メインキャラクターじゃない人に親切にしてはいけない世界です。あの人は結局どっちなんだろう。
2-②
「誰かを思ってしたことは正解だよ」
と、ヨウさんは言ってくれた。
それを全部鵜呑みにして甘えることはできないけれど、心の重しが少し軽くなってほんのり温かさが指先まで広がっていく感じがした。
自分が良いと思ってしたことでも、メインキャラクター以外と恋してはいけないこの世界では相手に迷惑な結果になってしまう。だから、望んでないことだったと非難を受けてきた。
ヨウさんには中途半端なことをして危険にさらしてしまったのに。
鋭い目つきからは想像できないような優しい笑顔を見せてくれた。
また、会いたいと言ってくれた。
こんなに素敵な考え方をする人がメインキャラクターじゃないなんておかしい。
木の枠が偶然外れたというのも気になる。
メインキャラクターだったらそういう偶然が起こるのは必然。
淡い期待が胸に躍る。
ヨウさんが運が良すぎる人なだけかもしれないし、人間離れした肉体の賜物だったのかもしれない。
でもそうだったとしても。
ギロチンから、腕と首を抜けるほどの身体能力を持つ人、強運な人がモブだなんて信じられない。
隠れキャラに違いない。
モブとはストーリーを完遂するために恋できない主人公の私。
恋をメインキャラクター以外としようとすると、相手が没落していってしまう。
今まではそれだけだったけれどヨウさんは命も危うかった。
私の興味が関係しているのかもしれない。
ヨウさんは今までの人とは違う。
今までの人には特に何の感情を持っていなかった。
ただ、何かを手伝っただけとかそのぐらい。
でもヨウさんには…
やめよう。これ以上考えるのは。今は。
どうか、ヨウさんが隠しキャラクターでありますように。
メインキャラクターならばこの気持ちを止めなくてもいい。
ひそやかな望みをかけて、このゲームをよく知る人に手紙を出した。
誰にもやり取りを悟られない直通の連絡手段。
空中にできたゆがみに吸い込まれていく手紙を見ながら強く祈る。
手紙の返事が肯定でありますように。
どうか。あの人が隠しキャラでありますように。
どうしてこんなに望んでいるんだろう。あの人を。
攻略対象の人たちはみんなかっこよくて、能力が高くて。
フラグを回収していけば絶対自分を好きになってくれて。
そのための正しい選択肢も行動も全部教えてくれる人がいて。
この国の王のハンドに関してはお似合いだよと祝福してくれる人が多い。
王と聖女よくある組み合わせだ。
攻略対象まで応援してくれてるんだよ。
全部がイージーモード。
素敵なメインキャラクターの中から私はただ一人を選べばいいだけ。
なんて、贅沢な立場だろう。
でも、違うの。
できなかったの。
警告音が鳴り響いてる感じ。
この人を本当に信じられる?
ほんとうにいいの?
その心の声を打ち消してくれるほどの存在にだれもならなかった。
面倒くさいよ。
元28歳。
下手に元の世界でこそこそ浮気されたり雑に扱われたり、そういう目にあってきたからさ。信じきれないの。
いっそ、記憶が消えてたら好きになれたのかもしれないのに。
メインキャラクター達は全員が恋愛を進めたらいい人確定なのに。
例えば、この国の王であるハンドは恩人。恋愛ができないでいた自分に役割を与えてくれた。
彼のおかげで、私は孤児院に仕送りができている。
恋愛以外にもこの世界に貢献ができるのだと感じさせてくれた。
この人と生きようって覚悟した唯一でもある。
フラグは回収していないけれど、過ごした時間も話し合って解決してきたことも数多くある。ハンドがこの国をどうしたいか、将来の夢を語る姿はまぶしくて、自分でできる限りのことはして支えたいと思っている。
ただ、女の人の影がちらつきすぎて恋愛対象としては信じられないでいる。
年上なんだけど、弟みたいな感じ。
セドリック様は有能。最初は冷たいけれどその冷たさには理由があって。
なんだかんだで仕事で助けてもらっている。優しいところが恋愛を進めなくても垣間見得ている。
でも何か、秘密があるようで。少し行動に怪しいところがある。
バーディ様は癒し。アウェイすぎる職場を和ませてくれて、おかげでハンドのファンのメイドさん達ともうまくやれている。ただ、年下なんだよ。それだけ。
決められないまま、タイムリミットがどんどん迫る。
私がこの世界に来た時に拾ってくれた孤児院の院長。
いつも元気な施設の子供たち。
みんなみんなこの世界で守りたい人たち。
その人たちが恋をするだけで救われるんだよ。
こういう時、真のヒロインなら迷わないよね。
みんなのいいところだけをみて、信じて。
強く前向きに明るく。面倒くさい態度取らないで、聞き分け良くフラグを回収していくだろう。
だって、それが世界平和の条件なんだもん。
その先には素敵な約束された攻略対象たちの魅力たっぷりのストーリーが待っているんだもの。
思い返しても自分は利己的でしかない。
大切な人を守りたいと言いながら、自分の気持ちを尊重してしまう。
恋がわからないならストーリーを進めればいいのに。
それができなかった。
仕事ならガンガン決断できるのに。
どうして恋愛は不安になって足がすくむんだろう。
人としてはみんな好き。
そのすきは、恋の好きと何が違うのか。
わからないほど子供じゃない年齢をあちらの世界で重ねて。
その延長線上に恋があるかもとは思うけれど、迷いがずっと消えなかった。
もしかしたらいつか変わるかもしれない。
そうだったらいいなって希望的観測も交えつつ、ここまで来てしまっていた。
ヨウさんにであって、自分が人生を共に過ごしたい人に求めていたものがわかってしまった。
もし彼が攻略対象じゃなかったらどうしよう。
ずっとずっとそればかりが頭に絡みつく。
ヨウさんを知ってしまった心がその形を記憶してしまう前に早く知りたい。
彼がメインキャラクターなのかそれともモブのどちらかなのかを。
そうしないと。
手遅れになる気がする。
これ以上、状況を最悪にしないように。はやく。はやく。私に教えて。