元恋愛ゲームの主人公でした。裏切られてなかった?
7-①
最後までヨウさんを防御壁の外側に感じることができないまま、最初の防御壁は消えてしまった。
「ヨウさん!ヨウさん!」
呼んでも声は返ってこない。
今はただ無事であっちの世界についていることを祈ることしかできない。
メインキャラクターではないけれど、真実の愛をはぐくめそうなヨウさんがいなくなってしまって。
私はこの世界にとどまってしまった。
世界はもう私を主人公として見捨てたはずなのに。
この先、恋ができる気がしない。
メインキャラクター以外に恋したとき、主人公であった私に激しい妨害を繰り返してきた世界。
まだその妨害があるかはわからない状況で誰かを好きになるなんてできない。
ヨウさんだけが特別だったんだ。
ダメだとわかっていても、恋に落ちてしまった。
元の世界に帰ってヨウさんと結ばれて。なんてうっかり早々と描いてしまった未来が閉ざされた。
この先、私はどうしたらいいんだろう。
元の世界への道があった場所を眺める。
またひょっこりと開かないだろうか。途方に暮れてたたずんでいた。
新しい聖女としてノリスが力を発揮している中で私が必要とされることなんてあるの?
何のために世界は私を元の世界に帰らせなかったんだろう。
あっちの世界に私が戻ったら不都合なことがあるの?
もう、主役は私じゃないはずなのに。
主役を外されたはずの私の今の役目はなに?
しょうがないので、小屋まで戻ることにした。
小屋には穴が開いていた。
私がヨウさんを助けるために伸ばしていた防御壁がここまで届いて、小屋を貫通していったみたい。
「精霊さん、ここ全体を包んでいる防御壁は無事なの?穴開けちゃった?」
ちかちかと光っている。
何かを伝えようとはしてくれているみたいだけれど、ヨウさんとちがって、私にはわからない。
「質問かえるね、穴は開いた?YESっていう意味で1回光ってくれる?NOなら2回その他なら3回」
ちょっと迷っているのかしばらくして、1回点滅した。
「え!大変、ふさぎに行かなきゃ」
小屋の穴を通り抜けていけば穴の開いた方向はわかるはず。
慌てて行こうとすると
精霊さんがぴとっと鼻に張り付いた。
通せんぼってことかな?
「もしかして、今は塞がってるから大丈夫ってこと?」
1回点滅して映像が流れ込んできた。
「なるほど、私の張った防御壁は精霊さんたちが作った防御壁を破ったけれど、無事にふさいでくれて修復完了?」
1回点滅。せっせと直してくれている精霊さんたち可愛かった。
この方法便利。
「了解。じゃあご飯にしよう!精霊さんたちはご飯食べる?」
二回点滅。
「じゃあ、一人でいただきます!」
バッグに入れていたスープを温めて皿に盛る。
一口食べる。
こんな味だったかな?
さっきはもっと美味しい気がした。
でも無理やり流し込んだ。
空になったスープボウルをながめていても暗くなるだけだったので、思い切りよく立ち上がると何かが衝突した音がした。
動物か何かかもしれない。
最悪魔物かも。
なんにせよ家の防御壁を張りなおしておいてよかった。
ほうっておけばいいと思っていたのに、ずっとぶつかってるような音が続いているので、ひょいとのぞいてみると手紙が来ていた。
防御壁に守られて。
その防御壁が私が家の外周に張りなおしたものにぶつかって、大きな音がしていたのだった。
防御壁入りということはノリスだろうか。
手に取ると、スッと防御壁が消えた。
開けると、空に映像が映し出された。
ハンドに、バーディ様、セドリック様、ノリスが横に並んでいる。
顔はとても神妙だった。
「魔王のスパイを取り押さえました。一つの脅威が去ったことをここにお知らせします」
スパイ?
「敵の目を欺くために聖女ゆいなをおとりに使いました。というのも聖女が心の病をおっていたからです。それが判明すれば魔王に付け込まれるかもしれません。魔王はとてもずるがしこい。なので、聖女を休ませるためにもあのような強硬な手段を取らせてもらったのです。脅威は去りましたが、聖女がいつ復帰できるかはわかりません」
ハンドが神妙な顔つきで話している。。
「私が、ゆいな様の代わりにハンド様を支えたいと思います」
ノリスがいい、ハンドは下を向く。
悲しそうにも見えるけれど、あれは喜んでいる。笑いをこらえているのが手に取るようにわかった。まったく。幸せそうで何よりだ。
同封された手紙をみると、『だから安心して休んでね』と書いてあった。
ノリス、優しい。
この世界に来て、ノリスがいてくれたからこそ、ここまで来られた。
そして、ハンドの本当の思惑を知らせてくれた。
そっか。裏切られたわけじゃなかったんだ。
それを知ることができてうれしい。
手紙はまだ続いている。
『みな、とても優しくしてくれて、ゆいながいない穴を埋めてくれている』
「そっか、みんな元々頑張ってたけど、もっと頑張ってるんだね」
みながどんなにノリスに良くしてくれているかの感謝の気持ちが書き連ねてあった。
いつもしかめっ面だったセドリック様も優しいのは本当にノリスの人柄によるものだろう。
私の時は大変だったな。
『ハンド様はいつも笑わせてくれるし』
「そうそう。ハンドは楽しいよね」
『バーディ様は本当に人懐っこくて弟みたい』
ノリスが報告してくれることが目の前にありありと浮かぶ。
いつものみんなだ。
ノリスに似ている親友の安否が心配で帰ろうとしたけれど、もし彼女が生まれ変わりでも、ここでちゃんと幸せそうだ。よかった。
ただ、ハンドはリーダー気質があって頼りになるけれど、ふとした瞬間に前に進めなくなる時期がある。
弱音っぽいことを皆に吐くのがとてもうまいから、その時期がわかりやすいと勘違いされやすいけれど。
でも実際はそれを吐くことが自分の利益になるとわかっているから吐く。そのぐらい心に余裕がある時だけで。
その立ち振る舞いは、わかるとぞっとするぐらい利己的なものなのだけれど。
裏を返せば、まったく心配のいらない時期だと言える。
今がそうかな?
なんてね。近くでハンドを支えてたプライドが私の方がハンドのことわかってるアピールをかましてしまった。
ひとりで恥ずかしくなって顔を手で仰ぐ。
今回の作戦がまったくわからなかっただけじゃなくて、ハンドを疑ってしまったのに。
魔王のスパイを捕まえるために、私をおとりに仕立て上げた作戦。
わかってみれば、理由が考えつく。
他国における自分の存在価値のアピール。
最大限有効な形でするためのパフォーマンス。
私の気持ちなんて半ば、切り捨てる形ではあるけれど。
まさに王様のプロがいたらそんな感じなのだろうか。
ハンドにはそんな非情な一面もあると私も話は聞いていた。
彼の昔を知る人から。
その利己的なふるまいのせいで、本当に彼のために傷だらけになってくれる人がどんどん離れて行ってしまっていたらしい。
でも、それは過去の話で自分と出会ってハンドは変わったと思っていた。
だから、まさか自分もそうやって利用されるとは思わなかった。
ずっと協力していけると思っていた。
でも、彼にとって私は利用価値の高い駒の一つでしかなかったとわかって、私を安心させるために映像を送ってくれたノリスの優しい気持ちがすこし痛い。
あの、魔王だと決めつけられたときにもう、ハンドは私の味方ではないと諦めたはずなのに。
なんで心がまだ痛むんだろう。
ただ、私は利用されただけだった。少なくとも、本当に魔王だと思われていたわけじゃなかった。
そう。今はあの時よりはずっとましな状況なはずなのにね。
心が。
痛いよ。
それでも、やっぱりハンドは私を助けてくれていたことは変わらないんだよね。
だから、メンバー誰かに本当の弱音を吐けていたらいいなと思う。
色々考えて、精霊さんたちとも相談して返事を書くことにした。
「ありがとう。でも、また私が聖女としてできることをやらせてほしい」
精霊さんが手紙の返信を請け負ってくれるというので頼んだ。
精霊さんたちが作った防御壁の穴から送り出して、別の精霊さんたちで穴をふさぐ。
帰った時はまた穴をあけるらしい。
ノリスが手紙を送ってくれた時に私が張りなおした防御壁だと破れないらしいから私が直さないでおく。
このままここにいてもじり貧なのは間違いない。
精霊さんたちの世界からの供給はとまっているから、いくら私が増幅できるからと言っても少しづつ力を使っていけばいつかは失くなってしまう。
聖女でなくなる前に。
この力を役に立てたかった。
でも、力を精霊さんたちからもらっている身ではそれは勝手な気持ちでしかない。
だから、精霊さんたちに相談したのちに、聖女としてやれることをやりたいと手紙に書いたのだ。
しかし、それは叶いそうもない。
『気のすむまで休んでいいから。無理しなくていい。ゆいなにはたくさん頑張ってもらったから。ノリスが聖女としてりっぱにやっているし、新しい聖女の認知もひろめたいから。こっちの心配はしなくてもいい』
ハンドからの返事にそう書いてあったからだ。
帰ってきてほしくない。ノリスが受け入れられるために私が邪魔だから休んでいてということだ。
ノリスのためになるならばそのほうがいい。
これは、もう少し戻らないほうがいいのかもしれない。




