恋愛ゲームの主人公。世界に捨てられる。他人から見るのと実際とはかけ離れている場合が多いもので。
4-⑥
「性格わる!あの聖女」
「なになに?」
「私が意見した後にしおらしくごめんなさいだって!こっちが悪者になったわよ」
「ひどー。計算高いから」
「私見てたけど、あなた何も悪いことしてなかったのにねー」
悪口を言っている侍女に仲間達が同意する。
周りにも働いている人たちはいて、きっと知らない顔をしながらじっと話を聞いているんだろうな。
「ふたりを応援しているのが気に入らないんじゃない?自分だけを応援しない人が気に入らないんだよ」
ふたりをというより、あなた達、ハンドにばっかり傾倒しているような気もするけれどね。
「え?それ拡散していい?酷すぎるもの聖女のやつ。魔王も復活させちゃってさ」
ハンドと食べる軽食を厨房に頼みに行こうとする途中に、侍女たちの井戸端会議に出くわしてしまった。
そんなつもりであやまったんじゃなかったんだけどな。
味方の顔をして何かあるとすぐ文句を言ってくる、ハンドのファンのことが地味にストレスになっている。
私がハンドの横に並んでいることも気に入らないんだろうな。
ノリスみたいに、そっと後ろをついていくような人が求められる。
なんて。ストーカーみたいな表現になってしまった。
それにしても、敵意がなかったって言える?自分に有利になるように考えなかった?
ほんと?自分に問いかける。
うーん。確かにそういう風に立ち回ったほうがお得って本能で分かって実行しちゃったのかも。
やっぱり性格悪いな。私。
まあいい子ばっかりじゃいられないってことで。
いい子じゃないついでに、今までサボってても目をつぶっていた部分しっかり査定に反映させとこ。
なんて。
しないけどね。いつでもできるからね。
じぶんの性格の悪さにうっとりしながらハンドの部屋の前にくる。
厨房に寄れなかったから、食事はマジックバッグの中の軽食になりそう。
この間、孤児院に帰った時にもらったとっておきよ。
もったいないけれど、しょうがない。
ハンドのために出そう。
「ハンド入るよー」
許可の返事を受けてから入ると、足に違和感を感じた。
なんかふんじゃった。
可愛らしい封筒に入った手紙のようなものが足の下にあった。
踏んでしまったせいでピンクの模様に黒い掠れがついてしまった。
とりあえず、浄化の魔法をかける。
え?でもこれ、部屋の中にあったよね。扉の下にそんな隙間ある?
王様の部屋に隙間って、魔法がありのこの国だと色々出来ちゃいそう。防犯上まずいのでは?
宛名にはハンド様と書いてあった。
差出人の名前はなし。
もし訪ねてきた人がいたならば、直接渡すだろうからこんなところに落ちていないはず。
はいつくばってドアの下を見る。
これがもし、ハンドの命を狙う前段階だとしたら。
そう考えたらいてもたってもいられなくなった。
よく見ると扉の下側が少し削れている。誰かに細工されたようだ。
でも手紙を外に通そうとしてもできない。
なんで?
目を凝らしてやっとわかった。削った隙間の周りをふさぐように防御壁が張ってある。
それができるということは、この手紙の相手はノリスかな?よかった。変な刺客の仕業とかではなかった。
「何やってるの?人の部屋に来て早々に」
「何でもない」
床は来るたびに浄化をかけているからきれいだったけれど、ドレスを念の為にはたきながら立ち上がった。
「これ、ドアの所にあったよ」
隙間をあけてこれをねじ込むって行為が少々怖い気がしたので、ぼかして手紙を渡した。
「あぁ、俺がかっこいいよりも面白いって言われたいのを覚えていてくれてたんだ。こういう謙虚な気持ちの伝え方、嬉しいな」
「モテるねー」
顔でれっでれだよ。
実は私がハンドのこと好きだったら、気が気じゃないだろうな。
心配でメンヘラになりそう。
「そういえば、A国大使が奥さんに俺たちが本当は結婚していて魔王も倒せる状態にあるのに隠しているんじゃないかって何度も言われたらしい。彼や、他の実際に俺たちが一緒にいるところに居合わせた何人かは、雰囲気で俺たちは付き合ってないって察するみたいだけど。中継だけ見てるとわからないらしい」
「みんなお似合いだとか、相性がいいっていうよね」
「中継で見せてるのは一部なのに、何をわかってるんだか。それなのにがんばれがんばれって。もう十分頑張ってるっていうの。うるせーよ」
とりあえず、部屋の隅に用意してあるワゴンに行き、ハンドにお茶を入れつつ、執務室との通信をつなぐ。
バーディ様からの報告を聞きつつ軽食を隣でゆっくりといただいていた。
やっぱりおいしい。同じ材料を使っているのにすごいな。
「うまいなぁやっぱりゆいなの入れるお茶は最高だよ。ゆいな以外が入れるお茶は飲めない。それに、さすがの采配だったな。やっぱり、ゆいなに任せてよかった」
嬉しい言葉をかけてくれるのはハンドのいいところだと思う。
「ありがとう」
「ゆいな様って結局兄さんにあまいですよね。面倒くさいことどんどんおしつけられますよ」
通信の向こう側のバーディ様のあきれた声が届いた。
それはお互い様だ。傍若無人なところもあるけれど憎めない。それがハンドだ。
それにもうすでに押し付けられている。
「そのドレスも可愛い」
風向きが悪いと思ったのかハンドが褒めてくれた。
「今日の私はちょっと違います。何が違うでしょうか」
「目元にほくろつけてる」
「ちょっとセクシーにしてみました」
ハンドが薄く笑った。悲惨だった顔色が少しが良くなった気がする。
「うちのセクシー担当はノリスだからなぁ」
「え?ノリスはセクシーじゃないと思うんだけど」
「仲悪いの?親友だろ」
悪口だった?ノリスをそういう目で見たことないからわからないんだけど。
「いやにかばうじゃんノリス様のこと。怪しいな兄さま」
まだ不満そうなバーディ様の話をハンドが切り替えた。
「結局はさ、魔王を倒せばいいんだろ?真実の愛が必要ならだれでもいいんじゃないか?おれは俺で頑張るからおまえはそっちの線からいってみればいいんじゃない?」
「この頃、兄さまいい雰囲気の人いますもんね」
「え?好きな人できたの?おめでとう」
メインキャラクターはハンドだけじゃない。
セドリック様にバーディ様。
メインキャラクターとの愛以外は許されない私とちがって、ハンド達攻略対象は違う人と真実の愛をはぐくんでいても許されるらしい。
世界の妨害に遭うのは私だけって、ちょっと不公平じゃない?
「いいな、ハンド。ヨウさんは諦めようと思ってる。だって、危ない目に合わせるわけには」
「それだけどな、失敗したらどうせ死ぬんだ。お互い頑張ろうや」
「いいのかな?」
まだ迷う背中をハンドがおしてくれたのだった。
「最高の相棒?でも迷惑がかかるのはヨウさんだし」
「最高だろ。間違いなく。だから、愛しのあの子を口説くための時間をつくるのも手伝ってくれな」
ハンドはちゃっかりしていた。




