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負けるが勝ちと言いますが。責められても良いと思ったことをしたかった。

 8-①


 王宮の仕事をやめれば収入はなくなる。

 聖女の時からしている商会のお金はあるけれど、それは最後の砦。商売を続けるにも必要で生活費として手を付けるわけにはいかない。

 商会のトップとして働いている人への責任がある。

 自分だけならばどうにかなるけれど、孤児院の方に仕送りできないのは心苦しいということで、ハンドを見習って配信を始めることにした。


 元聖女の生活に少しはみんな興味があるかな?と思ったけれど、それは自分の思い上がりだったらしい、あまり見てもらえず。となると、スポンサーもつかずでなかなか厳しい状況が続いていた。

 それでもみてくれたり、優しい言葉をくれる人はいて。

 孤児院の方に回すお金もなんとか工面出来ていた。


「ゆいな、どう?」

「あ、ノリス!美味しそうな果物ありがとう」


 あとで、孤児院に持って行こう。


「そういえば、この間、配信に出てくれてありがとうね。助かったよ。現聖女様だからね。そうじゃなくてもノリスが来てくれると癒されるし」

「いいの。ゆいなにはお世話になってるし。で、どうなの色々と」

「うーんぼちぼちかな?」


 前の日に焼いていたアップルパイを出す。

 王宮の料理長に作り方を聞いた思い出の味だ。

 材料はあの時とは違うけれど、自信作だ。


「でも、痩せちゃったよね顔とか。きついんじゃない?いろいろ」

「髪の毛とかパサついてるかも確かに。ノリスは髪の毛つやつやでいい感じだね?」

「そんなことないよ。ゆいなの方がきれいだよ。こっちもぼちぼち。仕事はね。でも、ハンド様が」


 ノリスが、遊びに来るときはなにかハンドのことであった時。

 私はいつも慰めマシーンと化す。だから、今日もその延長だと思っていたんだ

けど。


「もう、ゆいなの配信には出るなって」

「え?」

「ごめんね。ハンド様を優先したいから」


 女の友情とはこんなにあっけないものなのかしら。ってちがうね。

 ノリスは元々メインキャラクターに恋する悪役令嬢。ハンドを優先するのは当然なんだ。

 こんな風に仲良くなれたのはきっと本当のお話にはないこと。あっちの世界にいる親友に似てるからだね。きっと。だから、これが通常。ただ、本筋に戻るだけなんだ。


「あと、この王宮から瞬間移動できる入り口も撤収するからって」


 何だろう急展開についていけない。

 王宮の本はほぼ読み終わったからいいけれどなんだか寂しいよ。


「今読みかけの本も回収してこいって。国民の税金でかったものだからって」

「そう…だよね」


 しょうがないか。


「でね、商会の方のお金もたぶん、使えなくなってると思う。孤児院の方への支援がゆいなはあるからそれはひどいんじゃないんかって言ったんだけど、聞いてくれなくて」


 次々と放たれる。状況の変化についていけない。

 心臓がバクバクしてくる。

 試しに商会のお金にアクセスしてみる。

 はじかれて使えない。権利を調べた。

 すべてがハンド一人のものに書き換えられていた。


「大丈夫?」

「うん」


 しょうがないよね。そう、しょうがない。魔王を倒す調査にはお金が必要だったのかもしれないし、私がお金を必要以上に使ってしまうかもしれない懸念があったのかもしれない。

 きっと、ヨウさんのことが終わってもどれたら、全部元通りになるはずだ。


 言い聞かせても動機は収まらない。不安も募る。

 お金の不安。久しぶりだ。

 そんなあたしにノリスがとどめを刺した。


「あと、聖女に頼っている状況は嫌だからって。他の子を入れるって。私はいいんだけどゆいなの帰ってくる場所がなくなっちゃった」


 寂しかった。怒りがわいてきた。約束しなければよかったじゃない。いつものその場しのぎの嘘をあんなに大事な時に言うなんて。

 でも、踏みとどまった。


「ひどいよね、主人公じゃなくなったゆいなには価値がないからってこんな」

「それ、どういうこと?」

「え、ごめん。ハンド様が言ってたのをつい」


 あのとき、もうすでに決めていたの?

 ノリスの言葉で行き場のない怒りが沸騰して体を駆け巡った。

 あの会話は私が主人公で亡くなったことを確認するためのものだったの?


 切り捨てるための?

 でも、やっぱりしょうがないよね。

 怒りがしぼんでいく。


「あとね、胸が張り裂けそうなことがまだあって」


 ノリスの顔がゆがむ。

 爪をきつく腕に食い込ませた。

 やめて、きれいな肌に傷がついてしまう。その傷が心の傷を増幅させる気もする。


「でね新しく入るこは女の子を入れるんだって。その子を聖女にまつりあげるんだって」

「え?なんで、ノリスがいるじゃない」

「わかんない。私じゃダメなんだと思う。仲良くしているのを見るのがつらくて、悲しくて、裏で連絡も頻繁で取り合っているみたいだし。たまに知らないことを彼女だけが知っていることがあって、悲しい。こんなこと思っちゃダメってわかってるの。心が狭いって」

「そんなことないよ。好きな人なら当然だと思う。それ、ハンドに言った?」

「言えないよ。嫌われちゃう。どうすればいいのか」


 ノリスは恩人だ。ハンドも恩人だけど。

 出したアップルパイに手はつけられていなかった。

 でも、食べて。と言えるような雰囲気じゃもちろんなくて。

 美味しいものを食べたらほっと一息つける。

 心がふわっと軽くなる時もある。

 でもきっと、まだ。

 私の作ったものでは力不足だ。


「もうだめ。だれにも頼れなくて。こんな私なんかのために誰も動いてくれないよね。進言してくれればいいんだけど」

「そんなことは」

「その女の子、飲み会で知り合った子みたいで。私のことなんて配信でだけ。優しくしてくれるのは」


 思わず、ハンドに怒りの手紙を送ってしまった。


「なんでよ!裏切られた気分だよ!」


 その手紙は声が出るタイプだった。

 ノリスが手伝ってくれた。

 某物語の手紙をイメージした。届いたら叱責が始まるタイプのものだったので、その時配信中だったハンドにたどり着いた手紙の声は全世界に飛び回ってしまった。


 あぁ。アップルパイを一口食べて美味しいを感じて、心を落ち着けなければいけないのは私だったよ。

 自分で自分の機嫌取らないといけなかったよね。


 それぐらいしなければ、きっとハンドは変わらない。

 ノリスをきっと失ってしまう。

 でも。

 やっちゃったなー。

 後悔。


 思った以上にその手紙の内容は反発を受けた。

 頑張っている王にかける言葉じゃない。とか。

 何があったのか言わないのならそういうことは言うべきではないとか。


 そう。

 具体的なことはかけなかったんだ。

 だって、配信してるかもしれない時間だったから。

 頭に血は登っていたけれど、それぐらいの分別は残っていた。

 言わないでいられる分別まで残ってればよかったのかな。


 人間的に間違っているよね。。

 でも、やっちゃったものは仕方ない。


 せめて彼に伝わって変わってほしい。近くの人を大事にしてほしいと。

 裏でしたらよかった。

 それはそう。


 結局、中途半端。


 だから、私が責められる。

 ハンドが私に何をしたのかを知らせたら、こんなに責められなかったかもしれない。でも、それはハンドを悪者にすることで。

 私はただ、彼に直してほしかったし、彼だけを悪者にしたかったわけじゃない。


 このまま、何もこのことについては釈明しない。

 悪者にされても、甘んじて受けよう。

 それが、もと相方としての私の矜持だから。


 これからの彼の未来がよりよくなるように、私は祈っている。

 そんな、自分勝手なやり方に文句を言う人も多かったけれど、心配してくれた優しい人もいて。そういう人の為に私は生きる。


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