真実の愛はいらない?できることをただするだけ。
5-③
ハンドがやる気を出してくれて瞬間移動で荷物を運ぶサービスが充実したのも関係して、街道の防御壁を強化する編成チームは大幅に変更があった。
元々チーム編成はノリスが担当してくれていたんだけれど、ほとんど再編成に近いぐらいの変更をセドリック様が加えていた。
「これが、団長の力を貯めたタンクです」
「ありがとう。きれい」
ヨウさんの代わりに定期的な力の補充を届けてくれた団員の方はがっちりとしていた。
力のきらめきは心のきれいさだったりしないのかな。透明な容器の中で絶えず変化しあって目が離せない。
ヨウさんのものだからなのか、皆こんなにきれいなのかはわからない。
壊れないのはわかっていたけれど、そっと抱える。宝物だ。
今回、ヨウさんとは別の班だった。
道を作る班、二班。聖女がそれぞれに一人ずつ。それから配送担当者の班に分かれることになっている。
ヨウさんは配送担当に志願したそうだ。
ちょっとだけ、私を心配してこっちの班に来てくれるんじゃないかと思っていたから、かなり残念。
力の供給がなくなりその代わりにヨウさんとその精霊さんから力を分けてもらっていることはハンドやセドリック様たちには言ってある。だから、セドリック様がチームを再編成するときにヨウさんに同じ班になるように打診してくれたらしいんだけど、断ったらしい。
「たぶん、団長は聖女様のことがお好きだと思いますよ」
「え?何か顔に書いてあったかな?」
顔にはなるべく出さない貴族世界になじんできたと思ったんだけど、まだまだだった見たい。
「どっちかというとうちのチームの願望なんすけどね、聖女様が団長をすきであってほしいって」
彼は鼻をかきつつ、ヨウさんからのもう一つの贈り物を私にくれた。
会えなかったけれど、すっかり心が温まり作業に戻ると、ドアをたたく音がした。
やけに訪問者が多い。
「ゆいな、起きてる?」
ハンドだった。
ふたりだけで話がしたいと言われ、屋上に上がることにした。
兵士に誰も入れないようにとハンドが言づける。
私は、いつものベンチに腰かけた。
ハンドが置いてくれたベンチ。
スカートをつまんでそっと腰掛ける。初めは普通に腰かけてドン引きされたっけ。
それから、王宮のマナーを覚えて。
懐かしいな。
「きれいになったな、ゆいな。もともと所作に品はあったけれどたまに宮廷の作法としては雑なところがあったりしたのにな」
少しまぶしそうにハンドがつぶやいた。
「私も昔のこと、思い出していた。」
「双子だからな」
ハンドも横に座る。
「魔王、復活しちまったな」
「うん。めんぼくない」
「ゲームではバッドエンドだけど。俺たちは別のルートを今から作り出そうとしている」
ハンドはいつも前向きだ。
「別のルート?」
「うん。魔王が復活しても滅びないルート」
「それ、誰かも言ってたかも。バーディ様だったかな?そっか」
恋ができないのが申し訳なかった。
そのせいで世界が滅んでしまうのが…
「今回の計画、世界中の街道の防御壁を強化するなんて、力の供給が無くなったゆいなに無理をさせすぎるって声もあったけれど、それはまぁ正規ルートできなかった、ゆいなのせいだよな実際」
「言い方~」
世界の供給が止まった今では正直かなりきつい。ヨウさんの助けがなかったらもっと早く詰んでいただろう。
「この間、急に中止するって言った本当の理由だけど、怖かったんだ。これが確立したら自分がいらなくなるんじゃないかって。魔王を討伐できるのは正確にったらゆいなの力だけど、一人じゃ無理で。俺の力も必要だろ。だから、俺は王でいられる。でも、俺無しでも何もかもが滞りなく進むとしたら?そうしたら誰でもいいんだ。ゆいなはいいよ。聖女として必要とされている。そう考えたら。俺がしてることって何だろうって。王とは名ばかり。何もないんじゃないかって」
ハンドは偽物の空に手を伸ばした。
魔王が復活して昼間は来なくなった。
星も、月も濃い瘴気で見えなくなった。
だから防御壁全体に空を投影している。
制御できる偽物の天気。すべてが都合よく管理できる技術があるのが素晴らしい。
「何もないなんて言わないで。恋愛はできなかったけど、この国に来てハンドのおかげで楽しかった。孤児院のみんなも未来を考えることができるようになった。私も。ちょっと辛い任務も多かったけどね。そんな余裕を作ってくれたのはハンドがいたからだよ」
「未来か。俺にとってもそうかもしれないな。ゆいなのおかげで何者かでいられる」
「現在は?ハンドは何をしている時が一番楽しい?」
「なんだろうな。一番はお酒を飲んでいるとき。重圧から解放されて、何もかも忘れて重圧から解放されてバカなことしてかな。でもさ、現実からは逃げられない。生きていくには王としてこの場所で生きていかなければならない。そのなかで、本当に救いだったよ。ゆいなの存在は。幸せになれよ」
「お父さん?わたし、あっちの世界のお父さん、もう死んじゃったから生き返ったみたいでなんか泣きそうなんだけど」
「ヨウさんと幸せにな」
「まだ、付き合ってもないけどね」
肩を小突かれた。
「告白しちまえよ」
「自分だってなかなかしないくせに、ひとにばっかり。この間のイベントに呼んでたきれいな女の人、彼女だと思ったらまだ告白してないんだって?」
ハンドが手をかざすと雨が降ってきた。
「お父さんの前で泣けば?わからないから」
「いやいや、もう涙引っ込んでるから」
街に静かな雨が降り注ぐ。
ずぶぬれにはならない程度のだけど、流れる涙を少しだけ誤魔化してくれるぐらいの。
もう、泣くつもりもないから濡れるだけなんですけどね。
「予定にない雨で、天気担当の人びっくりしてるんじゃないの?」
「サプラ~イズ」
防御壁は雨を通さないから、内側の天気はこんな風に誰かが降らせている。
魔王復活前からずっとコントロールしていたけれど、前は空はそのままのものが見えていた。
今見える星空は予測された空だ。
え?
そうだよ。天気はコントロールしているんだから、あんなに荒れるのはおかしいんだよ。
ヨウさんと出かけようとして降り出した雨を思い出す。
どうして?世界がやっぱり二人を邪魔しているようで。不安が心に募っていった。




