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恋愛ゲームの主人公になったのに好きがわからなくて世界が滅びそうです  作者: cococo
元恋愛ゲームの主人公の私にできること。
40/47

元恋愛ゲームの主人公でした。平和な夜なはず。

 7-⑥


 その日は私が森に置き去りにされた日と同じく月が出ていなかった。

 懐かしいな。あの時、最悪な状況に見えたけれど、この世界にまだヨウさんがいた。


 精霊さんに見守られながら、ヨウさんの消えた場所にもう一度次元をつなぐ穴をあけられないか、力を注ぐ。

 王宮の図書館の本を読み漁った結果。次元の穴をあける方法は王宮からいくつか見つけていた。

 だけど、だれもそれに成功していない。


 実験するほどの力を持った人がいなかったからと仮定して試行錯誤を続けている。

 私に無尽蔵に湧く力はもうない。

 でも、力を貯めて一気に放出できる器は残っている。


 精霊さんから力をもらって、その実験をずっと続けている。

 協力者は精霊さんだけじゃなくて。

 ハンドが、この場所にすぐに来られるように、王宮から瞬間移動できるドアをつけてくれた。

 ほかの世界からわたってくる人を保護するという名目をつけてここを維持する予算も通してくれた。


「ゆいな、もうここがおまえの家みたいだな」


 休憩中、自分から離れた場所に防御壁を作る練習をしているとハンドが今度は穴の前まで訪ねてきた。

 目の前では精霊さんが次元の穴をあけるチャレンジをしてくれている。


「うん。なんだか他の場所にいると落ち着かなくて」


 ヨウさんが来た時にこの場所にいたい。

 ハンドは近くにあった切り株に腰を掛けると、精霊さんをちらりとみて私の方を向いた。


「主人公なのに、何も思い通りにならないんだな」

「私が主人公なのは私の人生においてだけ。今のこのゲームの主人公はノリスでしょ?」


 当たり前にわかってると思ってたけど、わかってなかったのかな?ノリスが謙虚だから自分ではそんな態度をとってないからだろうか?


「変わりが効かないから主人公って特別なんじゃないか?そんなに世界に都合よく変わったら、主人公の意味があるのか?主人公がその物語から退場するのは死ぬか生きるか、シリーズが変わるか。何も解決していないのにまだ何も実っても敗れてもいないのに、替わるなんてそんなのありえない」

「水飲む?」

「酔ってねえよ」


 水筒から水をくむと、文句を言いながらも一口飲んだ。


「なあ、これはここだけの話なんだが」


 防音されたのがわかった。誰もいないのにね。

 何をそんなに警戒しているんだろう。


「主人公って本当に今はゆいなじゃないのか?」

「だって、聖女が世界を救うゲームなんだよ。その聖女は力の供給を断たれた。おそらく世界から。そして他の聖女が現れた。もうね。主人公が変わったとしか」

「そうか。じゃあ、それなりのけじめをつけないといけないな」


 ハンドは上を向いて下唇をなめた。


「聖女としての任を正式に解こうと思う。国のことも心配しないでくれ、ノリスが全部まわしてくれる」

「急だね」

「あっちの世界に帰りたいんだろ、そっちの方法を探るために王宮に戻ってきた。なのに、仕事に忙殺されてなかなか資料を漁れてないだろ?」


 心が温かさで満たされる。

 もしかして、それに集中できるように?

 でも、仕事を押し付けてるのはハンドだから微妙か。


「世界と世界をつなぐなんて大仕事、中途半端じゃできない。応援してるからな」


 嬉しい。

 実は、仕事をしながらも睡眠を削って本を読み漁っている

 使えそうな部分をまとめたり、試してみたり、やりたいことは山のようにある。


「ありがとう。ハンド」

「まあ、引継ぎまでは今まで以上に馬車馬のように働いてもらうけどな」

「え、台無しなんだけど感動が」

「じょうだんじょうだん。俺の所にも、聖女働かせすぎという意見が届いていてな。これ以上は酷だな」

「そんなにひどい顔してたかな」


 ハンドはカッコつけた。


「いつも可愛いよゆいなは」


 そこら辺に落ちている枝を拾って決めポーズ。

 枝か…

 こんな風に当たり前に落ちている枝さえ、防御壁の外には落ちてないのだ。

 すべてが荒廃した世界。


「ねえ、ハンド。真実の愛で魔王を倒す当てができてるって思っていいんだよね」


 ノリスが喜ぶ顔が浮かぶ。


「任せろ。あとは、二人の関係が友達だとはっきり言っておかないとな」

「みんなを傷つけることになるね」

「やめておくか?このままでも俺は構わない」


 それはノリスが可哀そうだ。


「ううん。自分の幸せのために行動しようと思う」

「行動…か。この頃、俺のファンがかなりゆいなに怒ってるみたいだな」

「はっきりと言っちゃったからね。ハンドは違うって。弟みたいだって」


 ノリスの為もあるけれど、人を理由に挙げるのはなんだか卑怯な気がした。自分がそうしたいからする。ヨウさんみたいに。ヨウさんは私に自分が合いたいから命の危険を冒してもいいと言ってくれた。

 私に、荷物を。責任を背負わせないでくれた。


「今更、利己的な話だな」


 ハンドには言われたくない。


「俺に何か言いたげな目だな」


 自分の利益のために、今までさんざん私に色々と濡れ衣をかぶせてきましたよね。それでどれだけ、ハンドのファンに責められたか。ハンドが責められるすぎるのを見越してそのまま何も言わないでおいてしまう私も悪いんだろうけどさ。


「自分が可愛いのはしょうがないさ。さっきゆいなが言ってたようにみんな自分の人生の主人公なんだから。俺以外は全員モブ」

「何も言ってないよ」

「外れてたか?」


 さらっとひどい考えを披露したハンドの言い訳は完全に私の考えを読んでいたものだと思うけどうなづくことはせずに、曖昧に笑って見せた。

 それにしても生配信、向いてないよね。

 とっておきの時しか生配信をしないで編集が必ず入るようにするのはこれが理由だ。

 私も人のこと言えない。配信苦手。


「そんな風に笑うようになったのはいつからだったからだろうな。なぁ気がついているか?多分、ゆいなは俺が変わったと思ってるだろ?でもな、おまえだってかわってるんだ。どっちが先かはわからんが」

「それは後悔があるってこと?」

「俺は前しか見ない」

「かっこいい〜。元カノへの未練ばっかり言ってるくせに」


 まあ私は元カノでもなんでもないけれど。


「うるせー。それが終わったら、また、こっち手伝ってくれよな。ゆいなの場所あけてまってるから」

「ハンド」

「とりあえず、長期休暇だな。したいようにしておいで、落ち着いたら戻ってくるのをまっているし、さっきも言ったけれど帰る場所はあけておくから」


 私は頷いた。


「ありがとう!」


 この先、ヨウさんに会える方法が見つかるかは不安だけれどその一言が励みになった。


「方法が見つかったら、またハンドを手伝いたい」

「だからとりあえず、証書をもらって言っていいか?今まではゆいなに金の面は任せていたが、これからはそうもいかなくなるから」

「もちろんだよ」


 必要なものを家から持ち出し、魔法を解除する。これは、私にしか解除できないようになっている。だから、こんなに無防備な家に置いておいても安心だったのだ。


「じゃあな、これで最後だ」

「最後じゃないよ」

「そうだな。とりあえずこれを俺が持っていることについては俺から話すから。だれにも言うなよ」


 念を押してからハンドが消えた。

 暗い空に精霊さんがふよふよときれいな夜だった。


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