恋愛ゲームの主人公。世界に見捨てられる。でもまだ縛られる?
4-③
さっきまで晴れていた空はどこへやら急に雨が降り出して、雷までなっている。
目の前を足早に皆が走り去っていく。
濡れないように上着を彼女の頭のうえにひらき、相合傘ならぬ相合ジャケットをしているカップル。
派手な雷にはしゃぐ子供たち。
急な雨を楽しむ人たちもいて、そちら側になれたらなとふと思う。
「院長も無理しないでいいと言ってくれたし、お使いに行くのやめる?」
「いいんじゃないかな?このぐらいひどい天気だと、誰もかれも自分に夢中で逆に面倒くさくないかもしれない。君はほら、有名人だから。すぐかこまれてしまうだろ?」
なんだか、自分がすごい人みたいに言ってくれたけれど、違うのだ。
「晴れていたとしても、そんな風にはならないから大丈夫」
「君と一緒にこんな天気の中を歩けるいい口実になるとおもったんだけど。失敗したな」
はにかんだ笑顔にどきどきしてしまう。
「もしヨウさんがよければ行こう?」
「いいの?」
「雨の中を歩くのって嫌いじゃないの。きれいな服を着ているときは困るけれど、今日の服はじゃぶじゃぶ洗えるやつなので。どこか行きたいとこある?案内したいな」
候補に挙げられた場所はなんとなくヨウさんらしいなと思う場所だった。
公衆浴場に、剣を売ってるお店におもちゃ屋さん。
おもちゃ屋さんなんて、大人が行くようなところじゃないのに、なんでらしいなんて思ったんだろう。
「古代ローマの風呂文化の漫画があったでしょ。ここは基本は中世ヨーロッパあたりの設定っぽいけど、ゲームの世界だからか風呂に入る習慣があるみたいで銭湯好きとしては外せないと思って」
「ヨウさんと銭湯。似合いすぎて。その、異世界に観光に来ちゃいました的なノリ好きです」
傘は相合傘ではなく。
一人にひとつづつだ。
「大人がおもちゃ屋さんなんて、って言わないんだな」
「なんからしいなって思っちゃって」
「らしいか」
なんでだかわからないけれど、ヨウさんはとても嬉しそうな顔をした。
「キャー!」
耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。
「え?なに?」
たたきつけるような雨の音にも負けないぐらいの悲鳴があちらこちらから上がっている。
夢中で話していて事態を把握するのがおくれた。
気が付いた時には眼前に馬車が近づいていた。
よける暇もない。
でも今、ここで防御壁を張ったら馬車に乗っている人たちがはじかれてしまう。
でもでも、自分だけじゃなくてヨウさんも巻き込むわけには。
一瞬で究極の選択を迫られる。
でも結局、防御壁を張った。
もし自分がひき殺されてしまったら、この人たちは責められるだろう。
世界を救うはずの聖女を失ってしまったと。
それよりも、自分が無事でけがを治したほうがまだどうにかできるとの判断だった。
「きゃぁ」
うまくいきますように。
ぼよん。
え?
思っていたのと違う。
防御壁ごと、地面をぽよんぴょんと跳ねてとまった。
なにこれ。
よくみたら、自分の壁の外側にも防御壁がある。
それに弾力があって弾んでいるみたいだ。
「なんかね、できちゃった」
こともなげに、ヨウさんはいった。
「君が教えてくれた防御壁が便利でさ、ほら、この世界ってよく物が落ちてきたり飛んできたりするだろ?それを防ぐのに役立ってるんだけど、その度に物の方が壊れまくってるから、周りにいくらお金があっても足りないって泣かれてさ。色々受け止められるように柔らかくしてみた。これでも、まだ飛んでくるものは壊れちゃうこともあるんだけどだいぶましになったよ」
しばらく、声が出なかった。
「おーい。もどってきて。君のおかげで僕は生きてるって話」
ヨウさんは世界からまだ狙われていた。
自分のせいだ。
過去に私に関わったモブの人たちが落ちぶれていったように。
攻略対象じゃないヨウさんを想う私の心を世界が察してヨウさんが危険な目に遭っているんだきっと。
世界がメインキャラクター達と恋が出来ない私を見捨てて力の供給という糸が切れても、好きという気持ちが育ってしまって。
その気持ちが大きくなるほど世界はヨウさんの敵になる。
刃のようにヨウさんを傷つけるほうにすべてが動いていて。
「ごめんなさい」
そばにいてはいけない人なのだと改めて突き付けられる。
でも、生き延びてくれていた。
それが、とてもありがたかった。
「笑って、あ、でもその泣きそうな顔も好きかも」
かなり過酷な状況にあるはずなのにヨウさんの優しさはいつも通りだった。




