真実の愛はいらない?私もいらない?
5-④
出発の日は透き通るような綺麗な綺麗な青空が広がっていた。
馬で駆ける。
まずは防御壁の端に出ないと。
馬上で感じる風はいつもと同じ。
景色も同じ。
魔王が復活したなんて信じられないぐらいよ。
魔道具を持ったチームのみんなが後につづく。
早さ優先。
馬で最低限の荷物を持っている私たちのグループに、馬車に乗った工事をしてくれる人たち。
そして、道具を詰め込んだ荷馬車の順だ。
「あともう少しで防御壁の端に出ます」
兵士さんの表情もリラックスしてるように見えた。
だって、すべての景色がいつも通りだったから。
「映像を一部解除」
通信で指示を出した。
飛行場でいう管制塔みたいな感じかな?
防御壁の状態や映像を管理している部署が城の中にある。
「聖女様あと5分ほどで外の様子がわかると思います」
「魔物は何匹かいるようですが魔王の気配はないようです」
「ありがとう」
次々と報告をうける。
いよいよだ。
映像が薄くなり、魔王のいる世界が目の前に現れた。
「地獄だ」
後ろで誰かがつぶやいた。
今までの青空が裏目に出て、恐れを濃くしてしまったんじゃないかと思う。
本当の外の景色。
暗い瘴気に覆われ記憶と全く異なる世界。
土地は痩せこけて木は枯れ、壁内に入ってこようとする魔物たちの目がこちらを向いている。
檻の中。囚われている私たちをあざ笑うようにみえてしまう。
魔王が復活する前と逆転した世界。
「始めましょう」
声も、体も震えないで。
私が不安がると皆に伝染してしまうから。
自分たちが住んでいる場所とただ薄い防御壁を挟んだだけの場所がこんなにも朽ち果てている恐怖に気が付かないふりをする。
本当は怖い。
でも。
ヨウさんも自分の場所で頑張っている。
他のみんなも。
私は私のできることをしなければ。
「聖女様のお手伝いができること、皆、心より誇りに思っております」
そんな風に言ってもらえるのは嬉しい。
「一緒に頑張りましょう」
「この命に変えましても今回の任務を成功させて見せます」
「いやだよ。私が守る命の中にあなたの命も入っているんだから」
我ながら大きく出ているのはわかっているけど、この人もこの人の家族も自分にかかわった人たちを救いたい。
この世界を救う力をもらいながらも、それが発揮できない自分が歯がゆい。
でも、できないものはできない。
目の前のことを精一杯こなすことしかできない。
端に立ち防御壁を展開する。
魔道具が保持している防御壁は私だけが展開する防御壁とちがって重なっても消えることはない。
それでも、動きながらは展開できないから時間はかかるけれど少しずつ少しずつ。
魔道具を埋めて防御壁が独り立ちしたら端に進んでまた、防御壁を展開して。
出来上がったところから元の風景を映していく
視界から地獄が消える。
見てしまった衝撃はまだ心の奥にずきずきと潜む。
ただ、あの光景が一般の人の目に触れなことが救いだ。
「ノリス様の方が隣国までの行程。終了したようです」
「こっちはまだ半分ぐらい?」
「ですね」
すごい。
「どうやって?」
通信をしている人に尋ねる。
取り入れられるならこちらでも真似したい。
「城から防御壁を伸ばしているようです」
「一歩も動かずに?」
「はい。前方にのみ隣国まで防御壁を伸ばしてその中を作業員たちが魔道具を設置するという形をとっているそうで」
有能!
「私よりずっと効率的。いいなあ」
さっき、すごい人って持ち上げてもらったけど向こうの方がずっとすごかった。
「羨ましがっている場合ですか?このままでは」
「なに?」
「いえ」
なんだろう?ちょっとした違和感があったけれど作業に集中した。
早く終わったほうがいいに決まってる。
自分がそれをできないのは悔しいけれど。
うーん。そんなに優秀ならばノリスが主人公でいいんじゃない?
だって、ノリス
ハンドのこと好きだし。
聖女とメインキャラクターの真実の愛。
実現できそうじゃない。
真実の愛かぁ
ハンドが言っていたように、もし、誰でもいいならば。
私とヨウさんの間にも、真実の愛が生まれたりしないのかな?
世界にも見捨てられたへっぽこ主人公だけどちょっと期待させてほしい。




