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ありがとう。って思えたの。

 8-⑥


 魔王が静かにこちらを見ている。

 なにもしない。

 外の世界を荒れさせた張本人だとは信じられないほどだ。

 自分の攻撃が通らないとわかったのだろう。


「何もしてこないね」


 防御壁のあちらとこちら。

 世界は二分割されることになったけれど、すみわけがきちんとなされているように思えた。

 ただ、心地よいと思える場所が違っただけ。


「このままでいいんだ。やはり。だれも犠牲になることなく丸く収まる」

「ですが、私は心配なのです。私が死んだ後の世界はどうなるのでしょう。新しい聖女が防御壁を守るのでしょうか?」


 ハンドの平和的な言葉に私とヨウさんは頷いたが、ノリスの言葉に、セドリック様とバーディ様が息をのむのがわかった。

 皆が揺れているのがわかる。

 無用な争いは避けたい。でも、未来の危険があるならば今対処しておきたい。

 そんな心の迷いに気が付いたのか、ノリスの説得に一段と熱がこもった気がした。


「国民の皆様が納得するでしょうか。彼らは自分を守るすべを持っていないのです。世界の外側の状態を隠し続けるのには限度がある。その重責をハンド様にだけに担わせるのは私は嫌なのです」

「ノリス…」


 優しい心がこの場をかき乱す。

 ノリスの提示した不安は正しい。

 自分たちの命を脅かせる存在に遠慮する必要などないのかもしれない。


 だけど、それには私かノリス。どちらかの犠牲が付きものになる。

 どちらかではなくて、主人公でなくなった私では魔王を倒せないかもしれない。

 最初は私、ダメならノリス。最悪どちらの命も。


「なあ、儀式の前に真実の愛とやらを試してみたらどうだろう」

「それは、君とゆいなのか?」

「そうだ」


 ハンドは苦虫をかみつぶしたような顔になった。

 私はそっとヨウさんを見た。

 もしかして、告白された?


 ふっと香った花の匂いはなんだろう。名前も知らない花の香りをかぐたびに私はこの心臓が壊れるほどの躍動を思い出すことになりそうで。思いっきり息を吸い込んだ。

 かぐわしいにおいが胸まで吸い込まれていった。


「ゆいなちゃん、いいだろうか?順番が逆になってしまったけれど、君が好きです。付き合ってください」


 何も言えなかった。

 会えなかった不安とか、自分のことをそういう対象では見てはないんじゃないかという不安とか、いろんなものがないまぜになって瞳に水が溜まっていく。


「だめだろうか」

「私も好き」


 やっと言った。


「よかった」


 ヨウさんは私の大好きな優しい笑顔を見せてくれた。


「ハンドさん、ゆいなちゃんと付き合うことになった」

「聞いてたよ。父親の気分だよ。あの小さかったゆいなが」

「いやいや、初めて会ったの14歳だから!」


 ハンドはその辺にある石に腰かけた。

 風が長めの前髪をゆらす。

 さすがメインキャラクター絵になる。


「あのー。魔王のこと忘れてません?」


 ちいさく、誰かがツッコミをいれた。そういえばと振り返る。

 魔王はもういなかった。

 何だったんだろうと力がどっとぬける。

 魔王はすごい力を持っているけれど、こういうゲームではモブに等しいから扱いはこんなもんなんだろうか。


「じゃあ、魔王を倒してもらおうか」

「え?もう行っちゃったし、共存の道をたどるんじゃないの?」

「真実の愛とやらを見せてもらおうじゃないか。なあに、ゆいなが防御壁の外に出ればまたどこからかやってくるよ」


 真実の愛パワーね。

 ヨウさんとの愛が真実じゃないとは思わないけど、それってどうやってだすの?


 大好きなヨウさん。

 ずっと一緒にいたい。

 もっと知りたい。

 彼の支えになりたい。


 そう思うことが真実の愛なの?

 ちょっと試しに真実の愛パワーと心で念じてみていると、ぶしつけな視線に気が付いた。

 切り株に大股開きで座ってハンドはこちらを試すように不敵な笑みを浮かべている。

 やってみろって感じか。でも。


「わたし、今の力ゼロだけど」

「うん。知ってる。そういうピンチの時にこそ必殺技というものは発揮されるのだよ」

「そういうもの?」


 ヨウさんを見ると、ピンチのはずなのになんだか楽しそうだ。


「力は心配ない」

「あ、精霊さん」


 どこからともなく精霊さんが現れた。

 瞬間移動、もしかして使える?

 メインキャラクターのハンドの固有魔法だったはずなのに、いつの間にか使える人多くなりすぎじゃない?


「ここの場所を教えてくれたんだ」

「ありがとう」


 お礼を言うとぴかぴかする。


「じゃあ、任せるよ。ショータイムだな。あぁ中継したかったな。どれだけの金が集まるだろうか」

「しましょうか?」

「いや、残酷な映像が流れても困るからそうだな…」

「真実の愛は念じれば勝手に発動するような描写がなされてましたわ」


 ノリスがそれた話を戻して助言をくれた。


「うーん。でもさ、魔王。何もしてないよね今のところ。もっと愛をはぐくんでからでも」

「そうなんだよね」

「そうなんだよ」


 三人でうだうだ言っているとノリスが、防御壁から飛び出した。


「ゆいながしないなら私がします!皆さんは甘いのです。先ほども言いましたが人はいつ死ぬかわかりません。もし、聖女が失われたら?」


 魔法陣があらわれた。


「ノリス様!もしかして儀式を?」

「危険だ」

「真実の愛を得られなかった私など、これぐらいしかできないのです」


 ノリスは防御壁を張らない。

 いつ魔王が戻ってきてもおかしくない。

 

 魔王に真実の愛でうち勝てばグッドエンド。

 真実の愛が不発ならバッドエンド。

 魔王の役割。魔王だって世界の操り人形。パーツの一つ。


 あっちがどんな風に思っていても、来ないわけにはいかないんだ。


 とっさに、飛び出て魔法陣の中のノリスの前に立つ。

 聖女の首を捧げる儀式の魔法陣の上に、聖女が二人。(元含む)はまずいんじゃなかろうか。

 魔王が寄ってくる気配がする。

 行ったり来たり、役目と言えども魔王もご苦労様だ。


「いや、怖い」


 背中の方でノリスの気配が消えた。

 振り返る余裕はない。

 防御壁を張ろうとするが一瞬で消える。


 力切れてたんだった。


 魔王と共に群がってきていた魔物がこちらにとびかかってくる。

 後ろから魔法が飛んできて奴らを撃退してくれた。


「ノリス、防御壁を張ってこのままじゃふたりとも」


 声をかけるが反応がない。


「無駄だ、腰抜かしてたから、セドリックが防御壁内に連れ帰った」


 とりあえず、現聖女の安全は確保されたらしい。

 魔法陣が光りだした。

 これは、元の予定通り私が生贄となって魔王を消滅する作戦が始まってしまったのでは。


 逃げようにも、なぜか体が動かない。

 もういいかな、ヨウさんにも会えたし。

 半ばあきらめの気持ちで体が一層重くなっていく。


「とりあえず、真実の愛の力ためしてみようか」

「って。え?ヨウさんの声?どこから?」

「ここだよ」


 地面がひび割れて、崩れた魔法陣の隙間からヨウさんが顔を出した。


「なぜに下から?」

「君の方になぜか行けなくて、行ける方法を探してたら地中だった。とりあえず、真実の愛の力試してみようか」

「はい」


 ふたりで並ぶ、手をかざした。


「で、ここからどうするの?」

「さあ」

「真実の愛パワーとか二人で言ってみる?」

「はい!せえの」

「真実の愛パワーーーーーー!」


 とりあえず、言ってみた。が、何も出なくて恥ずかしい。


「何やってんだよ」


 後ろからハンドが大笑いしてるのが聞こえた。


「ちょっと、メインキャラなんだから見物してないで何かしなさいよ」

「メインキャラクターだから慎重に隠れてなければいけないんだよ」

 

 とかなんとか返ってきた。


「雑魚は任せろ」


 それは助かる。けどなんだかな。

 魔王は、私とヨウさんで何とかするしかないらしい。

 力をヨウさんにもらう。ヨウさんの防御壁の上に自分の防御壁を添わせてガンガン攻撃してくる魔物たちの力ももらっておいた。


「こういうのって、少しずつ弱らせて最後に大きい魔法で留めドカーンだよね?ヨウさん。戦隊モノとかさ」

「たしかに。そういうの多いよね。でも、これは見せ場とか作らなくていいんじゃないかな?これがメインじゃなくて恋愛がメインのゲームなんでしょ一応」

「一応…。確かに。じゃあしょっぱなから最強魔法で攻撃したらいいの?」


 ヨウさんがイメージを伝えてくれて、会えなくなってからもずっと練習を続けてきた魔法。

 力が限られているから、イメージトレーニングが9.9割で実際にうったことはない。

 でも魔法を成功させる自信はある。

 あとは、それが魔王に効くかどうか。


「効くかどうかじゃないね、効かせる」


 精霊さんがたくさん周りに寄ってきた。

 光が大きくなる。

 もう、魔物も何かを感じ取ったのか最後の攻勢をかけてくる。


 力を貯めるだけ貯めてもっともっともっと。


 「防御壁が消えた」


 世界の妨害か。


 「攻撃魔法も使えん」


 好機と見た魔物たち。


「が、なぜか使える瞬間移動」


 ヨウさんが接近戦で倒していく。

 魔法もこぶしで跳ね返している気が。


 どんだけチートなんだろう。

 モブなのに。


 違うか。


 努力だ。


 いやいや。努力だけでどうにもならないことの方が多いから!普通は!


 ヨウさんのおかげで力が限度までたまった気がする。

 防御壁が消えたおかげでそちらに流れる力もない。

 今が最高に力を発揮できる時だ。


「いっけー」

 

 私の腕から景気良く血が飛び散った。

 魔王は倒されるために生み出されたキャラクター。

 ちょっと心が痛むけど、私の大切な存在を脅かす存在であることには変わりないから。

 放たれた魔法は、見事に魔王に直撃して体をえぐった。


 結構、内臓とかリアルにできてるんだ。

 感心しているうちに、再生していく。

 あともう一歩なのに!


「くそ、手ごわいな、何かないのか?なんでもいい」


 観察する。

 さすがにダメージが大きかったようで、再生は少しずつだ。

 何か倒す手掛かりはないか、目を凝らす。

 目端に何か違和感を感じる。


「なにか変」


 再生する速度が部分によって違う?

 もしかして、最優先で隠したいものがある?

 よく見ると、周りは治っていくものの、そのものが治っていない部分があった。

 あの形は、心臓みたいな核みたいな。


「ヨウさん、あの体の右上の赤いところ治ってないみたい。でもその周りは」

「なるほど、隠そうとそこに力を注いでるんだな」

「もう一度打つ!」


 力を急ピッチで貯めた。魔王に解き放つ

 しかし


「よけられた!」


 一度うった魔法は不意打ちにはならない。

 さすが魔王。

 真実の愛以外では簡単に倒れてくれないらしい。


 真実の愛。二人の間にはあると思うんだけどな。

 身体が悲鳴を上げる。

 他の人から目いっぱいの力をもらうことは体の力を貯めるところがきしむような痛みを伴う。

 体の傷も痛いけれど、こっちも相当堪える。


「ゆいな、だめ、無理したら力を貯めるダムが決壊してしまう。魔法を使えなくなってしまう」

「そんな設定聞いてないんだけど」

「まさか、そんな無茶な方法取るなんて思わないから言わなかった。もうやめて、いつ壊れてもおかしくない」


 ノリスが言うのは力が貯める場所のこと、命がとられるとは言ってない。

 じゃあやるしかない。

 力を込めた。


 あと一回かもしれない。

 でも、さっきよりも大きな力を無理して貯めないと。


「いっけー」


 渾身の力を込めた。

 ピきっと何かが割れた音がした。

 これ以上は無理。出せない。


 今度は頬が切れたのがわかった。

 つんとサビっぽい匂いがする。


 魔王がよけられないように大きなものにした。

 その目論見が当たって

 魔王を力が呑み込み爆発した。


 燃えて燃え盛る炎の中から、

 魔王が出てきた。


「まだ、やられていない」


 一回目より負傷は激しいけれど、再生できないほどではないらしい。

 もうすこしなのに。

 あの弱点見えているのに。


 もう一発もう一発。

 だめ、体が動かない。

 この感覚は覚えがある。

 なに?世界の妨害?


「だめなの?」


 そのしゅんかん、何かが魔王の弱点の核にぶつかった。

 そして、落ちていく。

 魔王。倒れる。

 核だった部分から光が放たれ、

 落ちていくものがまぶしくて見えなくなる前に、私はかけだしていた。


 身体が動かないなんて、世界の妨害なんて忘れていた。

 ただ、それを失いたくなくて。

 下にいき、腕を広げる。


 そのものを傷つけないように、優しく包むように。

 受け止めたい。


「いやいや体重差!むりだから!」


 後ろからハンドの声が聞こえる。

 精霊さんが現れて防御壁を張ってくれた。

 ぽよん。

 トランポリンみたいに弾んで受け止められる。


「やったぞ、やっぱり最後はこぶしだな」


 まぶしい笑顔のヨウさんが防御壁の上に乗っかっていた。


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