魔王復活のリミットが近づいてきました。魔物と交戦中ですが、とりあえずパンでも食べながら考えます。
3-⑥
やっぱりかっこいい。
攻撃魔法について説明するヨウさんの顔を見つめながらわたしはパンをかじった。
とりあえず、急がなくてもよくなったので腹ごしらえすることにしたのだ。
いつも、厨房の人たちが持たせてくれるパンはおいしいけれど、今はもっとおいしく感じる。
特製のレバーのパテにタルタル風たまごのパテ。
ヨウさんもおいしそうにかぶりついている。
「うまそうに食うな」
「それはヨウさんだよ」
「パン取り上げて悲しそうな顔見たくなるぐらいの顔してる?俺」
嬉しそうに私の持っているパンを齧るふりをした。
「してるかも」
私も、齧るふりをやり返す。
「口ちっちゃ。それだと、俺の方が先にゆいなちゃんのパン食い尽くしちゃいそう」
「あげないよ」
急いで食べ進める。
「小動物みたいで可愛い」
「早食いが苦手で」
「ゆっくり食べよ。ほんと美味い」
今はまだ料理は食べる専門だけれどこんなにおいしそうに食べてくれたら、料理頑張っちゃうな。
「こうやって美味いもの食べてゆいなちゃんと他愛無い話をしてくつろいでると、平和だな」
「まだ魔物の群れの真っ只中ですけどね」
防御壁の中は、ヨウさんが光の魔法を使ってくれたのでほんのり明るい。
自分の位置を見失いそうな暗闇とちがって息がしやすい。
あかりってありがたいな。
月が出るまでの暗闇の中、どんなに目を凝らしても空以外何も見えなくて。
自分がいったん進んだらもとにもどれない怖さと、間違っていてもわからない不安におしつぶされそうだたった。
ヨウさんといると心にも光がともって、さっきまでの不安を素に編み出していた力が、安心と一緒に何倍にも湧いてくるのをかんじる。
「そろそろ、はじめるか、手を握ってもいい?」
「へ?」
驚いて変な声が出てしまった。
「って、まだ食べ終わってないのか。そのスピードは面白すぎる」
満面の笑顔に見守られながら、完食した。
「じゃ、始めるか。さっき王にもやって見せたけど、直接力の流れを感じてもらった方がどうやって攻撃魔法を繰り出しているのか理解してもらいやすいと思うから」
ぶんぶんと音が鳴りそうなぐらい高速で頭を振る。
びっくりした~、もちろんヨウさんはそんなキャラじゃないけど、なんだろう。びっくりした~。
「どうぞ」
こわごわと差し出した手をヨウさんが躊躇なく握った。
取られた手に心臓が移動しちゃったみたい。
ドクドクと血が流れていくのを感じるぐらいの振動が伝わってきている気がする。
手の先までケアしててよかった。
ガサガサだなぁって思われたらいやだもん。
「俺の魔力感じられる?」
いわれるままに、感覚を敏感にしてヨウさんの中に自分の力を流して探る。
自分とは違う波動にふれてそれがヨウさんのものだと体に刻み込む。
「今から、防御壁外の一匹を凍らせてみるから俺の中の力を感じて」
心臓からひときわ強い力が流れ始めてそれがヨウさんの全身を巡り右手に集まってくる。
その力が凝縮されて消えたと思うと、防御壁に群がっている一匹が凍って砕けた。
「え、っぐ」
「目の当たりにすると残酷だよね。魔法ってもっときれいなものかと思ってたよ。だから、聖女は攻撃魔法を使えないのかもしれない。どうする?俺だけでもやれるよ」
考えるまでもなかった。
「やる。木っ端みじんにしてやる」
たぶん、理想の聖女は清らかで優しくて虫も殺さないようなイメージなのかもしれない。
でも私は、私の大切な人たちを守ることを優先する。
その人たちを傷つける存在は容赦なくたたきのめす。
「あとは実践あるのみ!」
さっきの感覚を思い出しながら
「ちょっとまって」
「なになになに?人がやる気になってるのに」
「防御壁、消える可能性ない?」
防御壁を指さしながら、ヨウさんは首をかしげた。
「あ」
そういえば、二重に防壁を出した時に片方が消えたこともあったね。
「消える可能性ある…」
防御壁が消えたら最後、周りにいる魔物が一斉に飛びかかってくるだろう。
「先に俺に防御壁を作るほうをおしえてくれない?俺があれをできれば、魔王が復活したときに君一人に任せなくて済む。」
「え!でもあれは聖女の専売特許で」
声がとがってしまったかもしれない。
そんなこと、今まで言ってくれた人いなかったから。
この世界に来て、自分しかできない役割があるとしってから、ハンド達メインキャラクター、周りの人、それが聖女の仕事、存在意義だと言われてきた。
何より手紙で助言してくれている人が、この世界はそういうゲームだと断言して未来予想もバンバン当たっているからね。
防御壁を作るのが、真実の愛を見つけられない私のお仕事。
だから、自分だけで何とかしようといつもしていた。
その重圧を一緒に担いでくれようとする人がいるなんて。
だめでも、その気持ちが嬉しい。そう思ってたけれど。
さっきヨウさんが私に教えてくれたように私もヨウさんに魔力の流しかたを伝える。
ヨウさんの力を受け入れる。
「そうそう。そんな感じで力を流して、はい!」
コツを教えるとすぐに防御壁を張れるようになってしまった。
「あれ?」
なになになに?
今までの私の悩み何?
動揺しまくっている私をよそに、ヨウさんは涼しい顔をしている。
かっこいい。
「攻撃魔法が出せないはずの聖女がこれから攻撃魔法を試すんだ。防御壁が張れないはずの俺がチャレンジしてもおかしくないって思っただけなんだけど。うまくいったな」
「そ、そうだよね」
他のことで実は一杯一杯だった。
さっき、私がヨウさんの身体をさぐって力の流れを教えてもらうのと逆のことをしただけだったんだけど。
しっかりと、ヨウさんの力が私が力をどう使ってるのか探ってるのかがわかるの!
ヨウさんもこれを感じてたってこと?
なんかこれってかなり、
「なに?」
「なんでもない…」
声が自然と小さくなった。
さっきヨウさんはどう感じたんだろうと考えてとてもドキドキした。
どうせ、力を使うことに集中して何も感じてないんだろうな。
がっかり?がっかりってなに!
ちょっとは意識しててほしいてこと。そうだ。私のこと。
ひとりで、悶々としていたら悔しくなった。
「すこし、力をもらってもいい?」
魔力をヨウさんの全身に這わせた。
入ってきた力が全身をつつんで呼吸が楽になる。
優しく優しくを心掛けてくるむ。
ヨウさんの体調のチェックもかねて。
優しく優しく抱きしめるように。
「ありがとう!」
ヨウさんの耳が少し赤くなってるのがちらっと見えた。
満足。
かなりドキドキさせられてる仕返し、このぐらいいいでしょ。
貰った力を傍に浮いている精霊さんに戻した。
弱くなっていた光が輝きを増した。
「精霊をこんなに元気にできるほどの力を分けたつもりはないんだが」
「力、増やせるみたい。正確には増えたわけじゃないんだけど、魔王の防御壁に流す力を圧縮して節約してるのと同じ原理。密度を上げて少しの力で前と同じことができるようになる」
「すげえな」
「へっぽこ主人公だけど世界はチートを与えてくれたみたい」
「ちがうよ、努力でしょ。与えられたものをただ享受してただけじゃない。それを努力で磨いて使えるようにした結果だよ」
精霊さんも点滅してるから誉めてくれてるのかな?
そのまま、ヨウさんの肩にふわっと止まった。
きらきらして、きれい。
「俺のも精霊を通して力が何倍にもなって返ってきたんだけど。やっぱりゆいなちゃんはすごいな」
「これでもいつかは、枯渇しちゃうよね。世界と切れた以上は供給がなくなったってことだから」
「それでも、かなり延命にはなった。ありがとう。俺もそうだけど、この子の力とか他のやつの力をもらってしまったことで、迷惑かけてるから」
「もしかしてヨウさんに力を分けた団員の方達の力の供給も止まってしまったの?」
ヨウさんに協力した精霊でさえ力の供給を止められてしまったのだか可能性は十分ある。
「そうなんだ。一人目で力が増えなくなることに気が付いて、でも後のやつらも力分けてくれて。熱い奴らだよ。君と王に感謝してた。だから二人を助けに行けって力を分け続けてくれた」
どんな気持ちだっただろう。
泣きそうだと思った。
二重にはられた防御壁。
外側はヨウさんの張ったもので。魔物はそのまわりでなすすべもなく様子をうかがっている。
体当たりしてるものもいる。
「私にできる限りのことはしないとね。お力添えくださったその方たちのためにも」
「ちがうよ。君の背負うものを増やしたかったわけじゃないんだ。そっちは俺の領分だ。ただ」
ヨウさんは一呼吸おいた。
「一緒に帰ろう」
「はい!」
顔を見合わせて、なんとなく笑った。
「とりあえず、攻撃魔法だよね」
ヨウさんは、団員の方達が力を使えなくなった責任は自分だけが負うと言ってくrた。たぶん、力を貸してくれた人たちもそんなつもりはないと思うけれど、ヨウさんは色々と一人で抱え込む人なのかもしれない。
ちょっと似ている。私と。
支えたい。
不器用ながらもまっすぐなところ。
惹かれる。
一度捉えられたらこの引力にあらがえない。
私と同じ世界からまだここに来たばかりなのに、周りにとても信頼されて溶け込んでる。
すごいすごいすごい。
「あらためて」
ヨウさんの力の使い方を反芻する。
ヨウさんをちろっとみつつ、さっきの感覚を思い出すと勝手に顔に血が集まっているような気がしてドキドキしながら。
「凍れ!」
力を放ったと同時に内側の防御壁が消えた。
よかった。ヨウさんの防御壁があって。
放った攻撃魔法はどこに行ってしまったのだろう。特に変化なし。
「敵を防御壁でくるんだだけみたいだね」
示された先に壁に包まれた魔物がいた、中から出ようとしたがもちろん無理だ。
試しに防御壁を縮めていった。かなり、グロイ結果となった。
「うわー。これじゃあどっちが悪者かわかんないね?」
でも、できちゃった。
遠隔で防御壁を張る方法。
「どうする?続ける?」
「はい。ヨウさんがいるときならこれでいいけれど、一人の時にこれじゃあ使えないから。とはいえ、新しい攻撃方法を見いだせたのはラッキーだよね。この防御壁の貼りかたやってみたかったの」
何度か繰り返す。
氷がついに出た。
「ヨウさん、でま。。。っつ」
顔に痛烈な痛みを感じた。
撫でると血が出ていた。
「なんだろう」
ヨウさんが気が付く前に素早く直した。
もう一度打つ、少しづつ形になっているような気がする。
もう少し。
だが、今度は腕から血が滲んた。
刀で切られたような傷だ。
「な、なんだそれ」
「わかんない、でも大丈夫。もうすこしな気がするの、あとで治すから」
「そうか」
ヨウさんに頷くと
何度もあきらめずに、放つ。
鮮血が飛び散る。
こんなに血まみれの聖女っているのかしら。
もう少しもう少し。
ヨウさんに力の使い方を観察させてもらう。
えーん。ドキドキするよー。
傷は増える度にかなりの痛みを伴うし、心臓が持たないし、体は大忙しだ。
このドキドキのダメージも後で治せるのだろうか。
たらたらと血がしたたり落ちている。
「君を始め見たとき、どうしてこんなに頑張れるんだろうっておもった。そして、わかったよ。俺を助けてくれた団員みたいな国民を守りたい。かなしませたくないだろって。だからこその覚悟。さすが主人公だと感心していた。でも違う。君の頑張りは思ってる以上だった。接すれば接するほど。己の理解のなさを痛感する。君のその覚悟。俺もそれを手伝いたい。だめかな?」
そんな顔で見つめられたら
心臓が壊れてしまう。
私は攻撃をやめて、全部の傷を治し清浄の魔法をかけた。
こちらから見つめ返す。
なんとなく、乙女の恥じらいみたいなものが発動してしまったよね。
「ねえ、それなんなん?この間もそうやってじっとみつめてきて、しんぞうこわすき?敏腕スナイパー?」
「ちがうよー」
ふっと緩んだ表情と気持ち
「まじめにやるー!」
「はい!師匠」
「なんで和風?」
「そんな感じがした」
「正解!」
笑いあいながら血をまき散らしながら、攻撃魔法の実践を積んでいくのだった。




