恋愛ゲームの主人公。世界に見捨てられる。人は同じものを見ても自分が見たいようにしか解釈しない。
4-①
子供好きなんだな。
孤児院で洗濯物を干しながら、庭で子供たちと走り回っているヨウさんのことを目で追う。
ここは私がこの世界に降り立った時に身を寄せていた場所でもある。
悪役令嬢だからメインキャラクターに関わることを避けていたはずのノリスが王宮が手伝うようになって、私がしていたこまごまとした雑用を引き受けてくれてだいぶ楽になった。
今日みたいに休みが取れるなんていつぶりだろう。
おかげで孤児院に手伝いに来られたり、空いた時間で攻撃魔法の練習がてらヨウさんと増えてきた魔物を夜中に討伐なんてこともできている。
控えめに言ってもかなり上達してきたとおもう。
その度に血まみれの姿をヨウさんに晒すのはまだなれないけれど。
みっともない姿を見られるのよりも、ヨウさんに心配そうな目をさせてしまうことになれないのかも。
本当はね最上位の魔法を練習したいの。
でもね。まだ世界からの供給は絶ったままで、力を無駄遣いできないから。
ちょうどいい量の魔法の力をヨウさんからもらって、それを圧縮して力を増やして精霊さんに返して細々とやっている。
時計を見ると、お昼までまだ間がある。
ヨウさんに自分が作ったものを何か食べてほしくて調理場に足を運んだ。
シスターたちは乏しい材料でもおいしいご飯を作る天才で、手伝う子供たちも私よりよっぽど手慣れたものだけれど何か作りたかった。
「いつもありがとう。あなたも色々と物入りだろうにこちらも気にかけてくれて」
肉に野菜、果物にちょっとした甘いもの。
孤児院は経営資金が潤沢なわけじゃないから、必須でない甘いものは特に皆に喜ばれる。
運んできた食料が、次々とシスターたちの手によって収納スペースにおさめられる。
これも、マジックバッグと同じ仕組みになっていて時を止めたまま保存ができる。
「これも便利よーほんと。この貧乏孤児院にこんな立派なものが来るなんてね」
「それだけじゃない。こんな高級品があっても盗みに入られないなんて、昔は考えられなかった。それだけこの国が豊かになったってこと。ここで保護しなきゃ生きていけない子供たちの数も減ってる」
「貴族のお手付きさんたちの子の数は減らないけどね」
「まったく。産ませるなら最後まで責任取ればいいのに」
「奥さんが怖いんだろうね」
ああだこうだいいながら、手際がいい。
「ねえ、今日連れてきた男はそんな人じゃないんだろうね」
急に話を振られてジャガイモの皮が分厚く向ける。
「そんなとは?無責任に子供作るような人ではないと思うけど」
「あぁ、ジャガイモそんな剥き方じゃ食べるところなくなるよ。ちがうよ。ゆいなのいい人か?ってはなしだよ。あせっちゃって。そんな素直で王宮の魑魅魍魎たちとやりあえるのかねまったく」
みんながどっと笑った。
「そんなんじゃないよ」
「そうだよ、ゆいなは王様と結婚するんだから」
「うーん。王様は違うかな?」
ちらほらと残念そうな声が上がった。
「かっこよくて、常に国民のことを考えてくれる王様とお似合いなのに」
「そうそう。王様のおかげでこの国は富んだんだもん。私たちにとってゆいなと王はヒーローだよね」
「私、王宮の中継見たよ。二人とも仲がよさそうでお似合いだった」
「私も〜欠かさず見てる。王がゆいなにいつも優しくて、あんな恋人欲しいなってなる」
世間でアンケートを取ったら、多分こんな感じなんだと思う。
「ハンドは弟みたいな感じなんだよね」
「えー。ゆいな、男見る目ない。あんないい人いないよ。絶対お似合いだよ。そんなこと言ってると他の誰かに取られちゃうよ」
「そうだよ、愛想尽かされちゃうかもしれない。私、王様にゆいなはツンデレだから分かりにくいけど見捨てないでくださいって手紙書こうかな。ほんと、もったいないよ。あんなにいい人逃したら」
怒られた。
「本当に違うのに」
「まあ、外から見たらわからないことがあるんだろ」
そうなんです。あるんです。言えないけど。
「初めてだよね、ここに男の人を連れてくるなんて」
「護衛騎士の人かと思ってた」
「最強聖女様に護衛なんていらないよ」
口々にみな好きなことを言い合っている。
どう答えればいいか、少し困る。
気になっている人ですって。家族同然のみんなにいいたい。
世界と糸がきれた。
世界から力の供給がなくて、ヨウさんと精霊さんの助けがなければ何もできない今の私。主人公として捨てられたも同然の今なら大丈夫かもしれない。
何より、孤児院の大切な人たちに小さいけれど自分にとっては大きな変化を知ってもらいたい。
でも、彼女たちに話したら巻き込むことにならないか心配で話せない。
ヨウさんに力を与えて、同じように世界から力の供給がなくなった団員さんたちや精霊さんのように。
「そんなんじゃないよ」
できるだけ笑顔を見せてもう一度いう。
シスターたちの心配そうな顔がちらっと眼に入ったけど気が付かないふりをして、私はヨウさんに食べてほしいメニューを作るのだった。




