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第6話:相棒

2025/8/31 大幅改稿+タイトル名変更

2026/2/18 加筆修正

「ふむ。あれから月日が経ったが……見違えるようじゃな」


出会いから一年。

春に顔を合わせた二人が、今や冬を迎えようとしていた。


ヒョードルの基礎訓練に始まり、手合わせ、そして戦闘訓練区域での実戦。

狂暴化した魔獣を毎日のように倒す日々。

その積み重ねが、スヴィグルを一人前どころか、危険区域の魔獣すら余裕で相手取れるほどに鍛え上げていた。


強さに比例して彼の中に自信も芽生え、最初の頃に見せていた擦れた態度も次第に薄れ、今では本来の明るさを取り戻している。


「今のスヴィグルなら……ケイとも渡り合えるかもしれんな」


ヒョードルの言葉に、スヴィグルは目を輝かせた。


「よし!! ケイ! 手合わせだ!」


お墨付きをもらった途端、スヴィグルはガッツポーズをする。

そして好戦的な声を、端で洗濯物を干していたけいへ投げる。


はためく真っ白なシーツの隙間から「へ? なになに?」と、聞こえていなかった様子のけいが首を傾げた。


「オレと手合わせしてくれ!」


言葉を改めると、けいはちらりとヒョードルに視線を送る。

ヒョードルはカラカラと笑って頷いた。


「……仕方ないなあ」


けいは小さく笑い、手を止めると訓練場へと歩を進める。


「ちなみに、手合わせの内容は?」


「一本勝負で。オレは木刀いくから、お前は杖で来てくれ」


「魔法は?」


けいが珍しくニヤついて問いかけると、スヴィグルは即座に苦い顔をした。


「んなもん、お前に魔法で勝てるわけねーだろ! 拒否だ、拒否!」


「あはは! OK。なら手合わせ、よろしくね。……スヴィ」


あだ名で呼びかけると同時に、けいの手元に杖が現れる。

それを体の斜め前に構え、視線を鋭くスヴィグルへと向けた。


(……相変わらず切り替えが早いというか、上手いな)


けいの長年の悪癖が、こうして戦闘技法へと昇華されている。

それは皮肉にして、まるで酷い冗談のようだとスヴィグルは思う。


けいの構えは「霞」と呼ばれる構えを取る。杖を体の斜め前に構え相手の動作を観察し、隙を突いて打ち込む技法だ。

目を細め、じっと、スヴィグルの動きを窺っている。


対するスヴィグルは木刀を斧に見立て、体の中心線に構え、切っ先を真っ直ぐにけいへと向けた。昔なら勢い任せに突っ込んでいただろう。

だが今は違う。スヴィグルも冷静に相手の挙動を見極めようとしている。


この一年で確かに成長したのだ。


先に動いたのはスヴィグルだった。

地面を蹴る音と共に、木刀が唸りをあげて振り下ろされる。まるで大斧を思わせる重い一撃。けいはその体格差と腕力差を計算し、まともに受けるのを避け、杖で木刀の側面を弾こうとする。


「かたい!」


杖を握る手に痺れるほどの衝撃。けいは舌打ち混じりに、あえて杖を手から放した。


「おいおい! 武器を手放していいのかよ!」


勝ちを確信したように吠えるスヴィグル。だが次の瞬間、けいの口元に薄い笑みが浮かんだ。


「ふふん。それは、どうかな?」


手を離した杖を、けいはつま先で蹴り上げる。そのまま一直線に、槍のようにスヴィグルへと飛ぶ。


(は……?)


脳が処理できない。だが身体だけは勝手に動き、迫る杖の先を弾いていた。反射で防御できた自分に驚く間もなく、砂煙が舞い上がる。


少し離れた場所でヒョードルが腕を組み、嬉しそうに頷く。


(よしよし、考える前に体で防御できるようになったか。スヴィグルもよう成長した……そしてあの子も、相変わらず戦闘センスは群を抜いとる)


けいは弾かれた杖を拾い上げると、追い込みはせず再び距離を取った。


(やっぱりお前は凄い。それに、本気で戦ってくれてんのが分かる)


それが分かるからこそ、スヴィグルは無性に嬉しくなり胸を熱くさせる。だからこそ足が自然と前に出る。


木刀と杖が幾度もぶつかり、砂地に衝突音が響く。


躱しては狙い、また躱す


互いに全力で戦えることに、二人はお互いに感謝する。本気でぶつかり合うこの時間が、けいもスヴィグルも、心底楽しいと感じていた。


「はっ!」

「ふんっ!」


衝突の音が乾いた訓練場に響く。砂地に足跡が幾重にも刻まれ、スヴィグルもけいの息も次第に荒くなっていく。


そしてついに決着の瞬間が訪れた。


スヴィグルの木刀が杖を弾き飛ばす。


「取った!」


勝利を確信した笑みが、彼の顔に浮かんだ。だが、その隙を、けいは見逃さなかった。


「ダメだよ、スヴィグル。最後まで気を抜いちゃ」


瞬きの間、一瞬、目の前からけいの姿がいなくなる。


(どこだ……!!?)


気配を見つけ視線を下げると、けいが姿勢を低くし、手の平を構えながらスヴィグルの懐に潜り込んでいた。


「なっ……!」


次の瞬間、けいの魔力で補強された掌底がスヴィグルの脇腹に叩き込まれる。


「がはっ!」


肺から息が強制的に吐き出され、咳き込みながらもスヴィグルは目を見開き、地面に片膝を着いた。


「一本。決着じゃな」とヒョードルが手合わせの終わりを告げる。


けいはすぐに膝を着いているスヴィグルの横に膝を着くと、回復魔法をかけ始めた。淡い橙色の魔力が、打ち合った時に出来た彼の打撲痕を癒す。


「くそ……ッ、まさか、じいさんと同じ手を使われると思わなかった……!」


スヴィグルは、けいが杖術だけでなく拳でも戦えることに驚愕する。


「攻撃手段は多くあればあるほど良いってヒョードルの教えだからね~」


「そうじゃぞ〜スヴィグル。これもいい勉強になったろう?」


「こ、この似たもの親子め……!」


その言葉にけいとヒョードルは顔を合わせ、嬉しそうに笑った。


「にしても二人とも、よい手合わせじゃった! 腹も減っただろう。紅茶と一緒に何か持ってこよう。何がいい?」


「ありがとう、ヒョードル」


「作り置きのサンドイッチがあるから、いい天気だし、三人で外で食べようよ」


「おお、それは良いな」


ヒョードルはそう言うと、スヴィグルに回復魔法をかけながら軽口を交わす二人の様子を微笑ましげに見守った後、「では、持ってくる」と家の中へ向かった。


「いつつっ。流石にあれは卑怯じゃねえの?」


「魔法は、使ってないからセーフで」


「ずりぃ!」


「えへへへ」


「……ったく。まあ、ああいう動きもあるんだなって勉強になったわ」


「ふふふ。はい、治療完了!」


「お、サンキュウな」


治療が終わると、二人のあいだにふっと静かな空気が流れた。芝生の匂いと、打ち合った後の余熱だけが残り、勝負の余韻に身を浸しながらも、どこか満ち足りた気持ちに包まれる。


「はあ、本当に強いなお前は……」


スヴィグルは少し悔しそうに背伸びをし、そのまま芝生の上にごろりと寝ころがる。

それでも顔には、晴れやかで柔らかな笑みが浮かんでいる。


けいも同じように体育座りで隣に座り、穏やかに応えた。


「スヴィグルだって、すごく強いよ」


その言葉に偽りはない。

どんなに厳しい訓練でも決して諦めず、自分への嫉妬に囚われることもなく、常に隣でともに前を向こうと努力してきたスヴィグルを、けいは本心から尊敬している。


(僕も、もっと頑張らないと)


戦うには向いていない、物静かな性格に見えるけいだが、もともと何事も完璧にこなさなければ気がすまない性格も相まって、強さを極めること自体は苦ではない。

今回の模擬線でスヴィグルが強くなった事に、嬉しさを感じると同時に自分も頑張らなければと、静かに熱が入るのだった。


「にしても、普段家事ばっかしてんのに、どこで訓練してんだよ」


スヴィグルの問いに、けいは微笑んだ。


「あー、買い物の帰りにね。駆除ついでに、魔獣とか魔物を倒したりしてるかな」


スヴィグルは驚きつつも、どこか納得したように笑う。


「……マジで、じいさんに似てきてんな」


そんな軽口を言い合っているうちに、ヒョードルが用意したサンドイッチを携えて戻ってきた。


「さてと、お待ちかねのサンドイッチじゃ。紅茶も入れてきたぞ」


「ありがとう、ヒョードル」


三人は、木陰に腰を落ち着けて晴れた空の下、サンドイッチを頬張る。その合間にも、軽やかな笑い声と共に、さまざまな話題が飛び交う。


「このサラダチキン、柔らかくて美味いな!」


「本当じゃのう。けいよ、さらに料理の腕を上げたんじゃないか?」


「ふふふ。ありがとう。いつも二人が美味しそうに食べてくれるから上達したのかも」


3人は談話を続け、彼らはまるで家族のように穏やかに過ごした。

スヴィグルはふと空を見上げ、「こんなに穏やかな時間、昔は想像もできなかった」と独り言のようにつぶやく。

けいもまた頷きながら笑うと「ほんと、か───」、何時もなら言う事もない言葉を発しそうになって口を思わず隠す。


「ん? どうしたんだよ?」


「そうじゃ、どうした?」


「あー、えーと、その……」


二人からぐいぐいと詰め寄られ、しどろもどろになる。思わず腰を上げて逃げようとしたが、スヴィグルがすかさずけいの肩を掴んだため、立ち上がることができず、顔を真っ赤に染めてしまう。


「ほれほれ、言ってみよ」


ヒョードルも悪ノリで王様のように───いや、事実王様ではあったのだが、まあ、王だった頃のように話しかけてくるので、そんな養父に恨めしげな視線を送る。それでもびくともしない二人は、ニヤニヤと意地の悪い顔でこちらを見つめてくる。けいは観念して、大きな声で叫んだ。


「家族って言ったの! こういうの、家族っぽくて良いなって! 悪い!? ヒョードルはもちろんだけど、スヴィグルとは兄弟みたいだなって!!」


思わず叫んでしまい、再び頬が熱くなる。あまりの恥ずかしさに身悶えていると、肩と頭に温かいぬくもりを感じた。


「へ?」


恐る恐る目を開けて左右を見やると、スヴィグルが肩を組み、ヒョードルは頭を優しく撫でてくれていた。


「ばーか!」


スヴィグルは肩に手を回したまま、少しだけ照れくさそうに笑う。


「お前がそう言ってくれるなら、オレにとっちゃ──これ以上嬉しいことはねぇな!」


ヒョードルもケイの頭を二、三度優しく撫でてから、おどけたように笑う。


「儂としては、そんな家族が増えるのは大歓迎じゃぞ。スヴィグルも息子のように思っておるさ」


それを聞いたスヴィグルはますます嬉しそうに、けいの肩をぎゅっと引き寄せる。


「これからもさ。こうやってみんなでいろんなもの食ってさ、こうやって笑っていこうぜ!」


「スヴィグルの言う通りじゃ。この頃は忙しくて祭りにも連れて行ってやれんが、また以前のように一緒に出かけよう」


二人の言葉に、けいの瞳が大きく揺れる。驚きに満ちた表情は、やがてゆっくりと、幸せそうな笑顔に変わるのだった。




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