真実の愛はいらない?魔王と共に暮らす世界へ
5-①
もう少しで準備が終わる。
凝り固まった体をほぐすために背伸びをした。
「各国の調整おみごとでした」
「セドリック様のお力添えがあってこそです」
部屋中に配置されたモニターに目を光らせながら答える。
作戦とは防御壁を街道沿いに巡らせることだった。
そのための魔道具作りの調整も大変だったし、何より難しかったのがどこの国からするか。
みんな自分の所からやってほしいに決まっている。
だから、ある施設を作ることにした。
今日はそのお披露目会だ。
「こんなことができるなんて」
「本当にドアを抜けたら別の国に行けるなんて」
一足先に到着した使節団が案内されてきた。
数々の賞賛を笑顔で受け止める。
「全く、どこの国も手のひら返しがすごいですよね」
セドリック様が耳元で囁いた。
我が国に、他国からすぐ来られるドア。瞬間移動スポットを開設したのだ。
これなら、一斉に作ることでどこの国からと揉めることにもならない。
街道の整備が終わるのまでの臨時の措置のつもりだけれど、その後のことは運用される中で決まる。
すぐ来られるということは攻められやすいってことだからね。
「セドリック様?どうしたんですか?なにか心配事が?」
「他国との距離が近くなったということは、身の危険を感じる機会も多くなったということなので」
セドリック様と同じほうに目をやる。
すべてが透明で出来た部屋からはすべてが見通せる。
ドアの外に設けられたセキュリティーゲートを通ってゾクゾクと人々が集まってくる。
イメージは飛行場。
あの検査場とか入管管理とかそこら辺を模したものを説明して作ってもらった。
だからセキュリティーにはそこまで問題はないはずだ。
「いや、圧がすごくて」
私の疑問に気が付いたのか、セドリック様が説明してくれた。
セドリック様の眉間に深いしわがよる。
「女の人は怖い。自分の目標を達成するならどんな手段でもとってくる」
「何かあったんですか?ご愁傷さまです。でも、そんな女の人ばかりじゃないですよ。たぶん」
好きな人を逃したくなくて、必死になちゃうのかもしれないし。
男の人だって怖い。
セドリック様も忘れがちですけどメインキャラクターですから。
ビジュがとてもいい。
女の人を狂わせる何かを持っているのではないだろうか。
とは言えない。から思いっきり気休めですが。
「そうですね、あなたみたいな人もいますよねきっと」
ここ最近の準備で一緒に作業することが多かったからか、セドリック様との間にもだいぶ穏やかな空気が流れるようになってきた。
その少しづつ近くなる距離を楽しむのが恋愛ゲームの醍醐味なのだろうけれど、そんな楽しい雰囲気は微塵もなかった。あぁ忙しかったな。
思い出すだけで白目になりそうだ。
今の話を聞く限り、女の人がらみのトラウマがあるのかもしれない。
従者が入ってきて、セドリック様に耳打ちした。
「ゆいな様、王を至急つれてきてもらえますか?すべてを中止になさるとおっしゃられているようで」
モニターを確認すると施設の敷地にある広場でハンドがカラフルな方たちに取り囲まれているのが見えた。
「なんでそんなことを」
「たぶん、王なりの深い考えがあるのでしょうが、今から中止ということになると」
「わかった。説得してくる」
去り際に気が付いた。
はじめて名前を呼ばれた気がする。
おもわず振り向く私に、セドリック様はいたずらっぽい笑みを返した。




