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恋愛ゲームの主人公になったのに好きがわからなくて世界が滅びそうです  作者: cococo
恋ができなかったら世界が滅ぶの重すぎる。
2/47

恋愛ゲームの主人公です。魔物と交戦中で恋愛できません。攻撃魔法も使えません。

 1-②


 私は魔物に目を向けた。

 これは、鹿のような魔物ではなくて、ただの鹿かもしれない。

 よく見てみよう。

 うん。

 やっぱり鹿じゃなさそうかな。


 鹿はこんなに牙は鋭くない。背中に羽も生えてない。

 前世界の記憶が間違っていなければだけれど。

 なにより、サングラスはかけていなかった。

 サングラスの奥で赤く光る瞳

 決して私から離れない。


 ぞくりとする。


 ある意味この執着が恋?

 それもありだよね。

 でも。

 自分が恋愛するとしたら、向いてなさそうな気がする。


「その愛し方が似合う方は別にいるので、あきらめてください」


 とりあえず、丁重にお断りしてみる。

 もちろんその願いが魔物に届くことはなく。

 何度目だろう。

 鋭い爪が私に向けて振り下ろされる。


 この魔物が去るのを待ってるのも飽きてきた。

 ちょっと遊んじゃおうかな。

 

 もし、自分が張ったこの防御壁がなかったら、私は今絶対絶命なピンチなわけで。

 そんな時きっとこうするだろう。


 目をつむり、愛しい人の顔を思い浮かべる。

 到来。走馬灯チャンス!

 瞑った瞼の奥に大切な人を思い浮かべながら、ゆいな28歳。

 この世界では17歳。は、そっと眠りにつくのだ。


 愛しい人、大切な人…

 浮かぶ。たくさんの方の顔。

 

 あれ?

 家族、それに近しい方の顔ばかりだけ。

 恋する人の顔なんて思いつきもしない。

 これで、恋愛ゲームの主人公?

 盛大な疑問が頭をよぎった時、防御壁の横を火のたまが通り抜けて、魔物をふきとばした。


「やった!事態が少しは動く」


 魔物のサングラスが外れて、想像よりも怖い目が現れた。

 背筋が凍るような怖さがある。

 サングラスをしていた方が私はすきかもなぁ。

 本性より猫かぶってるほうが好きみたいな例えで失礼な話だ。魔物の目線は私ではなく火の飛んできた方向にあった。


 男。


 火の魔法を追うようにあらわれてちらりとこちらの無事を確認すると、あっという間に私の横をすり抜けて魔物に対峙した。

 かっこいい。服がかなりぼろぼろだけど。

 というか、ほとんどない。布。


 一瞬だけだったから印象でしか語れないけれど、かなり意志の強そうなタイプだった気がする。

 こんな人が走馬灯に現れたらしあわせかも。


「恋愛はむりだけど、かっこいい人なら周りにたくさんいるんだけどな」


 ぼそりとつぶやいた。 


 でも、恋とか愛とは何か違う気がするんだよ。

 こうやって、ただかっこいいって言っているだけでいいなら気楽なのに。

 恋愛って落ちるものっていうよね?

 強制的にさせられるものじゃないよね?


 って、むこうは今どうなってるんだろう。

 視線の先で男は魔物に殴りかかっていた。


 素手!?


 ここは剣と魔法のゲーム世界。


 魔物相手にこぶしで戦う人は初めて見た。

 魔物の角が、男の皮膚を傷つけた。


 すぐさま魔法を発動し彼の傷を治す。


 聖属性って便利だよね。

 

 男は手に小さな火を灯し魔物に放った。

 それはまずい。


「危ない!離れて」


 火の攻撃を受けた魔物の身体から鋭い棘が発射された。

 もう一度、魔法で男の傷を治すよう身構えたけれどその必要はなかった。

 信じられないほどの瞬発力で男が棘を避けたからだ。


 あのスピードはすごすぎる。でも、ずっとよけきれるとは限らない。

 私は男の傍に行こうと走り出した。


「な!危険だ」


 鋭いとげが今度は線ではなく面でこちらに向かってくる。

 男が素早く大の字で目の前に立ちはだかる。

 自分より少し高い背のおかげで視界が陰った。

 見上げた先には後頭部。


 あぁ。

 走馬灯。この名も知らぬ人の後頭部っていうのもいいな。

 ふと、笑みがこぼれた。


 魔物から発射された棘が立ちはだかった男に突き刺さる。

 寸前ですべてはじかれて、落ちた。


「へ?」


 男から間抜けな声がでて眉が下がる。


「動かないでください、防御壁から出ちゃいますよ」


 棘が効かないのがわかったようで、魔物は火を吐き出す。

 私の時は一応隠してたよね。その火の力。本に書いてあったから知ってたけど。


「あの魔物が火の使い手なら、直接打ち込んだ火が効かなかったのも頷ける。でも最初の一撃は効いてたように見えたが」


 男の疑問に答える。


「サングラスがあるうちは火が効くんです。原理は知りません」


「なんでそんな自らを危険にさらすようなことをする。ストイックなのか?敵ながら尊敬を覚えるな」


 きちんと目を合わせて話してくれる人のようだ。

 少し照れる。


 改めてまじかで見た男の瞳は鋭くて。

 近寄りがたくも見えるけれどきらめきを増すうちに、親しみがこもる優しいものに変わっていったように感じた。


「そんないい感じにとらえるなんて、優しいんですね。研究者によると火が効くと思わせたいからわざとだそうです。火耐性ではなくて火吸収なので、わざとサングラスをかけ、火が効くと見せかけて火を使う術者を誘導し、サングラスがはずれたあとで、放たれた火を吸収し棘を繰り出しとどめをさす戦法をとっているということです」


「それはネタバレしたら弱い特性じゃないか?」


「そうなのですが、長い間、そのことは知られなかったのです。そして知られてもなお被害は拡大し続けています」


 長く知られなかった理由を告げようか迷い、私は目を伏せた。


「それを知っても帰ってくるものがいなかったからか」


 その通りだ。私は頷いた。


「効果のあった攻撃が次の瞬間に、トドメを差すものに変わるとは思わない。先ほどの俺のように」


「そうです!自分を弱く見せて、攻撃を促し、その力を利用する嫌な性格の魔物なのです」


 あの魔物が吸収した火をどのくらい体の中に留めておけるのかはまだわかっていない。

 だから、この特性を知っていて火魔法を使わなかったとしても、攻撃が飛んできてやられることもある。


 魔物の放った火は、私が張った防御壁に跳ね返され、森を焼いていく。

 防御壁の中まで匂いは届かないけれど、かなり焦げ臭いにおいがあたりを立ち込めていると思う。


「まずいな。俺たちは君のおかげで安全だが森が燃えていく。ここに住む生き物たちが死んでしまう。防壁内で魔法を使ったらどうなる?貫通して外に放てる?それとも中に留まる?」


「貫通しますが威力が弱まります。防御壁が抵抗を与えてしまうようで。私の意志で自由に穴をあけられればいいのですが、できません」


「威力が弱まる…か。まあやってみよう」


 男の手から魔法が放たれた。氷属性のようだった。が、魔物の炎に撃墜された。


「うーん。炎に氷ならいけると思ったんだがな。あれが俺が打てる中で炎以外だと強い魔法だったんだが」


「威力を下げずに魔法を当てる方法はあります。遠隔で魔法を操れば外に魔法を発生させられ、魔物にあてられるはずです」


 代替え案を提示する。


「どうやって?」


「自分が使える魔法の話で、攻撃魔法ではないので感覚は少し違うかもしれませんが、防御壁の外で治癒魔法を発動したいときは発動地点を己の中ではなく、その地点で発動されるように念じています。ぼんやりとしかお伝えできないので、参考にならないと思いますが」


 攻撃魔法もそうやって防御壁の中から外に使っているのを見たことがあるので、発動自体はできるはずだ。


「そういう、概念はあるのか、とりあえず安全な方法で試すか」


 男は手を振り上げると雨が降り出した。

 防御壁の中に。


「もっと発動場所の点をここじゃなくて遠くに飛ばす感覚で」


「安全策をとってよかった。なるほど。やってみよう」


 男はニヤッと笑って、私に背を向けもう一度手を今度は少し斜め上に振り上げた。

 森の火が鎮火していく、それほど強い降りではないのに。


「すごい」


 笑いかけると、魔法が揺らいだのか、また中に雨が降る。


「えー冷たいのですが」


「火が得意な魔物なら水が苦手なのではと思ったが、あまり効いてないみたいだな」


 何事もなかったように男がつぶやくので、私もなかったことにしますよ。


「まあ雨に濡れて生きていけないようなら、既に絶滅してますから。攻撃的な水魔法なら別として」


「攻撃魔法を試して中に落ちたら全滅。この雨程度なら遠隔出来るが、ダメージは与えられない。感覚で言うと遠隔の成功率は50%。攻撃魔法を強くしようとすればするほど、安定しない」


 諦めるまで何もしないという方法もある。私がいままでしていたように。

 この防御壁の中でじっと魔物が去るのを待つ。

 今日で3日目、この魔物が意外にしぶとくてもう飽き飽きしていたけれど、話し相手もできましたし、食料もある…


「!?」


 中に広い空間が広がっていていくら詰めても重さを感じない、みんな大好きマジックバッグを探ったが、ない。食糧が。確かにまだ残っていたはずなのに。

 このバッグは対になっていて、そのもう一つから、物を取り出すこともできる。


 でも、もう一人の持ち主は私が遠征していることを知っているはずで。帰ってきていない状況でここから食料をとりだすなんて、ありえない。

 私が食べすぎていたのを勘違いしていたのかも。

 とにかく、ご飯がない。


 ここに来て初めて焦りがきた。

 まずい。

 このままでは、魔物にやられなくても空腹にやられてしまう。

 いつ終わるかわからないという恐怖が足元から這い登って、ゾクゾクする。


「どうした?」


「籠城作戦が取れなくなりました。持っていたはずの食べ物がありません」


「おれも、ほぼ何も食べずに5日目だ。そろそろやばい。前に進むのみだな」


 先程男が言った50%、成功率としてはいい方だと思う。


「のります。その50%」


「それでもいいが、もっと高い確率が取れる方法があるのならそっちにするよ。君を危険にさらすのはしのびない」


 男は、防御壁から手を伸ばした。

 抵抗は感じると思うがもちろん自由に出られる。

 男はするりと防御壁から出ると、魔物めがけて走り出した。


 止める間もなかった。


 魔物の棘が飛んでくる。


 それをよけながら魔物までたどり着く身体能力はチートの一種では?

 片手を振り下ろした瞬間、稲光がして魔物に落ちた。


 え?雷まで?

 さらにチート。

 もしかして、ある可能性が頭に浮かんで心が沸き立つ。


 かれは、隠しキャラ?


 なんてゆっくり考えている暇はない。

 雷は魔物に貫通したけれど、男にも棘の残りが向かっていく。

 とっさに体をくねらせよけようとした男が倒れた。


 よけきれなかった?

 私は防御壁を解いてかけよった。

 魔物は無事に倒せたようだ。


 男の心臓の音を確認する。

 急所は外れているようで、確かに力強い鼓動が耳に伝わってきた。

 これならば、私の治療で間に合いそうで、ほっと胸をなでおろすのだった。


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