恋愛ゲームの主人公です。ひとりで野宿してます。
恋愛ゲームの主人公になったのに好きがわからなくて世界が滅びそうです
1章 恋ができなかったら世界が滅ぶの重すぎる。
1-①恋愛ゲームの主人公です。ひとりで野宿してます。
鹿みたいな魔物に追われている。
頭から生えている角は青く澄み切った空に映えて、王者の風格を漂わせているように感じた。
「そろそろ、諦めてもいいんじゃないかな?」
もしかしたら、話が通じるのではないかとの期待はもうとうに砕け散っていたけれど、それでもこの状況を少しでも変えたかった。
「ねえ、もう3日だよ!お風呂入りたいよ!あ!っていっても清浄の魔法かけてるからきれいなんだよ」
返事があるはずもない魔物に話しかけ続ける。
「あなたもそうなんだけどさ、みんな予想外すぎるのよ。魔物研究本、これでも読み込んでるのにその通りの君たちがいたことないじゃない」
攻撃しては空に戻っていく鳥型の魔物、傷を負った動物のふりをして襲い掛かってくる魔物。こちらの情報を把握しているのか弱点ばかりついてくるのもいたなぁ。同じ種族でもみんな個性がある。
「君のことも書いてあったよ。でもさ、こんなにひとつの獲物に粘着するなんて書いてなかったよ!帰ったら書き足さないとだよね。あとの人の為にも。それとも、私が聖女だから?それなら書き足してもしょうがないし」
この世界に聖女は私だけ。粘着するのが聖女だけならば全くの無駄情報だ。
「私はさ、こういうのになれてるからいいけど、普通だったら君、出会いたくない部類の魔物ナンバーワンに躍り出ちゃうよ」
王宮勤めっていうと煌びやかなイメージだけれど、とんでもない。万年人手不足の職場。ひとりで偵察に行かされて帰れないなんてざらだ。
ちょっと待って。
自分で思わずツッコミを入れてしまった。
ここには私しかいないのでやむ負えない。
魔物に襲われることや野宿で何日もお風呂に入れないことに慣れている恋愛ゲームの主人公とは?
「そんな恋愛ゲーム売れたの?」
実際にハマった人が人気ゲームだったって言ってたからそうなんだろうけど。
私がこの世界に来てもう4年になる。
転生というよりも、迷って他の世界に行くタイプだった。
「実年齢の28歳よりだいぶ若い中学生ぐらいに戻ったのはちょっと嬉しかったけど。おまけに、もう着ることもないと思ってた学生服もさ可愛かったし」
飛ばされた時期はゲームの始まる前だったから、年齢もその設定に合わせていたのでは?とこのゲームをよく知る人が推測していたからそうなんだろう。
考えている間にも魔物は攻撃を加えてきている。
「だから、もう無駄なんだって」
完全に防いでるでしょ。もうあきらめてよ。
帰りたい。
聖女特製の防御壁。破れるわけないんだからさ。
「もう、何日休んでないんだろう。お仕事ゲームに変わっちゃうよ。このままだと」
恋愛が全然進んでないのだ。ただただ、お仕事スキルが上がっているだけだ。
そんな自分でもいいかなと思っているところもあるけれど、ダメなのだ。
私の恋愛は私だけのものじゃない。
「ゲームの最終目的は攻略対象とのハッピーエンドと、真実の愛パワーで魔王討伐なんだよ。もうゲーム開始して2年目なんだよ!17歳だよ17歳。なのに恋愛できなくて仕事ばっかり!どうしよう。このままだったら世界が破滅しちゃう」
なぜ、ゲームが始まる前からこの世界に降り立ったのかはわからない。
とりあえず、魔王が復活するのは高校3年生の卒業式後で先のことなのだけれど、すでに魔物は多くは生息していて近隣の人々を困らせている。
今回の任務も魔物討伐がらみだ。
5日前から急に凶暴な魔物が増えて王宮に討伐依頼が舞い込み、その下準備のために私はこの地を訪れている。
ゲームの主人公の聖女がこんな下準備や、その他の雑用でこき使われている設定はゲームをかなりやりこんだ人でも知らないらしい。
このイベントも特になかったんだって。
でも、実際に起こっているのだから解決しなければならない。
このゲームを知っている人の助けを借りることができる。いうなれば未来予知。チートよ。そのはずなのに、あまり役に立っているとはいいがたい任務ばっかりなんだよね。
とはいえ王宮討伐隊がキャンプしやすい場所。発生している魔物の種類。など、必要な情報はもう偵察し終えた。
「後は、帰るだけなんだよ!」
魔物はそ知らぬふりでまだ私から離れない。
「そんなにしつこくされたって、あなたが勝てるチャンスはありません!」
溜息は飲み込んだ。なるべく出さないようにしたい。
偵察は大変なところもあるけれど。
主人公らしいチート能力の聖属性魔法を駆使して、人の役に立てるのは嬉しいからすきだ。
一瞬ですべての魔物を倒せるほどの能力を持っていたらよかったのに。
そこまでは甘くないみたい。
それはそう。
初めからその能力を持っているならば、ゲームが成り立たない。
あくまでも、真実の愛を見つけた時に魔王を倒せる力が発現する。
これがきっと一番のお約束。
とはいえ、その重要事項の恋愛を遂行できていない身としては、なにか人の役に立てるということで気が少し軽くなる。
「もう、そうやって君たちが暴れるからこき使われてるから恋愛する暇がないんだよ?」
魔物のサングラスの奥の瞳は見えないけれど、嘘つけと言われている気がした。
「そう。あなたたちのせいじゃない。私が一方的に悪いんだ。でもさ、恋愛ゲームの主人公が誰とも恋の進展がないこと自体はよくある。よね?」
なんて、恋愛ゲームを絶対にやったことがないであろう魔物にまで愚痴るなんてと思うけれど聞いてほしい。
「選択を間違えたり、フラグを立てられなかったり。その場合はノーマルエンド行き。攻略対象達とのお友達エンドとかさ多いよね?」
地面に映えている草をやけくそで引っこ抜く。
防御壁の中で安全に膝を抱えて座りながら。
「でもね。この世界は違うんだよ!主人公が恋をして真実の愛を見つけ、その力で君たちの王である魔王を倒せたらトゥルーエンド。恋ができなくて魔王を倒せなかったらバッドエンド!の二択だけ。ねぇひどくない?」
つまり、真実の愛を見つけなかった先に待っているのは世界の破滅
自分の命だけじゃない。
世界が滅びちゃうの。
恋愛とはそこまで命がけなものという教訓ゲームだったのかな?。
それとも元々の主人公もしくは制作者が、そのぐらいの負荷をかけないと恋愛しないタイプの人だったのかな?
そんな考えても仕方ない裏事情の推測は置いておいて。
「小娘ひとりの気まぐれな感情に世界を任せてしまうなんて、重ない?」
それがゲームだろ。なんて誰かに言われてる気がした。
「そうかもしれないけどさ、実際にその責任を負わされる身としては、プレッシャーがかかりすぎだよ」
なんて。
ここまで魔物の攻撃を防げる防御壁魔法をの中で独り言を並べ立ててる主人公は、やはりチート。
その難易度は恋愛ゲームっぽい。ありがとうございます。
誰にともなくお礼を言う、
肝心の恋愛できないことが問題なんだけどね。
「今は攻撃魔法が全く使えないことが問題だー!」
聖女が使える攻撃魔法はたった一つ。
真実の愛が生まれた時に相手と放てる魔法だけ。
どんなに、優れた能力を与えてもらっても、恋愛に向いていない私が主人公に選ばれてしまったせいで、世界が滅びそうだよ。
いままで4年間で知り合った恩人たちやこの世界に住む人たちを救うには、誰か好きな人を作らなければならない。
「残り一年で、攻略対象たちに恋できるんだろうか」
その前に、この魔物。
いつ、あきらめてくれるんだよー。