表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛ゲームの主人公になったのに好きがわからなくて世界が滅びそうです  作者: cococo
恋ができなかったら世界が滅ぶの重すぎる。
6/47

恋愛ゲームの主人公です。本命がいる攻略対象とも恋しないとダメですか?

 1-⑥


 なんで、何もしていないのにバーディ様の私への好感度があんなに上がっているのだろうか。

 恋愛ゲームの初心者枠なのかな?

 だけど、そのバーディ様でさえ兄であるハンドとくっつけようとするのなんなんだろう。

 国の王としてハンドを尊敬しているのはわかるけれど。


 とりあえずお風呂に入りたい。

 その前に、セドリック様から頼まれた用事をこなしてしまわないと。

 ハンドのいる北の塔は王宮の敷地のはずれにある。

 永遠かと思うぐらい長い螺旋階段の上に見えてきた扉をたたく。


「入るよー」


 セドリック様はこれからの作戦をたてるために塔にこもっていると思っているみたいだけど、たぶん寝てる。

 確かに戦略を立てているのは王だし、軍隊の指揮を執っているのも王であるハンドだけど、作戦を立てるための情報は私が今から渡す。

 だけど、情報を集めているのが私だとはセドリック様の好感度を上げないためにも言えないから、ハンドは作戦を立てられないと周囲にも言えない。

 しょうがないから部屋にこもって、働いているふりをする。王の威厳を守るためにも。きっとそんな感じ。

 サボるのも外面を気にしなくちゃいけなくて大変だ。


「起きてる?」


 寝てても入ってきてもいいと言われているので、遠慮なく入る。

 室内には誰もいなかった。


「わお」


 耳を甘くとらえるような美声が響いた。

 驚いているけど、それはこちらだ。

 ハンドがどこかから戻ってきたのだ。瞬間移動を使って。

 便利で羨ましいけれど急に出てこられると心臓に悪い。


「飲みに行ってたの?」


 息を吸う度に酔いそうになるほど、部屋の匂いが変わった。

 飲みに行ってるのは想像してなかった。


「酒場は情報の要。ゆいなに任せっきりにするだけじゃなくて自分でもなにかやらずにいられなくて集めてきた」


 ハンドは持っていたバッグをベッドサイドのテーブルに置いた。

 私とおそろいのマジックバッグだ。


「ありがとう。その手伝ってくれようとする気持ちがうれしい」


 書類を手渡すと、ぽんとベッドに投げハンドは自分も腰を下ろした。

 陶磁のような肌にきれいな横顔。前に私がコーデしたお気に入りの格好で決めている。

 かなり、気合の入った飲み会だったことはわかった。


 ちょっと迷ったけれど、このままだったら相手が恥ずかしい思いをするかもしれない。

 指摘することにした。


「キスマークついてるよ」


 手が首元のそれを隠した。

 しばらくの沈黙は逡巡しているから?


「これは野郎にふざけてつけられたんだ。その場のノリってあるだろ?」


「あるかもね?」


「信じてないのか?」


 目を見据えたまま首を振った。情報集めにキスマークを男友達につけられるようなノリが必要な時もあるだろう。


「じゃあ、なんで?」


「なんで、なに?」


 質問の意図がわからなかった。


「ゆいなは婚約者でも、彼女でもないから関係ないだろ?」


 ハンズは面倒くさそうにため息をつくと、投げやりに答えた。


「あとで、色々な人に見られたら困るだろうから、教えてあげただけだよね?」


 なんで不機嫌になってるの?

 言わなければよかったの?どんな表情をしたらよかったのか。

 選択ゲー。難しすぎる。


「ようするに、もやもやしてるわけだ。彼女でも婚約者でもないのに」


「飲み会で何か言われたの?」


 楽しい飲み会帰りの割には不機嫌にみえる。

 情報共有の場。

 キスマークをもらえるような、ノリのいい?

 楽しかったはずなのに、なぜか気に入った女の子に連絡先を聞いて断られたような。


 そこから先は、ハンズは何も言わなかった。

 ハンズの夜の生活について、私は何も知らない。

 聞いてみたこともある。でも、はぐらかされるだけ。

 その後、不機嫌になるし地味なお返しもされるのでもう気にしないことにした。


「魔物についての情報は集まらなかった。でも、だいぶ物価が上がっていた。魔物が増えて商人たちが貿易しにくくなっているのが影響しているらしい」


「孤児院でも、だいぶ苦労しているみたいだった」


 いつもの二人らしい会話になる。

 恋愛色の一切ない感じ。


「こんなに仕事の話ばっかりしてるのに、なんでみんなに誤解されるんだろうね」


「なんだ急に?仕事の話ばっかりなのが不満か?しょうがないだろ、ゆいなが恋愛系のフラグを踏まないように行動しているから、俺との恋愛イベントが発生しないんだから」


「当事者からそのセリフ出てくる時点で、もう、恋愛ゲームとして成立しないよね?」


 ここが恋愛ゲームと知られる前に、そういうのってこっそり進めないとメインキャラクターたちにとって興ざめなのでは?


「なんだ、不満なのか?恋愛イベントを進めたくなった?」


「ううん。ハンズとは父親がいない境遇も似てたからか最初から意気投合したじゃない?協力し合ってこの国を大きくしていこうっていう戦友的な立ち位置気に入ってる。この世界では一番近い人だと思ってるよ」


「この世界ではって元の世界にもっと近い人がいたような口ぶりだな」


 指摘されて、気づく。無意識だった。


「本当だね?なんでだろ。そんな人いなかったと思うんだけれど」


 この世界の前にいた世界のこと。はっきり覚えていることもあれば、ぼんやりしていることもある。

 恋愛については元の世界では28歳だったし。それなりに付き合った人はいたと思う。

 今はこの世界の設定に合わせてか、姿が17歳ぐらいまで戻っているけれど記憶は17歳時点のものではなくて、28歳のゆいなのものだ。


「ま、恋愛してもしなくても俺としてはどっちでもいいぞ。今まで通り自由にさせてくれれば。魔王のことはどうにかなっているし、最悪、結婚しちゃえばいいんじゃないか?とりあえず、結ばれればいいんだろ?」


「それって、きれいな女の人がたくさんいる飲み会に行くことも含まれてるよね。そういうとこだよ。それに必要なのは結婚することじゃなくて真実の愛でしょ。それで真実の愛が生まれるとは思えない」


「付き合う時点で、両思いのカップルがどれだけいると思う?それと同じで結婚して生活をはぐくんでいく経過で真実の愛も芽生えるだろうから、その予定の前借りで何とかなるんじゃないか?」


「真実の愛の前借り?」


 そんなのきいたことなさ過ぎて笑ってしまった。


「ゆいなはさ理想が高すぎるんだよ。そんな誠実を絵にかいて自分だけ見てくれる男いねえよ」


 現実離れしている男しかいないで定評のある恋愛ゲームの中のキャラクターに言われてしまった。

 ここにいなかったらどこにいるんだか。

 

「理想が高すぎるのはさ、わかってる。結婚したいけど諦めてる」


「じゃあ国のために結婚も」


「それは嫌だ。私の幸せはそこにない。そんなことよりも、私も情報交換の場にも乗り込んで協力したいんだけどな?」


「それはだめ」


「なんで?」 


 何でもだと、ハンドは大きく伸びをした。そろそろ寝るから出ていけの合図みたいなものだ。


「とりあえず、キスマ消す?」


 出ていく前に気になったので聞いてみた。


「そうして。俺のファンが誤解したらかわいそうだから」


「はいはい」


 適当に返事をしたけれど本当にハンドはモテる。


「モテすぎるのも困りものだけどな、この間、俺の魅力に負けた侍女を一人解雇することになった」


「ああ、だから、執務室にいたのが見慣れない方だったの」


「何人目だ?つい、優しい言葉をかけてしまうとみんな俺に狂ってしまう」


「そうですね」


 完全なビジュだった顔がデレてくずれる。

 手は出してないらしいけど、女の子は好きだよね。

 夢中になられちゃうのも、ハンドがデレデレしちゃって、みんなにいい顔するからだよ。

 派手な女関係なようで意外に奥手?はいいかもしれないけど。

 たぶん。だけど。見えないところは知らない。


「ハンドさん。顔、ふ抜けてる」


「そんな、俺もきれいだろ」


「うーん、みんなそういうよね」


「女の子に弱い王様可愛いってだろ」


 ちょっと欠点に思えるところも可愛いって言われる人が強いのかもしれない。


 そういえば、この間出会ったヨウさん。

 私が豪快に魔物を解体してるのドン引きしてて可愛かったな。


「普通に考えて、きれいな人見るとあからさまに態度が変わってデレッとする人をゲームの攻略対象にするって。なかなかチャレンジャーなゲームじゃない?」


 私はそんな彼氏も旦那も嫌だ。


「差別化をはかったんじゃないか?恋愛ゲームってこっちでいう恋愛小説みたいなものだろ?飽和状態に必要なのは唯一無二のヒーローだ」


「でも、本当に好きな人ができた時にそれ見せたらアウトだと思うから、直した方がいいと思うんだよね」


「しょせんここは恋愛ゲームの中だからいいだろ」


「ゲームの中に入ったとはいえ、私にとってはそれがリアルに変わったから全然良くない!」


「そういえば、酒場でかなり当たると評判の占術師に会ったのだが、俺は三人同時にいったほうがいいタイプらしい」


 急に話を逸らそうとするハンドに枕を投げつけた。


「複数人同時に攻略しようとするって、それゲームをやる側のすることだから許されるんだよ。攻略対象がそれしたらだめだよね?あ、でも、今まで遊んでいた人が自分を好きになっていく過程でまじめになっていく路線は人気かも」


「ほらみろ」


 ふと気が付いた。


「3人も攻略したい対象と、ハンドが出会えたってこと?つまり本命と出会えたってこと?」


 あれ?フラグ折りまくっていたら攻略対象に違うルート解禁された?


「意外に鋭いな。あぁ真実の愛を見つけなければ、この世界は滅びてしまう。だろ?恋ができない主人公が聖女として召喚されてしまったこの国を守るのは統べるものとして、ほかの可能性を探るのは当然のことだな」


 主人公をマルっと無視して話が進んでるのはびっくりだけど、女好きが本当に好きなのはあなただけ路線で名作たくさんあるもんね。思い返せば。それきた?


「なんだ?それも不満か?」


 黙り込んだ私にハンドが枕を投げ返した。

 思いっきり顔のど真ん中に命中する。


「ううん。自分の存在が誰かを変えるってすごいことだから。ちょっと感動しちゃって」


「なんでそういう思考になったんだ?理解できん。ゆいなはたまに、斜め上の反応する。そこが面白いところなんだ。大切にしろよ。その個性」


「ありがとう。私もそうやってたまーにみんなのいないところで褒めてくれるハンドの優しいところ好きだよ」


 わたしは無理だったけどその中のだれかはハンドのことを信じてくれて愛がはぐくまれるといいな。

 私は夜にどこで何してるかわからない人は不安だった。躊躇してしまった。

 こんな臆病な主人公なんて放っておいていいのよ。


「みんなの期待に応えて、ゆいなと取りあえず婚約してみてもいいけどな」


「本命のこと話した口でいい加減なこと言わないで」


 やっぱりこの人が自分だけになるって私は信じられない。

 過去の恋愛、浮気されたこともあったからな。

 向こうの世界の話だけど。


「どんなに本命が好きでも、そこにいい女がいたら本命悲しませるとかそんなことどうでもよくなっちゃうんだよ」


 えー。言われちゃったよ。

 本当にハンドがイベントを進めたら主人公一途になるとは信じられない。

 まあゲームだし、現実世界とは違うよね。


 フラグイベントをこなしていけば理想通りの恋人に変わることは決まっている。

 ここに生きる私たちにとってここは現実だけど現実味のない理想の恋ができるはずの世界。

 主人公にとって幸せな世界。

 そこの主人公に私はなった。

 だから幸せになれるに決まってる。

 攻略対象の人たちは、今は信じられないけれどシナリオを正しく進めればみんな主人公のことを好きになってくれる。

 もしかしたら、その主人公補正が他の子が恋愛対象のうちはかからないのかもしれない。


「失ってからその子の大切さに気が付いても遅いんだよ。よそ見ばっかりしてたら、せっかく信じてくれている貴重な子を泣かせちゃうことになるよ」


 ゲームの世界は好評だったら、アフターストーリーとかあるはずで、だいたい幸せに子供を産んでその後でもラブラブで。私もそういう未来に憧れている。

 幸せになれるかどうかわからないから、好きになるのを迷ったり不安になったりするはずなのに。

 幸せになれる未来がわかっているのに踏み込めなかったのはなぜだろう?


 大事なチャンスを失ってしまったのは自分なのかもしれない。

 この人と歩めたはずの幸せな未来を。


「人のこと色々言ってるけどな、主人公であるお前が攻略対象以外に手を出してはいけないって知ってるだろ?仕事を教えた新人のモブの家。クラスで一緒になった将来有望な青年モブどうなったんだっけか?」


「家がおとりつぶしになったうえに国外追放でした」


 私がかかわった人たちは没落していく。ただ親切にしたかっただけ。困っていたから助けたかっただけ。恋愛的な気持ちなんて微塵もなかった。


「で、懲りないゆいなちゃん」


 今日一番のハンドの笑顔に嫌な予感がつのる。


「な、なに?」


「マジックバックはどうした?」


 悪寒が走る。


「森であった人に貸したよ、戻ってくるかはわからない」


「そうか」


 ハンドは物陰から何かを取り出した。

 バッグだ。あれ?ハンドが戻ってきた時に持っていたものが机の上にあって、それなのになんで?


「ほんと便利だな。このバッグは中身が共有で。もう一方の無事を物を取り出すだけで知らせることもできる。ゆいなは本当に連絡が取れないから」

「あ、遠征中に食料がなかったんだけどそれって?」

「彼女が食べたいって言ってたからしょうがなかったんだ。それよりも」


 両方のバッグから角を一つづ出して見せた。

 やっぱりこれは二人のおそろいのバッグだ。

 持ち物が共有されている。間違いない。


 ヨウさんに貸したはずなのに。

 あれ?あの人、まだ魔物の素材売る前に返してきたの?

 時間が止まるから保存状態は心配ないけど

 お金が即必要だったのでは?


「ゆいなはきれいな心の持ち主だと思うよ」


 ハンドは、角を一本こちらに突き付けた。


「困っている人を見捨てておけない。でも、この世界でモブに親切にすると、ろくなことにならないのはわかってるだろ」


「それはそうだね」


「じゃあなぜマジックバッグを渡した?メインキャラ以外のものにかかわるとどうなるか、まだ、心に沁みついていないらしい」


 耳なりが脳の奥を痺れさせる。その先を聞きたくないと主張するように。


「お前のカバンを持っていた男が今日処刑になる。お前がかかわったせいで。まぁその男も自業自得か。世界救済のために存在するゆいなに、よこしまな心を持ったんだからな」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ