恋愛ゲームの主人公に代わりがいるようです。ならば。
6-④
穴に入る前。外の世界には夜が来ていた。
森の夜は息苦しくなるような暗闇しかなくて怖くて恐ろしくて、一歩前の地面さえあるのかわからない不安だらけの場所だと思っていた。
でも、ちがったの。
時空の切れ目の中には風もなくて、木々がそよぐ音さえなくて。本当に無。
ヨウさんが魔法であたりを照らしてくれなければ窒息するほど息苦しかったと思う。
私は手に懐中電灯を持っていた。
ヨウさんがこちらの世界に来る時に使ったものらしい。
あっちの世界に近づいて魔法が使えなくなった時用だ。
前方に広がるかわり映えのない暗闇。
両側に壁みたいなものがあって一本道になっているから迷う心配はなさそうだけど。
何か歌でもどうかと提案しようとした時、異変に気が付いた。
「壁、狭くなってません?」
さっきまでは両脇に手を伸ばせるほどあった左右の壁との距離が腕を軽く曲げなければならないほどになっている。
「元の世界の方が穴が細かったんですか?通れるかな?でも肩幅がっちりのヨウさんが通れたんだから大丈夫ですよね」
頼りがいのある背中にむけて軽口をたたく。
「いや、道の幅は一定だったとおもう。もしかしたら」
ヨウさんは立ち止まり、壁に両手をつけた。
そのまま身動きしない時間はどれぐらいあったのだろう。
事態が動いたのは急だった。
「壁が動いている。狭くなっている。まずい」
ヨウさんは勢いよく振り返ると、私に防御壁を張った。
私がまだ成功率が低い遠隔で張るタイプ。
その壁が鋭利な刃物となりヨウさんと私をつないでいたロープが切れる。
ヨウさんはそのまま、火の魔法を私に放った。
「え?」
いきおいよく今来た道を球体の防御壁とその中の私が転がっていく。
「うわあぁぁぁぁぁぁ」
はやいはやいはやい。
そのまま、出てきた入り口から押し出された。
なに?
穴はまだ小さくなり続けている。ヨウさんは出てこない。
私は穴にもう一度体をねじりこみ防御壁を張った。
穴をこれ以上狭くしないためだ。
いつものように自分を中心にして展開する。穴が小さくなろうとする力よりも防御壁の強度の方が優っているようだ。
どんどん広くしていく。
防御壁を張ることで、その外側にいるヨウさんはこちらに向かってこれなくなる。
それはわかっていた。
でも、防御壁がつっかえ棒となって隙間ができている間にあちらの世界にたどり着ける可能性が高まると思う。
どこまで、魔法が使える区間があるのかもわからない。
でも、何もしないで穴が塞がるのをまっているなんてできるはずがない。
早く早く早く。
自分を中心としてしか防御壁を張れないために、後方の木々が倒れる音が聞こえた。
でもそれにかまってはいられない。
私が押し出されたように、この防御壁の端っこがヨウさんに追いついてあちらの世界に運んでくれますように。
頭の奥が危険信号みたいにずきずきと痛みを伝えてくる。
精霊さんが近づいてくれて、力をくれる。
みるみる光が弱弱しくなってくるのに、供給をやめようとしない。
助けたいよね。同じ気持ちだよ。
あっという間のような永遠のような時間。
どのぐらいたったのだろう。
私の防御壁が跡形もなく消えた。力はまだ精霊さんのおかげで残っている。
確証はないけれど、あっちの魔法を使えない区間に防御壁が到達したのではないかと思われた。
いそいで自分に防御壁をはり這い出た。
次元の穴は音もなくすっと閉じた。
怖い。
激しい音が鳴るでもなく、じわじわと狭くなっていった道。
あのまま気が付かなかったらと思うとぞっとする。
あちらの世界に帰させないという世界の仕業だろうか。
魔王だって、復活します!ともっと派手に知らせてくれてた。
世界。性格悪い。




