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悪霊との蜜月と石

作者: 塩狸

久しぶりに会った友達が

背中に凄い変なものを(たずさ)えてやってきた

「なにそれ」

と聞いたら

「石の採掘で山行ったら迷ってさ

そこで

もうだいぶ長いこと放置された

朽ち始めてた祠見つけて

気紛れで拝んじゃったんだよ」

うん

「そしたら憑いてきた」

とのこと

あのね

それは

捨て犬捨て猫じゃないんだ

「祓えよ」

って言ったんだけど

友達曰く

「いやー、見ての通りすごいでしょ?

これがくっ憑いてくるようになってから

雑魚に付き纏われることがなくなったんだよ」

確かにこの友人は

多いときは3体くらい変なものにまとわりつかれてたし

水子の時は

色々と勘繰ってしまい

チラチラ見てたら

「私のじゃねーよ!」

野良水子だよ!

と怒られた

野良水子という言葉のインパクトは凄い

その野良水子はさすがに供養に行ったと聞いた

そういえば以前も

一緒に車に乗ってる時に

背丈を優に越える横幅も車を覆うくらいの物凄い大きな

歯のない唇が大きく開かれた形で

前面から迫ってきた時もあった

(私は助手席で10分位失神してた)


しかし

なぜこいつ

目の前の友達は

背中辺りに纏わりつく

この凄い変な

クトゥルフ神話の化け物も真っ青なこれに

身体も精神も乗っ取られないのか

友達曰く

「動物に好かれる人もいれば

避けられる人もいるでしょ

悪霊に取り憑かれる人もいれば

なつかれる人もいるのよ

いやー

これとは凄い相性良くてね

もう奇跡の出会い」


こいつ

この世の曖昧模糊な魑魅魍魎に取り憑かれているのに

それを運命の出会いみたいに言い切った

デメリットは

「視える人には思いっきりドン引きされて避けられる」

らしいけど

今のところ他に不便はないと言う

それに

「例えば、ヤンキーと付き合ってるとチンピラに絡まれたりするけどさ

ヤクザと一緒にいるとチンピラは逃げてくでしょ?」

だから

そこいらのクソ雑魚低級霊に纏わり付かれることがなくなって

快適なのだとか


悪霊との蜜月


私は当然

そんなものとの相性は存在せず

そのクトゥルフもびっくりな何かの瘴気に当てられ

ものの数分後に

吐いた


しかしね

天晴れなことに

友人と悪霊の蜜月はそう続かず

「……電車乗ってたらさ

ごく普通に見えたサラリーマンに付いて降りて行っちゃった」

って

あら

悪霊も気紛れなのね

「それで、またでかい悪霊探しに山の方へ行くけど一緒に行く?」

「行かないよ」

せめて石の採掘行くとか取り繕え


そう

霊感的なものが強い人間って

勘も強けりゃ

引きも強い人が多いのね

友人は

それが並外れてケタ違いに強くて

石の採掘でもね

友人がいると

「え?そんなところにある?」

ってまさかの場所で見付かることが多いらしくて

関係者たちには重宝されているらしい

トリュフ見付ける豚みたいだよね


でね

うん

早々と

友人は消えた

石の採掘中に

友人は

あんな滅茶苦茶なちゃらんぽらんでも

違法採掘屋には絶対に手を貸さないで

ちゃんと大学の方とか

企業からの研究目的の採掘依頼されての時しか行かなかった

報酬は当然

違法な方と比べると

月とすっぽんくらい違ったけらしいけど

そこはね

きちんと

友人なりの矜持(きょうじ)があったらしい

だから

今回も

消されたとかそういうのではなく

大学の方で依頼されて行った先の

ただの事故ね


それでさ

1ヶ月くらい経ってから

一度くらいね

弔いがてら友人が消えた(死んだ)場所を見届けとくかって思って

登山装備揃えたの

高くてびっくりした

帰ったら洗って普段使いするわ

それで

友人が消えた場所へ向かったのね

同行者はマイファザー

車出して貰いたかったし

父親も登山に興味あるとかないとか言ってた気がするから


友人が姿を消した山へ一緒に登っていた

大学の教授にしてはまだ年若い教授には謝られた

仕方ないよね

山の出来事だもん

その教授に地図も借りたけど

ここら辺で消えてしまっただのここら辺が危ないとか

大概にも広範囲過ぎる

でも

え?

そうなの?

そんなもんなの?

えー……

山の捜索隊の人たちの苦労がほんの欠片だけでも解ったよ

「無謀」

って言われた言葉の意味もね

まぁね

見付けようなんて(はな)から思ってないよ

ただ

それらしい場所で

手を合わせるくらいしようと思っただけ


目的地までは順調でさ

ここなら車停めて大丈夫だからって教えられた地図の矢印の通りに向かってさ

パッと見、先に道があるように見えない脇道に入ったら

車を6台分くらい停められる砂利が敷き詰められた空間あって

管理地の看板はあったけどそれだけ

登山用の地図を持ち直して

登山道と違って親切に入り口はこちらなんてないから

ここかなって思える

ほぼ獣道から山に入ってみた


あぁそうだ

そういえば

今思えば

本当かどうか知らないけど

どこぞの山の朽ち果てた祠から来たとか言う

友人がシャバに下ろしちゃったクトゥルフ的な化物はどうしているんだろうと思い出しながら

私は

ただなんか急にね

なんか

凄く悲しくなって

こう

しみじみと

ここに来てやっと

「友を失った」

ことを実感してしまってさ

がむしゃらに

山を

ただただ

ひたすら上へ上へ上がってみたんだ

地図も見ずにさ

岩と木と土と蔦と草と

虫と虫と虫と虫

まだ山の下の方なのにすでに四つん這いで這い上がりながらさ

1人でね

そうそう

マイファザーは入り口の獣道5メートルくらいでギブアップして戻ってた

それは予測してたけどね

それで

よいせっとね

頼りない足場に足を掛けた瞬間よ

ふと目の前に出現した山ゴキ○リを

「はい邪魔っ」

って手袋はしてたけど手で掴んで放り投げた時に

人間的にレベルアップした気がしたよね

野性レベルと言うべきかしら


私はさ

案外体力だけはあるの

それで

多分、脳内麻薬?

ランナーズハイ、クライマーズハイ?

なんておこがましいけど、大半は疲れと、やっぱり友人のこと思い出したり色んな感情がごちゃまぜになって

ハイになってたのね

2時間は経ってたのに水の1滴も飲まずに山を登ってた

登ると言うか獣道ですらない崖を這い上がってた

木を掴んで剥き出しの尖った岩を掴んでた

それで

この山の低い位置のてっぺんの1つと思われる

それでも生えてる木々も

細くて葉っぱもギザギザしてる場所に出た時に

ふっとね

ハイが終わって

残ったのはありえないくらいの披露困憊で

私は土の上に腹這いになって

「……山になんてもう二度と登るか」

って呪詛(じゅそ)ってた時


先の

木の影に

派手な赤と黄色の

南国の鳥みたいな色彩が目に入ってさ

「?」

這うように近付いてみたら

友人が倒れてた

わぉ

1ヶ月近く経ってるのに

「案外綺麗だなぁ」

って拝んでさ

なんで動物や鳥たちに食われてないんだと

父親にメッセージ送るか

いやまずは警察かと

スマホ繋がるのかしらと

深くはあれど低い場所だし繋がるかと取り出そうとしたら

友達ね

目を覚ましたよ

しかもさ

ちょっと寝てましたみたいな感じでこっち見てた

とりあえず私よりも元気そうだし

水飲ませて私も飲んで

今までどうしてたのか訊ねたら

「小さな石の中に入ってた」

って

うーん


スピリチュアル


友人と並んで座って羊羹とか齧ってたけど

友人が行方不明になったのは

「全然もっと山奥だよ、ここからなら、多分あと1時間はかかる」

って地図を指差された

ひぇ

じゃあなんでここにいるのだ

「私さ」

うん

「石の気配感じると、どうしても先走っちゃう悪い癖あってさ」

「あの日も、“あっちにありそう”って勘が働いてさ」

「気づいたら仲間置いて1人になった時に」

「反対側からやってきた違法採掘の人たちとね」

「見事にバッティングしちゃったんだよ」

「あっちにも、すっごい勘が働く人がいたみたい」

「それで私、そいつらの依頼をさ、一度や二度でなく断ってたからさ」

「あぁほとんど日本人、2人は外国人だった」

「ただね

バッティングして不都合なのは

『採掘を断った私』

ではなくてさ

『違法採掘の現場を見ちゃった私』

だったから不味かったんだろうね」

「当然追い掛けられてさ、私、崖からね、まだ先が続きますと見せ掛けて唐突に崖でしたって罠みたいな場所から

呆気なく崖下に落ちたの」

落ちたんだ

「でもね」

「落ちた先の石に吸い込まれたんだよ」


スピリチュアルその2だね


「私が女ってだけで変にギラついた目をして、一番興奮して追い掛けてた奴も続いて落ちたけど

多分

今も崖下で凄いビジュアルになってると思うよ

もう1ヶ月だっけ?

経った日数考えると

もう動物に食われて骨になってるんじゃないかな?」

「笑えるのがね

あいつら

私を含め2人は落ちてるのに

そうそう

もう1人も落ちたの

日本人と外国人1人ずつだったかな

その(あと)

普通に淡々と採掘してたんだよ」

人の命は軽いね

「そうそ、軽石より軽いわ」

でも

なんでそれを知ってるの

「そうなんだよ

私はさ

崖下の出っ張りに転がってた

その吸い込まれた小さな石の中でじっと空を見てたの

そしたら

飛んできたカラスが咥えてくれて

それで違法採掘屋が石採ってんのが見えたのよ

私はカラスの寝床に、あぁ巣ね、巣に保護される前に

ポロッと落とされちゃってさ

枯れ葉の中に落ちて

気付いたらね

あんたがスマホ持って立ってた」


この友人に起きた事象は

「神隠し」

に近いのだろうか


車で眠っていた父親は

数週間ぶりに見付かった私の友人が

あまりにけろりとしているため

「あぁはじめまして、いつも娘がお世話になっています」

って

近所を散歩してたらたまたま遭遇みたいな軽いノリで挨拶して

友人も外面はいいからニコニコ挨拶してた

私は上着と登山パンツの上に履く防寒パンツはさすがに土埃で凄かったけど

それを脱いでしまえば

街まで降りてファミレスへも普通に入れた

登山靴はめちゃくちゃ叩いて泥も埃も落としたよ


私の友人は

私がね

わざわざ探しに行って手を合わせようとするくらいには

天涯孤独なんだ

びっくりするくらい

遠い親戚すらもいない

「あーみんな呑まれちゃうんだよね」

って

え?

なにに?


友人の空腹感と疲労感は

「石に吸い込まれた時と同じくらいかな」

だとも言ってた

摩訶不思議

時間が停まっているのか

コールドスリープ?

「まぁ生きててよかったよ」

「まぁね」

友人は

しばらく採掘のバイトは断ると言う

うん

そうして


でも

友人が生きてると分かった途端に

あの教授が

「またバイトしませんか」

って声掛けきたって言うから

教授の鬼畜度と人でなし度は、違法採掘者とそう変わらない


「ね、普通に石を持ってる人って、あんたみたいに吸い込まれたりしないの?」

怖いんだけど

「それは大丈夫」

なにが

「石だって、選ぶんだよ」

何を

「人を」


スピリチュアルその3


ナンバリングしてるけれど、謎は別に解けるわけでもなく


私とこの友人は

仲はいいと思ってるけど

普段はそう頻繁に会う訳でもないんだ

あれから10日は経ったかな

メッセージツールに

友人からのメッセージが送られて来たと思ったら

文字が不自然に歪んでいるしほとんど文字化けしている

解読不能で仕方なしに電話したら

『聞いて!戻ってきたんだよ!』

何が

とは聞かなくても解る

電話越しでも

私はすでに気持ち悪い

「……切っていい?」

有象無象の魑魅魍魎のおぞましい気配が

伝わってくる

『えー?』

えーじゃないよ

私はもう

「吐きそう」

なの

ギリギリなのね

こちらに構わず喜びを捲し立てる友人のそのニュアンスは

元彼とよりを戻した

ではなく

やはり

脱走したペットが帰ってきた

的なもの

雑に受け流す私に

『なんでだよぅ』

仲良くしてあげてよぅとか言われても困る

例えばだけど

“友人の友人”

と言う存在は、私には

“友人ではなくただの他人”

のスタンスなんだよ

間違っても友人ではない

よって魑魅魍魎は魑魅魍魎でしかない

『まー助けてくれた恩があるから今回は引くけどさぁ』

友人は珍しく聞き分けよく

するっと引いてくれ

私は電話を切ってベッドに倒れ込む

あぁ

とても


気持ち悪い



私はさ

視えるだけなんだ

悪い意味で、強いものだけしか視えないし

悪いものだけに影響を受ける

損な体質

友人は帰ってきたと呑気に喜んでいたけど

あのペットが帰ってきた理由は

ペットがのこのこ付いていったサラリーマンが死んだか

友人のペットが飲み込んだか

どちらからでしかない

ただ

電話越しにも

まだ死んだばかりの戸惑いを含んだ

人の男の声らしきものが聞こえたから

きっと友人のペットに

あれに飲まれたのだと思う

魂だけか

身体ごとかは

知らないけれど


私はしばらくベッドにうつ伏せに倒れ込んでた

けど

ふと視線を上げれば見える

枕元に置いてある小さなジュエリーボックス

中には

丸くて綺麗な赤い石が入っている

「これ、お礼ね、私が入ってた石」

父親の車で友人を部屋まで送った時に渡された石

じっと見ていると

(あぁ駄目だ……)

くらくらする

まだ

この石は

人の記憶を読んで

人に干渉したがっている

私は石に呑まれる前に

箱に仕舞う


友人と悪霊の蜜月はしばらく続きそうで

次に友と会えるのは

一体

いつになるのだろう


まぁ

生きていれば

友が生きてさえいれば

それでいいや


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