魔王復活のリミットが近づいてきました。少しの変化がありました。
3-⑧
手紙の内容は態度が180度変わったものだった。
「悪役令嬢だから、主人公と関わっていることを表沙汰にしたくない」
それがずっと彼女の口癖だった。
それなのに。
「何でもいいから手伝わせてほしい。城を訪ねます」
相談でもなく決定事項を綴られた手紙。
あんなに、私とのかかわりを隠したがっていたのに。
このゲームを前の世界でプレイしたことがある彼女。
悪役令嬢の破滅フラグを起こさないために、私とのつながりを隠しながらこのゲームについて教えていてくれた恩人。
理由を聞きたくて、いつものルートで手紙を送ろうとしても通じない。戻されてしまった。
尋ねるという日付は今日で。あと一時間ほどしかない。
手紙を通常ルートで送ろうにもすれ違いになる可能性が高かったけど、とりあえず頼んで急いでハンドに相談しに行くことにした。
「ヨウさん」
ハンドはまだ執務室に戻ってなかったのでヨウさんに居場所を探してもらうことにした。
セドリック様もいたけれど難しい顔で書類と睨めっこしていたからやめた。
騎士団の練習室にひょっこりと顔をだすとちょうど、休憩に入ったところのようだった。
まだ離れて数時間しか経ってないのに、会えて嬉しい。
「ちょっとまって」
上半身裸だったので近くにかけてあった白いTシャツを素早く羽織ると駆け寄ってきた。
「もう練習ですか?まだ帰ってきたばっかりなのに」
「魔法が使えなくなった時のために体を鍛えておかないと、いざという時に対応できないからね」
私と一緒に魔物の群れの中で戦ったこともなにもなかったように疲れ一つない顔で言った。
「で、どうしたの?」
緊急事態なのでハンドを探してほしい旨を説明する。
さらっと手紙の件も話した。
「その手紙の人って、俺たちと同じ世界から来たとはいえ信用できるの?」
「彼女の言った通りのことが実際に起きてますから。彼女は私に恋愛してほしくて。そのきっかけになるようなフラグを教えてくれてるんです。それを見事によけてるんですけど」
実は彼女の教えてくれた情報でハンドとの恋愛フラグを起こそうかと迷った時もあった。
この人とならずっと助け合っていけるかもしれないと思う時期があったからだ、でも進めていない。それは彼女も誰も知らない。ヨウさんにも、この先話すつもりはない。
「まぁ、君の事情も承知したうえで手伝ってくれる人がそばに増えるのは心強いと思うが」
「そういうわけで、ハンドの居場所お願いします」
ヨウさんは目を閉じた。二人の間に沈黙が落ちる。いつもどちらかが何かをずっと話しているから、こんな風な静けさを感じたのは初めてかもしれない。
長く寄り添った男女のように、二人だけの間合いで、しだいに誰もが認めるオシドリ夫婦のようになる人たちはこんな風にしっとりとした雰囲気を醸し出している気がする。
でも、おしゃべりでやかましい夫婦もいいよね。
どちらかといえば、私とヨウさんはそっち側かもしれない。
「みつけた」
「あ、おねがいします」
よこしまな想像をしていたので、挙動不審になってしまった。
危ない危ない。
それにも構わずに、ヨウさんは周囲をみまわすと騎士団の一人に駆け寄って何か話すと戻ってきた。
「いまから行こうか」
「一緒に来てくれるんですか?」
「今いる場所から移動する可能性もあるから。俺がいたほうが何かと便利でしょ」
素早い。
あっという間に馬車などの手配を済ませてくれた。
「御者の手配はしてもいいの?俺が運転できればいいんだろうけど」
「あ、私ができるから大丈夫です。ハンドがどこにいるか知っている人は少ないほうがいいですし」
ふたりでデートみたい。なんて、楽しい時間は一瞬で終わって。
無事に、賭場(ハンド曰く戦略を考えるための練習)で情報収集中の王を確保できたのだった。




