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真実の愛はいらない?延長線へ。

 5-②

 広場に行く途中、バーディ様が女の子に囲まれているのに遭遇した。

 特に連れてきてとは頼まれていないので、スルー。

 喜んでいる人たちの恨みを買いたくない。

 女の女への恨みは怖いのだ。


「ゆいな様、ちょうどよかった?」

「ちょうどよかったですか?」


 取り巻きの一人に声をかけられた。

 こういう時の女の子はちょっと打算的だ。何かに利用される?

 少し身構える。


「私達、聖女様にもお礼を言いたかったんです」


 初めて見る子たちだけれど笑顔がかわいい。

 みんな建前で言っているようには見えない。

 拍子抜けしてしまった。


「今までは、映像で見ることしかできなかった、バーディ様を一目見られて幸せでした」

「私もです。聖女様には女子供でも安全に行き来できる仕組みを作ってくださって感謝しています」

「いままで、旅行するのは商人ばかりでしたが、これからはいろいろな国にいけます」


 みんないい子だな。


「さあ、じゃあ行こうか」


 え?連れて行きたくないんだけど。

 このチャンスを逃がしてほしくない。交流を深めてもらいたい。

 ちらっと皆を見るとそんなに残念そうではない。


「お仕事ですよね。お疲れ様です。またイベント楽しみにしています」


 女の子たちから離れて少し距離が遠くなったころバーディ様に耳打ちされる。


「あの子たちにとっては僕は確かに有望な結婚相手の候補の一人ですが、それを期待するほど夢見がちではないんですよ。もうすでになんとなく親があたりをつけている婚約者もいるでしょうし」


 きゃーと後ろから声が上がった。

 振り返ると、こちらをみて盛り上がっているようだ。


「映像で見るだけの僕らに本気になるなんてありえませんよ」


 あぁそっか。あの子たちにとってはこの国に来るのはいつも中継を見ているアイドルのイベント会場に来るようなものなんだな。

 でもね、そんなアイドルに本気で恋をする子もいるんだよね。

 彼女たちは違ったみたいだけど。

 バーディ様と広場へと向かう。


「そういえば、他国の方からもっとなじられてもしょうがないと思ってた。一瞬で国を行き来できる技術があるなら最初からしてくれと」

「不満が出るはずがありません。こちら側が圧倒的に有利な取引ですから。今回は魔王が復活してしまったという状況ですから、あまり無茶な対価は要求していないんです。命にかかわりますからね。普通だったらあちらが出せないような高額な対価を要求してもおかしくないぐらいのシステムです」


 なるほど。

 魔王を倒せないへっぽこ主人公。責められてもしょうがないと覚悟していた。


「魔王を倒せなくても今から防御壁の幅を広げていけばいいんです。そのための魔道具開発ですから。僕もずっとやりたかった研究が思いっきりできて楽しいです。父からもやっと許可が出て」


 騎士団、総団長を父にもつバーディ様。親の跡を継ぐのが当たり前の一人息子。本当は進みたかった研究職の道を反対されつつも、日々の過酷な練習の合間にコツコツと工房に通って勉強や修行をしていたらしい。

 それが、たぶんバーディさんのストーリーの要だったのかな?

 恋愛は進めていないけれど、メインキャラクターたちの事情が明かされていく。今更ながら。

 ゲームのストーリーを進めていなくても、状況がよくなったところもバーディ様にはあったみたいで。


「よかったね」

「魔王が復活したあの日。ゆいな様と王が頑張ってくれたおかげです。二人で協力して踏みとどまれたから今があるんです」


 ハンドが途中でいなくなったことは言っていない。

 あの時の話、ハンドともまだできていない。

 そういえば、ハンドのストーリーはどんなものなんだろう。

 関係しているのかな。彼の色々な理不尽とも思える行動に。


 そして、ヨウさんのストーリーは…あるのかな?


「あの、ゆいな様。差し出がましいことを言うようですが。王と何かありましたか?ちゃんと話しておかないと取り返しのつかないところまで、こじれてしまうかもしれませんよ」

「普通じゃない?私達」

「前と同じような少し距離があるような。王がたまに悲しそうな顔をされていて。噂にもなっていました。王に何かあったんじゃないかって」


 時折そういう言葉が上がっているのは知っていた。

 狙ってた女の子に振られたのかな?ぐらいにしか思っていなかったし、元気のないハンド様かわいいと言われる狙いかなとそんなに気にしてなかったけれど。


「後で聞いてみるね」

「そうしてください。あと、異動になった元侍女にも気をつけてください。自分がサボっていた上にゆいな様の嘘を振り撒いていたくせに、その自覚がないようで、逆恨みをしているようで、被害者ヅラの自作自演をしている情報が入ってきています」

「ハンドのファンだよね」


 ハンドに関する仕事はできたみたいだけれど、それ以外の仕事が雑で人に押し付けた上、口がうまく。気に入らない人物を仲のいい人たちと共謀して陥れていたことが発覚し、離れてもらったのだ。


「なんで自分は悪くないのにと喚いていた噂は聞きました」

「周りも悪いですけれどね。客観的に見れば甘すぎるぐらいの対応なのに、それをゆいな様の方が悪いと言い回って。ほんと、クビにして、防御壁の外に放り出してやりたいですよ。って同調しなくていいですよ。どこかで聞かれてたら、責められるのは僕ではなくなぜかゆいな様ですから」

「なんでだろうね」

 

 広場につくとモニターでみたそのままの光景が広がっていた。

 ハンドが囲まれて綺麗なドレスに身を固めた方たちに質問攻めにされている。


「すごいですね。こんなことが実現できるなんて」

「本当に尊敬します」


 口々に褒められて、嬉しさが顔からにじみ出ている。

 素直に思ってるところが顔に出るのも、きっと可愛いといわれるゆえんだろう。

 かっこいい見た目に、可愛い中身。さすが、メインキャラクター。

 何回も思うけれど、付き合ったとして不安にならないでいられるのかな。


「あの中に入っていくの嫌なんだけど」

「みんな猫かぶってますけど、厄介な人たちですよね」


 ハンドのこの施設やめる!の言葉がなかったらぜったいにかかわりたくない。


「ゆいな?呼びに来てくれたの?」


 少し甘さを含んだ声に周りが色めき立ったのがわかった。

 こちらを見るめが皆きらきらしている。


「ごきげんよう。聖女様」

「ごきげんよう、アンリ様」


 センスのいいドレスを着こなしている私よりも少し年上の方が声を上げた。

 隣国の末娘で発言に影響力がある。アンリ様。

 ハンドの親衛隊を名乗っているグループの一人で、ほんとうにきれいな方。


 どこからどうみてもこちらには友好的に見える。

 けれどもなにかあると、クレームを仲間内で言っているという情報もノリスから入っている。


 勝手に憶測をして、こっちを悪いことにする情報をもっともらしくばらまかれたことは一度や二度ではない。

 まぁしょうがないよね。ハンドのことが好きなんだから。うん。さっき話に出てた元侍女といい。苦手。


「ちょっと、ハンドを借りますね」

「いえ、王をゆいな様からお借りしてるのはこちらの方ですわ。ではハンド様のちほど」


 他の人がいなくなったのを確認して、バーディ様に防音の魔法をかけてもらう。

 聞こえないだけでなく、他愛ないことをしゃべっているように装えるおまけ付きだ。

 そうじゃないと、防音して、怪しいことしゃべってますって堂々と宣伝することになっちゃう。


「で、どうして道を作ることを中止にしたいの?」

「あ、あれ?冗談だから。いやだな~そんな俺が話すことは八割冗談だろ。ゆいなもいつも言ってるじゃないか。俺の言うことは信じられないって」


 そんな面白くない冗談を、従者を使う労力までかけてすることはしないと思う。

 いくら嘘つきなハンドでも。

 メモを渡してから今までの間に心を変えるような出来事が何かあったんじゃない?

 先程の一団が脳裏に浮かぶ。


「それからさ、俺もしばらくは配達に加わることにした」

「それって、今回の施設の他に流通の要とする瞬間移動の宅配便のこと?」


 あのドアだけで他国と荷物のやり取りをするとかなりの混雑が予想される。

 それを避けるために、道ができるまで瞬間移動で荷物を運ぶ組織を設立したのだ。


「最初が肝心だろ、荷物が本当に安全に運ばれるか実績を作らないと注文も入らない。独占だからってゆっくり進めていると何か落とし穴があるかもしれない。稼げる時は稼がないとな」


 今まで、ハンドしかできなかった瞬間移動を皆に教えることになるきっかけは、ヨウさんだった。

 ヨウさんが、ハンドに戦場で力の使い方を教えたことがきっかけとなって今回のサービスが生まれたのだ。

 しかし、あのドアをくぐりぬけるのとちがって瞬間移動はいろいろ制約が厳しいのと、魔道具が補助してくれるとはいえ練習が必要だ。人によっては酔ってしまってできないらしい。


「どうして急にやる気になったの?」

「さっきの女の子たちだよ。みんなが口々に感謝を伝えてくれているのを見て、期待に応えたくなったんだ」

「それは、よかった」


 ハンドを説得できるのは私だけなんて送り出されたけれど、そんなことなかった。

 少しの安堵と少しの寂しさと。

 自分の居場所だと思っていた場所が失われていく不安定さを感じて、ヨウさんに会いたくなった。


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