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恋愛ゲームの主人公になったのに好きがわからなくて世界が滅びそうです  作者: cococo
恋愛ゲームの主人公をクビになったと思う。多分。
31/47

恋愛ゲームの主人公に代わりがいるようです。最初にすることは。

 6-①


「とりあえずなんか食べよ」


 さっきの緊迫感が嘘のように目の前の兵士はのんびりとした声を出した。


「ヨウさん…」


 助けてくれた。

 瞬間移動で連れてきてくれたどこかの小屋の中。

 窓から見える世界は、魔王が降臨したあの痛々しい世界ではない。


「ここは?」 


 国の領地なのだろうか。

 木々は青々と茂り草花も生き生きとしている。

 小屋の中には二人掛けのテーブルとイス二つ。

 使いやすそうなキッチン。

 ベッドが二つ。


「何かあった時のために準備してたんだ。瞬間移動ってほんと便利だよな。団のメンバーも手伝ってくれた」

「だれか他にも?」


 家具も、用意された食器類もすべて二人分。

 シンプルな新婚さん家庭みたいな。


「うん。君と逃げるため」


 恋人いるんですか?と口を挟む間もなく。予想外の回答が返ってきた。


「逃げるってなぜ?」

「まあそれは大げさとして、この頃の君は苦しそうで。息が詰まりそうで。なんとなく心配だったんだ。で、こういう隠れ家とかもあったらさ少しは気分転換できるんじゃないかと思って」

「それで二人分?」


 お湯が沸いた。ヨウさんがお茶を入れてくれる。

 とてもいい香りのするハーブティー。


「たまに、一緒に来て遊べたらと思ったんだ。このあたり釣りができる場所があったり、少し足をのばしてキャンプしてもいい。どう?」

「それは楽しそう!」


 思い起こすと、こちらに来てから遊ぶっていうことまともにしてこなかったきがする。


「まあそれはおいおいということで、さっきも言ったけど、とりあえずなんか食べよ」


 出してくれた食事はパンや野菜、フルーツ。チーズ。など思いのほか豪華だった。

 ヨウさんの手にはマジックバッグがあった。

 私のものは王宮に置いてきてしまった。


「出会ったばかりの俺に君が貸してくれたこれ、高いだけじゃなくて貴重なものなんだな。びっくりしたよ。王のために材料集めて作ったんだって?実際に俺がこれを注文するために材料集めるのもかなり大変だった。おまけに君の物には二つのカバンで中身を共有できる魔術がかかってるだろ。これを作った職人にそれは聖女でもかなり大変な作業だろうって言われたよ」

「たしかにもう二度と作りたくないかもね」


 空間を共有するってほんとかなり大変な労力がいるんだ。

 ハンドにごねられて渋々作ったけれど、その時の苦労を思い出してげっそりした。


「これからどうするの前に、とりあえず腹ごしらえだ。で、肉とか焼ける?おれ、全然料理できないんだよね」

「なにがあるの?見せて!」


 テーブルの上においてあるマジックバッグを二人で覗き込んだ。

 あらゆる食材が入っている。


「わー何でも作れそう」

「そうなのか。わからないなりに集めといてよかった。おれは野菜ゆでるね」


 鍋に水を張り野菜をそのまま入れようとしている。


「ヨウさん、野菜切らないの?丸ごとゆでて野菜の栄養を逃さない派?」

「あ、やっぱり切るよな。包丁、自信なくて」

「え!剣をあんなに上手に操れるのに?」


 ちょっと不服そうな顔をした。


「包丁と剣はちがうだろ」

「一緒にしよ」


 野菜をそのまま入れようとしていたのをさりげなく水場に誘導する。

 ゆでるとはいえ、洗いたい。


「ヨウさんにも苦手なものがあったんだね」

「そりゃそうさ。見せないだけで結構ある。ぬるっとぷにっとしたものとか。夜の森で光る蛇の目。風呂で汗を流せない状況」


 少し考えるそぶりを見せて付け加えた。


「あ、それとこっちを利用するだけのやつとか」

「それは誰でも苦手なのでは」

「そうか?それぐらいのガッツがいいっていうやつもいる」


 人の好みはいろいろだね。

 だから自分にも合う人がいると信じられるのかも。


「ヨウさん、包丁うまいよ」

「そうか?」


 怖がっていた割には、迷いがないし安定している。

 無事に野菜をゆではじめられたので、今度は他の料理を作り始めることにする。


「何すればいい?」

「休んでて。サプライズしたい」


 なににしようか。

 肉はさっと塩コショウでやいて、ふわふわのスクランブルエッグを添えてもいいな。

 でもたれを作ればゆでた野菜の味付けにも使えて一石二鳥かも


 スープも作ろうか?

 野菜をゆでてるなべ、その野菜を半分だけ残してトマトを加えてスープにしちゃおう

 おなかもすいてきたので、ササッと作れることを念頭に作り始めた。


「この間、孤児院でも思ったが君は料理がうまいんだな」

「うーん。こっちに来てからもあまり作る機会がないのでうまいかわからないけれど、なぜか、なんとかなってて。前の世界での記憶では料理があんまり得意じゃなかった気がするんだけど。出前とかコンビニ弁当とかレトルトとか。外食とか。そんなイメージしか沸いてこない。不思議だよね」

「そうか」


 ヨウさんが少し悲しそうに笑った気がした。


「大丈夫?」

「ん?」

「泣きそうな気がして」

「それは、いや。なんでもない」


 ヨウさんが近づいてきてフライパンを覗き込んだ。


「うまそうだな」

「サプライズしたいって言ったのに」


 軽く睨んだそぶりを見せる。


「いや、見てないから」

「見てたよね絶対」

「記憶にない」

「もう」


 ふたりでお皿に盛りつけた。


「うまいな」

「おいしいね」


 ことのほかうまくできたみたいで満足だ。


「日本のゲームの世界だからか、ある程度調味料がそろっていて助かる。日本に似た国から輸入してきた設定があるみたいで」

「やっぱりなじみのある味はいいよね。調味料があるのは知っていたんだが、作れなかったからね。食べられるのが嬉しいよ」

「明日はみそ汁っぽいものを作ってみようかな、あ、でも今日のスープが残ってるからそれがなくなってからだね」


 ヨウさんはスープを口に運んだ。


「このスープもうまい。明日になったら野菜に味がしみこんで、もっといい味になりそうだ」

「カレーもそうだけど二日目っていいよね。そんな料理食べるの久しぶりだな」


 王宮で二日目の料理が出ることはないし。孤児院では料理が余ることはない。


「ある意味ぜいたく品だな。飲み干すのやめとこう」

「おかわりして!それでも明日に回す分あるから」


 私はヨウさんの前に手を出してスープが入っていた器をこちらによこすように促した。

 なんか新婚さんみたいで。

 最悪な状況を忘れてしまいそう。


 世界から捨てられて力の供給もなくて、信頼していた王のハンドにも魔王呼ばわりされて。

 今までいた場所には他の聖女。魔王はいまだ野放しで何も解決していない。

 それなのに。

 まだ大丈夫。心は折れていない。

 それどころか、とっても幸せだな。私。


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