メインキャラクターじゃない人に親切にしてはいけない世界です。好きになりかけた人はモブキャラでした。
2-③
願いもむなしく、次の日に届いた手紙の返事は否で。
隠しキャラなんて存在しないんだって。
諦めかけてはいたけど完全否定と、かもしれないは全然違う。
ヨウさんはモブキャラに決定してしまった。
ヨウさんが命を落としそうになったのは私と関わったせいだった。
メインキャラクター以外との恋が許されないこの恋愛ゲームの世界。
私がヨウさんを想い続けることは、彼にとって迷惑でしかない。
「顔が凍り付いてるぞ」
茶化すようなハンドの頬を打つふりをする。
その責任の一端はあなたにもあるんですけど。
斜め後ろのヨウさんという神々しい存在を意識から消そうと頑張っているのだ。
「昨日、処刑しようとした人を騎士団長にするなんて何考えてるの?」
恨みがましく訴えているのに、まわりから見守るような生暖かい空気を感じる。
「尊い」
誰かがつぶやいた声が聞こえた。
ハンドと私が話しているだけでこういう空気になるのやめてほしい。
本当に、そんなんじゃないんだ。私とハンドは。
式典が始まる直前の控えの間。
すぐ本番だ。
この式典は討伐遠征前のセレモニーみたいなもので、世界中に中継されている。顔に笑顔をたもちつつ、ひそひそとハンドに抗議しつづける。
「しょうがないだろ、第四騎士団員を全員をぶっ飛ばしちまったんだから。あのヨウってやつ。
実力主義。腕の立つ人員はのどから手が出るほど欲しいんだ。
だれかさんが恋愛できないせいで、魔王を打ち倒すめどが立ってないからな」
藪蛇だった。ハエでも払うように私を押しのける。
「ほら、いくぞ。お前の役目を果たせ」
「はーい」
どういわれたら、私が弱いのかを完全に把握されている。
私は笑顔を貼り付けた。悲しい顔をしたら心配する人たちがいる。
聖女である私を応援してくれる人たちを悲しませたいわけじゃない。
宮殿のバルコニーの下には大勢の方たちが集まっていた。
空にはスクリーンのようなものがあって、各国の要人たちが映し出されている。
「魔王の復活が近づき魔物が狂暴化している。食糧、物資様々なものが手に入らずに不安に思っているだろう。しかし、もう少しの辛抱だ。我らは共同体だ。あなた方が日々精いっぱい頑張っているのと同じように、私も精一杯のことをしている。すべては聖女に任せている。私たちはやるだけのことはやった。この状況を救えるのは聖女だけなのだ。真実の愛。期待してほしい」
激しい歓声が会場を包む。
私と王の名が響き渡る。
そんな熱狂の中で私の顔は複雑にゆがんでいないだろうか。ちゃんと笑えているだろうか。
恋ができない私にプレッシャーが襲い掛かる。
前よりも状況はもっと悪い。
恋ができそうだったから。
メインキャラクター以外の人。
恋しちゃいけない人に。
あの気持ちを私は少しだけ体験してしまった。
本当に心が引き寄せられるのがどういうことかを知ってしまった。
このままでは皆の期待に応えられない。
魔王にこの世界が滅ぼされてしまう。
心が死んでしまいそう。ねえどうしたらいいの?
「なんで、煽るようなこと言うの?恋すらできないんだよ。真実の愛なんて、遠いまた先」
「バカ言うな、できないなんてバレてみろ一貫の終わりだ。この国がなんでこんなに豊かだと思う?各国に優遇されているからだ。なぜ優遇されているか。それは、聖女が魔王を倒すたった一つの存在だからだ。倒せないとわかってみろ。貿易の関税は上がり、物資を回してもらえる優先順位は下がり、この国はすぐに立ち行かなくなる」
今回の遠征にかかる費用物資もだいぶ、融通してもらったのは知っている。
私が手配を担当したからだ。
こういう仕事のためにもっと、人を雇えばいいと思うけれど、王は疑い深い。
中抜きに情報漏洩、
人が多くなることによるリスクを懸念しているらしい。
私の恋が誰とも進展していないのはトップシークレット。
バレたら国が破綻する。
国民が飢えに苦しむことになる。
嘘は言わないけど真実も言えない。
むりです!って逃げ出しちゃいたいよ。