魔王復活のリミットが近づいてきました。恋愛ゲームの主人公なのにまた1人で魔物と交戦中です。
3-④
「最初は何をすればいいんだろうね?」
ひとりの時はお馴染みの、とりあえず近くの魔物に防御壁の中から話しかける戦法だ。
こうすると少しだけ、ひとりじゃない気がする。
「とにかく、少しずつでも城の方に近づきたいんだよね。ヨウさんを助けるために」
「うーん。こう言うのはどうだろう。まず防壁を大きくする。そして、少し進みそこでまた防壁を展開する。
これができれば、大きく展開した防壁の中を進んで、端でもう一回防壁を展開することで、少しずつ進むことができるよね。うんうん。早速やってみよう」
「名付けて、二重防壁作戦!」
とりあえず、景気付けに叫んでから試してみる。
しかし、もう一つの防壁を展開したとたん外の防壁は消えた。
「ですよねー。知ってた。」
これができてたら、いつも魔物がいなくなるまで待ってたりしないのよ。
物語の主人公ってさ、仲間の危機に瀕したりすると急に強くなったり新しい能力が開花することがあるじゃない?ちょっとそれ期待したけどダメみたい。
念のために防壁ギリギリで距離を稼いでから試さなくてよかった。
もちろんこれで諦めたりしない。
端まで走って行って、防壁の後ろの部分を狭めて前の部分を広げたらどうだろう。
「よーい。どん」
防壁の端まで走る。
らんらんとした目と魔物が防御壁の向こう側で並行して追いかけてくる。
「そんなに見守ってくれなくてもいいんですよーー」
橋に着いたから後ろを狭めて、ってどうやるんだろう。うーん。
「やっぱり、自分が中心にならないと防御壁を展開できないか。これも知ってた。移動した自分を新たに中心として防御壁を移動させてもいいかなと思ったけど。無理か」
なんか、主役ってもっとチートだと思ってたけど、恋ができないだけじゃなくて、能力もポンコツだったの?鍛錬してたつもりだったけど、足りなかったみたい。
「もういっそ防御壁の範囲をお城まで広げちゃったらどうかな?」
かなり力を消費するけど、最後の手段。
ヨウさんがいなくなるよりずっといい。
「あ、だめだ。防御壁に引っ付けて魔物を運んじゃう。他の村に迷惑じゃん。街道に商人がいるかもしれないし」
城の防御壁と私の防御壁で挟むとしても、もっと近くによらなければ。
どうしよう。
どうしたら?
メインキャラじゃないけど、存在感がすごいヨウさん。
このままだともう会えなくなっちゃう。
やだ、絶対あきらめたくない。
出会ったのは突然だった。
対峙する魔物に魔法が効かないと知ったら素手で飛び込んでいって。
不器用なやり方だけど、自分のために一生懸命になってくれるし、小さなことで笑ってくれる。
あ、光が見えた気がした。
あの時、私はどうした?
「ふ、ふ、ふ」
まだ、試していない方法があった。
ぐるりとあたりを見回す。
炎耐性の魔物だけと言っても数えきれない量の魔物が周りを取り囲んでいる。
ただ、最後に放ったハンドの魔法の威力がすごかったと見えて、最初の一発目をくらってから炎耐性に変わるあの鹿みたいな魔物は見当たらなかった。
さすが、メインキャラクター。この国の王。
とにかく少しずつでも近づければいい。
かなり効率は悪いし、危険な方法だけど。
防御壁を広く展開する。
そして。息を吸って吐いて。整えて。
魔物は広がった防御壁に押されてだいぶ距離が遠くなった。
「よーい。どん!」
私は防御壁を消した。
「は!」
少し走って自分の周りに防御壁を展開した。
うまくいった。30センチは近づいたと思う。
やったー。
もっと距離を稼ぎたいけれど、さすが魔物。防御壁が消えてから襲ってくるスピードが半端なく早い。
少しでも欲張りすぎたら防御が間に合わないだろう。
ハンドはマジックバックを目印にして、私の所まで飛べるから助けに来る時も見失われることはない。
体制が整ったら、戻ってきてくれるだろう。
どのぐらいかかるかはわからない。
ハンドが助けに来てくれるのを待った方が楽に決まっている。
でも、ヨウさんのことが心配だから。少しでも進むんだ。




