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恋愛ゲームの主人公になったのに好きがわからなくて世界が滅びそうです  作者: cococo
元恋愛ゲームの主人公の私にできること。
36/47

元恋愛ゲームの主人公でした。主人公じゃなくなってもこの世界でまだ人生は続く。

 7-②


 信じた人に裏切られたことはない。

 一人目がハンドになるかと思ったけど違ったみたい。

 でも、恋愛となると別で。

 いつも裏切られてばかりいたような気がする。たぶん。


 記憶のあいまいな部分があって、恋愛で苦い思いばかりしていたと確信する自分と、全部じゃない、かすかにほっとするような感覚を思い出させる部分もあって。

 恋愛で妥協しなくても大丈夫。いい人がきっといる。いなくても一人で生きていけばいい。大切な人は恋人だけじゃないでしょ。とささやく自分もいる。


 ヨウさんに出会って。

 命の危険に陥るような場面でも、私と関わることを諦めないでくれて。

 褒めるときは褒めてくれて。


 スパルタな時はスパルタで。

 で、また褒めてくれて。

 

 あの、元の世界に帰る前。

 私は一緒に行きたくて。

 ヨウさんは危ないから確認してから行こうと言っていて。


 お互いを思うが故の意見の相違だったけれど、流さないでお互いの妥協点を探り合った。

 話ができる人って貴重だと思う。

 それが、自分を尊重してくれて大切にしてくれると思えた。


 家族の話、友達の話。

 ちょっとした会話から自分のこともきっとずっと大切にしてくれる未来がはっきりしてきて。

 この人だって、存在がどんどん大きくなってしまった。


 そばにいてほっとする人はきっとこんな感じ。

 顔も名前も思い出せないけれど。

 もしかして、ヨウさんがこの世界に乗り込んできた目的が私で、元の世界で二人は付き合っていたとしたら?


 なんて、考えても無駄。だよね。

 ヨウさんが消えた場所に来てみた。

 もちろん何もない。


「あいたい」


 ぽろっとこぼれたのは言葉と涙。

 無事だったのかそれも知りたい。


「あきらめない!」


 魔法はイメージだ。

 先生がいるほうが上達は早いけれど、そういうものがあると知っているだけでもそれは力になるはず。

 私はここにあちらの世界につながるゲートが開いていたのを知っている。


 それはあちらからだけのものではないはず。

 教会でも同じようなものが開いていた。

 瞬間移動の原理を異なる世界をつなぐことに応用できればもしかしたら。


 私は世界に召喚されてここに来た。

 でも、世界の通りに生きなくたっていいはずだ。

 元いた場所にはもう立派な主人公がいるし、もうこの世界には私は必要ない。


 だったら。

 私を必要としてくれている人の元に帰ってやる。


 と、意気込んだものの。

 どこから取り組めばいいのやら。

 あの時の魔法を思い出して。


 ヨウさんと魔法を練習した時みたいに。

 同じ波動を体でだせればつながるはず。

 あぁ力がほしい。


「ねえどうしたらいいんだろう」


 精霊さんに問いかける。

 もちろん返事はない。


「色々試したいけれど精霊さんに力をもらってる身じゃない?自由に使える力がないんだよね」


 机にうつ伏せになる。

 今は精霊さんにもらった力を増やしてちょっともらって精霊さんに返している。

 いつかは精霊さんの力も尽きてしまうだろう。

 使えば使うほど、その時は早くやってくる。


 机の木のかすかな湿り気が頬に伝う。

 外は雨。

 恵みの雨。


 魔王に支配された防御壁の外には生きるものにプラスになるものは降らない。

 ジメジメしたこの気候でさえ今では愛しい。


「なにか、使える力ないかな自分自身で精製する方法とか」


 試すことさえ、ままならない。

 手紙が舞い込んできた。ノリスからだ。

 ノリスにもこのジレンマを相談していた。


 手紙にはノリスらしい優しい気遣いの言葉が並んでいた。紡ぐ言葉は友情に厚くて恋愛ゲームの主人公というよりも少年漫画の主人公みたい。そんな言葉と共に前の世界でおなじみのキャラクターの絵が描かれている。


「懐かしいな」


 いくつかの漫画の主人公たち。

 そんな彼らが活躍する場面が頭に流れ込んでくる。


「あぁそうか、命だ」


 書かれていた漫画の主人公たちの共通点。いざという時に命の火を燃やしていた。

 精霊さんがたちの動きがにわかに激しくなって、頭の周りを飛び回る。

 たぶん、やめろと言ってくれているんだと思う。


 でも、使えるものがあったら使いたい。そうと決まったら早速取り掛かる。

 あの波動を体で再現して、穴をあけてつなぐ要領で。

 しばらく試してみる。


 命、何年分だろう。

 それは大げさだ。やっぱり寿命が縮むのは怖くて、力に変換しきれていない。

 本の主人公たちは当たり前にこんなに怖いことをこなしていたんだね。


 こんなところも主人公失格だった。

 穴もあけられない。これからどうすればいいのか皆目見当もつかない。

 ヨウさんが残してくれたマジックバッグをなんとなく開ける。


 食料が乏しくなってきた。

 買い出しに行かなければ。

 こんなに何ができるか、何をすればいいのか手立ては何も思いつかないのに、おなかはすく。


 在庫を確認しようとカバンの中を全出ししていたら、古びたノートが出てきた。

 ヨウさんの字だ。

 そっと開く。


 日記だったらごめんなさい。

 そこに書いてあったことが、私に光をくれた。

 力のこと、あっさり解決しそうなことが書いてあった。

 これがうまくいくならばあとは、元の世界に戻るための次元の穴をあける方法を見つけ出すだけ。


「ヨウさんすごいよ」


 力を得る方法は確保できた、次のことを考える。

 やっぱり、穴をあけるとか新しい魔法を覚えるには実際にその使い手を見たいよね。

 他の場所とつながる穴をあける魔法は存在するのだから、その資料をどうしても見つけたい。

 王宮の図書館に何かヒントがあるかもしれない。


 私はあっさり王宮に戻ることを決めた。

 自分勝手だけど、私が私を幸せにする行動をとらないで誰がする!

 もちろん、戻るからには新しい主人公のノリスも幸せになるように邪魔はしないし、サポートに徹する。

 

 周りの人をもっと幸せにする。

 ヨウさんがそうしていたように。


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