魔王復活のリミットが近づいてきました。珍しく少しだけ恋愛ゲームっぽい?
3-⑦
無事に魔法を習得してヨウさんと城に帰った時、先に戻ったはずのハンドはいなかった。
隊も編成し直されて私を助けに戻る準備がなされているようには見えなかった。
「王を置いてきたのか?」
いのいちばんに、宰相であるセドリック様にかけられた言葉は蔑みに満ちていて、ハンドがこの場に戻ってきていないことにびっくりした。
「え?戻ってきてないんですか?」
何かあったのかもしれない。
「王は先に瞬間移動で戻ったのですが何かあったのかも」
瞬間移動を使った時。ハンドの力はまだ残っているように感じたけれど、実はもう残りが少なすぎてどこか別の場所に行ってしまったのだろうか。
「失礼しました。気がせいてしまって。確かに王は戻ってきているようです。ヨウ殿もご苦労であった」
セドリック様は王の居場所を探索してくれて、疑いが晴れたみたいだった。
ほっとした。
こういうのがダメなんだろうな。自分の。
ハンドを甘やかしている自覚ありだよ。
王が帰ったタイミングを一緒だと思わせる返答をしてしまった。
ハンドは私を信用してあそこに置いていったはずだからという思いもある。
知らない人が状況だけを聞いたらハンドが悪く言われてしまうかもしれない。
傷だらけだった体はもう直しているし、使えないはずの攻撃魔法を習得したことはヨウさん以外には言えない。
なんで、王とヨウさんがいるのにわざわざ攻撃魔法を覚えたか勘ぐる人がいるかもしれない。
大丈夫だとは思うけど、1%でもハンドが悪く言われる要素は黙っておくに限る。
ただ、世界に力を供給されなくなったことは言わないとだよね。
「聖女様、手紙が届いております」
「私に?」
誰だろうという言葉を寸前で呑み込んだ。
いつものゲームをよく知る人物からだったからだ。
「ノリス様と交流があるのか?」
「まあ」
関係を隠すために今までは秘密の経路でやり取りをしていたのにどうしてだろう。
「優しくて人望があるあの方と交流があって、なぜ聖女は見習わんのだ」
手紙の主ノリスは、家柄もよくて慈善事業にも力を入れ、周囲をあっと言わせる商品開発で巨大な富を築いている切れ者だ。
まあ、彼女も私と同じ世界から来た人だからね。
私の会社のいくつかも彼女を社長ということにしてやっている。
聖女の名をつけて商売をやると、強すぎて独り勝ちになってしまうのを防ぐためだ。
自分の所だけが富むのは国全体としてプラスになるとは思えない。それが正しいかはわからないけれど。
「それでは下がらせていただきます」
彼女に世界から力を切られたことを相談してみようか。
すべてを知っている友からのいつもとは違う形で届いた手紙に、不安を覚えつつ。少し安堵もしているのだった。
「とりあえず、お疲れ様」
なんだか名残惜しくて、ヨウさんと談話室に寄った。
本当はすぐにでも、部屋に戻って休んでって言わないとだよね。わかってるんだけど。
ヨウさんからも部屋に戻ろうという言葉は出ない。
向こうも同じ気持ちなのかなって思えることが嬉しい。
「恋愛ゲームってすごいよな。現実ではさ、夢か恋かってなる時、あるじゃん」
ふたりだけの空間に話が弾む。
「ああ、高校生とかの今は勉強とか部活が忙しいからごめんなさいってやつとか?」
「仕事もそうだよね」
何かに夢中になれるのは素敵なことだけれど、自分が雑に扱われるのは悲しいよね。
「でも、この世界ではさ、絶対的な解決をしないといけない目的がありつつも恋愛を進めることが当たり前で」
「そうそう。私はできなかったけど。魔王を倒すために恋愛が必須だから」
「真実の愛で魔王を倒す。だもんな。でもさ、ゆいなちゃんはそれだけ、恋愛についてというよりも結婚についてか。この世界では付き合った人イコール結婚だろう?真剣に考えてたってことじゃないのかな」
居た堪れなくて思わず、爪を弾く。
「でも、それが許されない世界でもあって。与えられた選択肢を選ぶ以外はバッドエンドで世界が崩壊だから、それを防ぐために私は恋愛をとにかくしなければならなくて」
「まあ、そのことについて議論したかったわけじゃなくて。現実でも夢を追いながら恋することって可能だったんだなって。大変な時間の合間を縫っても会いたい相手に出会ったら、やっぱり恋しながら夢を追うってあるよなって改めて思ってさ」
「夢って、叶えてももまた別な夢が出てくるとかあるよね」
「そうそう。そうなんだよな。夢を追うということは学ぶことが多いってことだからね、世界の見え方が変わるというか。そうしたら、違う夢が出てきたりして。そんな中で時間作って、他愛のないことを話したい存在っていうのが俺の理想なのかも」
ヨウさんが身を乗り出してテーブル分、開いているふたりの距離が少し縮まる。
そういう人いたんですか?なんて、嫉妬しすぎて聞けなかった。
「いいですよね。そういう人がいたら」
無難に返しておいた。
その後も次から次へと話が出てくる。
話が飛んでキノコの見分けかたの難しさはこの世界では容易だという話に及んだ時、帰ってきてからもう数時間が経っていた。
「もう疲れたって、その椅子も」
ヨウさんが不意に言った。
「あ、まさかの人じゃなくて椅子が疲れてたの?」
「時間さえあればずっと話しちゃうよね。というかもう時間がないフェーズになっても話してるから。もう寝ないとだよね。お互いに」
「クタクタだよね」
濃すぎる一日だった。
「魔物の群れに囲まれて、魔法習得して歩いて帰ってきたんだから。ありえないぐらいにね疲れてる」
「それなのに、話しちゃう」
だって離れがたい。
「最初の話題のやつって、きっとこれなんだろうな」
「最初の話題ってなんだっけ?」
色々な話をしすぎて覚えてない。
「ま、脳も限界ってことだね。後2時間ぐらいは寝られるだろ、おやすみ〜」
ヨウさんは爽やかな笑顔で去っていった。
最初の話題ってなんだっけ?
確か、夢と恋とヨウさんの理想の話?え?
「ゆいな?何そんなところで、俺のこと待ってたの?」
朝帰りのハンドに声をかけられるまで、私は動けなくなっていたのだった。




