負けを捏造されたら。私は都合の良い女です。自分を切り捨てた人を切り捨てられますか?
8-②
「新しい女の子が入ることが発表されたから元聖女起こったんじゃない?」
「勝手に抜けたくせに怒る権利はないよね」
ノリスが心配して送ってくれたみんなの反応リストを放り出した。
「やっちゃったなー」
戻ることをハンドが約束してくれていたなんてみんな知らない。
どんな態度を裏でとってくれていたのかも知らない。
優しい言葉。
口だけだったけど。
ずっと、大事なことは口に出してもらいたいと思っていた。
いつからだろう、ハンドに対してそんな思いを抱いたのは。
昔はそんなことなかった。
そんなこと思わなくても態度も言葉も十分もらっていたからだ。
それがいつしか、言葉にしてくれなくなって。
言葉にしてほしい。
ハンドはその通りにしてくれたけど。
口だけだった。
そうか。
本当は言葉だけが欲しかったわけじゃない。
態度が変わったから、言葉から態度を私は変えてほしかったんだ。
言葉は変えてくれた。あの最後の時みたいに優しい言葉はくれた。
態度は違ったのに。
怒ったのもノリスのためだけじゃない。
自分のためだ。
それって、間違いなんだろうな。
贅沢なんだろうな。
もちろん、怒られた本人は自分が何をしたかわかっているので、そっとフォローを配信でしたらしい。
それがまた、ハンドは私に対してやさしい言葉をかけているのに、それにたいして私は、なんて文句を言われているらしいと追記で書かれていた。でも、もうしょうがない。
怒るなんて下手なやり方しかできない自分をヨウさんなら何て言うんだろう。
軽蔑される?
それはかなりこたえる。
ううん。きっとそんなことしない。
なんだか不思議とヨウさんのことは信じられる。
何か言われたとしても、そう言う理由がちゃんとあって。私の理由もちゃんと聞いてくれる気がする。
それにしても、評判悪すぎる。
最初に切り捨てたのはハンドだけど、そう思われないように罠を仕掛けられていたことに気が付かなくて。
こちらが最初に切り捨てたように見えてるらしい。
「○ねばいいのに」
今日も配信に酷い言葉が寄せられていた。
同じ人から二十三回も。
はぁ。
もやもやした気持ちを抱えながら今日も、何もないところに次元の穴をあけようと力を注ぐ。
「うまくいかないね」
なにもかも。
信じてたんだ。
ハンドとはいろんな苦労をしてきた中で、ずっとこれからも協力していけることは変わらないと。
でも違っていたんだ。
精霊さんの優しい光が私を癒してくれている。
もう王宮には行けない。あの時までに読んだ本の試行錯誤は195個。全部だめ。
主人公じゃなくなった私。モブの私。
でもさ、人生において誰かのモブであるのは当たり前で。
ヨウさんのモブじゃなくて、ヒロインになれればそれで十分なんだ。
力を注ぐことをいったん止める。
これから、どう注いでいくか。
この場所に残ったヒントは何かないだろうか?
何か今まで経験したことにヒントはないだろうか?と考えて教会で空いた穴の再現を試みていた。あれはこの世界のどこかとあの場所をつなぐものだろう。
となれば、あれができるようになれば、応用で、ヨウさんのいる世界につなげるかもしれない。
たぶん。
そして、数日の成果として次元の穴をあけることには成功していた。
ヨウさんが教えてくれたことの一つ。
誰かの魔法を再現すること。
あの時の記憶をたどって、漂っていた力の流れを推測して再現する。
問題はそこから。
場所をこの世界じゃない違う次元にするのが難しい。
でも、なんとなくもう少しな気がしていた。
もう一度試してみよう。
初めから人が通れるぐらい大きくじゃなくて小さくしてみたらどうかな。
出来たらそれを大きくすればいい。
穴の大きさを人差し指で障子に穴をあけるぐらいに設定する。
すこしずつ、空間にひびを入れてあちら側を前にヨウさんと歩いた通路に設定する。
あそこはかろうじてこちら側だから、もしかしたらあの世界と直接つなぐよりも出来るかもしれない。
そんなことを考えながら。
指先から力が吸い込まれている感覚が大きくなる。
すごい。
今までにない狂暴な持っていかれ方だ。
こちらからあけた穴がどこかにつながったので、のぞいてみると、中は真っ暗で。
懐中電灯で照らしてみる。
穴が小さいのでなかなか難しいけれど、なんとか見えた。
中には広い空間が広がっていてヨウさんと通ったあの場所のような気がした。
後はこれを大きくすれば。
「たいへんだ、ゆいな」
「え?」
力が暴走して、声の主に降りかかる。
使っているのは聖なる力だから、体には影響はないけれど、こっちの心に悪い。
「ハンド?」
あれ以来のハンドだ。
何をしに?
わたし、まだ怒ってるんだからね。
ノリスを雑に扱ってるらしいこと。私に戻る場所を開けておくと言っておきながら、早々と底を違う誰かで埋めたこと。
「魔王が復活した」
「うん。知ってる。タイムリープしてきた?」
今更だ。過去から来たハンドならわかるけど。
無視して作業に戻ろうとする。
「そうじゃなくて、防御壁が大変なんだ」
問答無用で飛ばされた。
着いた場所で尻もちをつく。
「今から、穴をふさぎに行く。かなり大きな穴なんだゆいなも来てくれるな」
周りにはバーディさま、セドリック様にノリス。
いつものメンバーだ。
「わかった」
ってなんで言っちゃうの私。
かなり強く打った腰をさする。
あっという間のことで、精霊さんはついてこれなかったみたいだ。
力の残量に不安が残る。
防御壁を治すならば、ノリスがいれば十分だろうけれど、かなり大規模な修繕になるのかもしれない。
緊急事態なら仕方がない。
早速、出発することにした。
なんで頼まれたら弱いんだろう。
それはきっと、この世界に住む。大切な人たちの顔がチラつくからだ。
王宮からじゃなくて、そこに飛ばしてくれればいいような気もするけれど。
防御壁が壊れたなんてうわさが広がったらみんなパニックになりそうだから。よけいにね。
この間怒ってしまったこともあって、かなり気まづい。
いつもの意地悪メイドなんて、めちゃくちゃこちらを睨んでいる。
友好的だったみんなもきっと敵に回ってるのかな。
そんな、後ろ向きなことを考えてしまう。
色々考えてしまう私が一番そわそわしてるみたい。
魔王に防御壁を壊されたにしてはみんな落ち着いているみたい。大勢のお城の人に見守られて出発した。




