……本当に、文香はもういないのか。

 そう思った瞬間、水道の蛇口を捻ったみたいに、目から涙が溢れた。溢れて、溢れて、止まらなくなった。


 後日、轢き逃げ犯は逮捕されたと報告が入ったが、正直どうでもよかった。

 犯人が捕まった所で、彼女が戻って来るわけでも、時間を巻き戻すこともできない。

「そうですか。ありがとうございます」そう、警察の人に短く返し、電話を切った。

 それから、時間だけが過ぎ去っていき、今日を迎えた。

 ドーナツ様に、心にぽっかりと穴が空いた感覚が消えない。

 二人では手狭だった部屋も、今では少し広く感じる。

 結婚するからと買った、お揃いマグカップは、片方だけほとんど新品のままだ。

 文香の部屋も、結局片付けができずに当時のままだ。扉を開ければ、さっきまで文香がいた様な錯覚すら覚えるほど、何もかもそのままだ。

 今日……六月十日は彼女の命日だ。

 俺は出かける準備をした。

 どうしても、行きたい場所があった。

 そこに行けば、何かが変わる様な気がした。

 そこは彼女にとっても、俺にとっても特別な場所だ。

 俺は、とある公園に向かった。文香と一緒に、何度も訪れた公園だ。そここには、彼女との思い出が溢れている。

 だからこそ、そこに行けば、自分の中で何かが変わると思った。

 もう一度、前を向けると思った。


 公園についた。

 ここも、当時と何も変わらない。

 一緒にキャッチボールやバドミントンをした広場、文香が作ってくれたお弁当を食べたベンチ、花見をしにきた広場。

 何もかもそのままだ。

 隣を見れば、文香がいるのではないかと錯覚してしまうほど、何も変わらない景色だ。

 そんな景色を見ながら、俺は目的地へと向かった。

 特別なこの公園の中でも、もっと特別な場所へ向かった。

 そこに行けば、何かが変わる気がした。

 お久しぶりです。初めましての方は初めまして、紅葉 帳です。

 今回はようやく筆がのったということで、二作品目を投稿させていただきました。

 全四話をまとめて公開していますので、気に入っていただけたら、次へ、そのまた次へと読んでいただければ幸いです。

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