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第6話:相棒

2025/8/31 大幅改稿+タイトル名変更

「ふむ。あれから月日が経ったが・・・・・・見違えるようじゃな」


出会いから一年。

春に顔を合わせた二人が、今や冬を迎えようとしていた。


ヒョードルの基礎訓練に始まり、手合わせ、そして戦闘訓練区域での実戦。

狂暴化した魔獣を毎日のように倒す日々。

その積み重ねが、スヴィグルを一人前どころか、危険区域の魔獣すら余裕で相手取れるほどに鍛え上げていた。


強さに比例して彼の中に自信も芽生え、最初の頃に見せていた擦れた態度も次第に薄れ、今では本来の明るさを取り戻している。


「今のスヴィグルなら・・・・・・繋とも渡り合えるかもしれんな」


ヒョードルの言葉に、スヴィグルは目を輝かせた。


「よし!! ケイ! 手合わせだ!」


お墨付きをもらった途端、スヴィグルはガッツポーズをする。

そして好戦的な声を、端で洗濯物を干していた繋へ投げる。


はためく真っ白なシーツの隙間から「へ? なになに?」と、聞こえていなかった様子の繋が首を傾げた。


「俺と手合わせしてくれ!」


言葉を改めると、繋はちらりとヒョードルに視線を送る。

ヒョードルはカラカラと笑って頷いた。


「・・・・・・仕方ないなあ」


繋は小さく笑い、手を止めると訓練場へと歩を進める。


「ちなみに、手合わせの内容は?」

「一本勝負で。俺は木刀いくから、お前は杖で来てくれ」

「魔法は?」


繋が珍しくニヤついて問いかけると、スヴィグルは即座に苦い顔をした。


「んなもん、お前に魔法で勝てるわけねーだろ! 拒否だ、拒否!」


「あはは! OK。なら手合わせ、よろしくね。・・・・・・スヴィ」


あだ名で呼びかけると同時に、繋の手元に杖が現れる。

それを体の斜め前に構え、視線を鋭くスヴィグルへと向けた。


(・・・・・・相変わらず切り替えが早いというか、上手いな)


繋の長年の悪癖が、こうして戦闘技法へと昇華されている。

それは皮肉にして、まるで酷い冗談のようだとスヴィグルは思う。


繋の構えは「霞」と呼ばれる構えを取る。杖を体の斜め前に構え相手の動作を観察し、隙を突いて打ち込む技法だ。

目を細め、じっと、スヴィグルの動きを窺っている。


対するスヴィグルは木刀を斧に見立て、体の中心線に構え、切っ先を真っ直ぐに繋へと向けた。昔なら勢い任せに突っ込んでいただろう。

だが今は違う。スヴィグルも冷静に相手の挙動を見極めようとしている。


この一年で確かに成長したのだ。


先に動いたのはスヴィグルだった。

地面を蹴る音と共に、木刀が唸りをあげて振り下ろされる。まるで大斧を思わせる重い一撃。繋はその体格差と腕力差を計算し、まともに受けるのを避け、杖で木刀の側面を弾こうとする。


「かたい・・・・・・!」


杖を握る手に痺れるほどの衝撃。繋は舌打ち混じりに、あえて杖を手から放した。


「おいおい! 武器を手放していいのかよ!」


勝ちを確信したように吠えるスヴィグル。だが次の瞬間、繋の口元に薄い笑みが浮かんだ。


「ふふん。それは、どうかな?」


手を離した杖を、繋はつま先で蹴り上げる。そのまま一直線に、槍のようにスヴィグルへと飛ぶ。


(は・・・・・・?)


脳が処理できない。だが身体だけは勝手に動き、迫る杖の先を弾いていた。反射で防御できた自分に驚く間もなく、砂煙が舞い上がる。


少し離れた場所でヒョードルが腕を組み、嬉しそうに頷く。


(よしよし、考える前に体で防御できるようになったか。スヴィグルもよう成長した・・・・・・そしてあの子も、相変わらず戦闘センスは群を抜いとる)


繋は弾かれた杖を拾い上げると、追い込みはせず再び距離を取った。


(やっぱりお前は凄い。それに、本気で戦ってくれてんのが分かる)


それが分かるからこそ、スヴィグルは無性に嬉しくなり胸を熱くさせる。だからこそ足が自然と前に出る。


木刀と杖が幾度もぶつかり、砂地に衝突音が響く。


躱しては狙い、また躱す


互いに全力で戦えることに、二人はお互いに感謝する。本気でぶつかり合うこの時間が、繋もスヴィグルも、心底楽しいと感じていた。


「はっ!」

「ふんっ!」


衝突の音が乾いた訓練場に響く。砂地に足跡が幾重にも刻まれ、スヴィグルも繋の息も次第に荒くなっていく。


そしてついに決着の瞬間が訪れた。


スヴィグルの木刀が杖を弾き飛ばす。


「取った!」


勝利を確信した笑みが、彼の顔に浮かんだ。だが、その隙を、繋は見逃さなかった。


「ダメだよ、スヴィグル。最後まで気を抜いちゃ」


瞬きの間、一瞬、目の前から繋の姿がいなくなる。


(どこだ・・・!!?)


気配を見つけ視線を下げると、繋が姿勢を低くし、手の平を構えながらスヴィグルの懐に潜り込んでいた。


「なっ・・・・・・!」


次の瞬間、繋の掌底がスヴィグルの脇腹に叩き込まれる。


「がはっ・・・・・・!」


肺から息が強制的に吐き出され、咳き込みながらもスヴィグルは目を見開き、地面に片膝を着いた。


「一本。決着じゃな」とヒョードルが手合わせの終わりを告げる。


繋はすぐに膝を着いているスヴィグルの横に膝を着くと、回復魔法をかけ始めた。淡い橙色の魔力が、打ち合った時に出来た彼の打撲痕を癒す。


「くそ・・・・・・ッ、まさか、じいさんと同じ手を使われると思わなかった・・・・・・!」


スヴィグルは、繋が杖術だけでなく拳でも戦えることに驚愕する。


「攻撃手段は多くあればあるほど良いってヒョードルの教えだからね~」


「そうじゃぞ〜スヴィグル。これもいい勉強になったろう?」


「こ、この似たもの親子め・・・!」


その言葉に繋とヒョードルは顔を合わせ、嬉しそうに笑った。


「にしても二人とも、良い手合わせじゃったな」ヒョードルが声を掛ける。


「腹も減っただろう。紅茶と一緒に何か持ってこよう。何がいい?」


「ありがとう!ヒョードル」と繋は頷いた。


「作り置きしておいたサンドイッチがあるから、良い天気だし3人で外で食べよ」


「おお、それは良いな」とスヴィグルは賛成する。ヒョードルは微笑ましそうに2人を眺めた後「では、持ってくる」と言い、家の中へと向かう。


砂地に残る足跡は、戦いの激しさを物語っていた。ヒョードルが家の中に戻り、訓練場には繋とスヴィグルの二人だけが残った。



繋の回復魔法が終わると、二人の間にふっと静寂が落ちた。芝生の匂いと、打ち合った余熱だけが残り、勝負の余韻が残るも充実感に包まれていた。


「はあ、本当に強いなお前は」


スヴィグルは悔しそうに背伸びをし、芝生の上にごろりと横たわる。それでもその表情には、どこか晴れやかで柔らかな笑みが浮かんでいる。


繋もまた、体育座りでその隣に座り、優しく応える。


「それは、スヴィグルもだよ」


(だって初めてだよ・・・こうやって隣にいようとしてくれた人なんて・・・・・・)


力だけではなく、厳しい訓練にも腐らずついてきてくれた。繋への妬みに溺れることもなく、この場所まで一緒に戦ってきてくれたスヴィグルに、繋は心から感謝していた。


「にしても、普段家事ばっかしてんのに、どこで訓練してんだよ」


スヴィグルの問いに、繋は微笑んだ。「あ~、買い物の行きかえりに、近所の駆除をかねて危険区域の魔獣と魔物を倒してたりとかかな」


スヴィグルは驚きつつも納得したように笑う。


「・・・・・・マジで、じいさんと似てきてんぞ」


そんな軽口を言い合ううちに、ヒョードルが用意したサンドイッチを携えて戻ってきた。


「さてと、お待ちかねのサンドイッチじゃ。紅茶も入れてきたぞ」


「ありがとう、ヒョードル」


三人は笑い合いながら、木陰に腰を落ち着けた。晴れた空の下、サンドイッチを頬張る。その合間にも、軽やかな笑い声と共に、さまざまな話題が飛び交う。


「このパン、柔らかくて美味いな!」

「本当じゃのう。繋よ、さらに料理の腕を上げたんじゃないか?」

「えへへ、ありがとう。いつも二人が美味しそうに食べてくれるおかげだよ」


そんな幸福な時間が流れ、彼らはまるで家族のように穏やかに過ごした。


スヴィグルはふと空を見上げ、「今日の訓練、めちゃくちゃ楽しかったな」と独り言のようにつぶやく。


繋もまた頷きながら笑い、ふと何かを思い出したように目をきょろきょろと動かした。


「ん?どうしたんだよ?」

「そうじゃ、どうした?」

「あ~、えーと、その・・・」


しどろもどろになっている繋の口から、初めての言葉が発せられる。

それは、いつもの繋なら、絶対に言い切れない言葉だった。きっと、スヴィグルの成長に感化されたのか、繋も一歩踏み出したのだ。


「なんか、家族みたい・・・だなって」


一歩踏み出して見るも、途端に恐怖が繋を襲い、直ぐに目を伏せてしまった。


2人がどう反応するかが怖い。言葉にしてしまった事に繋は直ぐに後悔をし始める。


(どうしようどうしようどうしよう・・・!!言ってしまった。興奮して普段なら絶対に言わない言葉を言ってしまった・・・・・・!!)


ごめん。と何時ものように謝ろうとした。その瞬間だった。


肩と頭に温かなぬくもりを感じた。


(・・・・・・え)


目をゆっくりと開けて左右に目を動かすと、スヴィグルが繋の肩を組み、頭にはヒョードルが優しく撫でてくれていた。


二人ともそれについて何も言わず、ただ「サンドイッチ美味いな」とだけ言う。


自分を気遣う二人に、繋は「ありがとう」とつぶやき、嬉しそうにはにかむ。


それを両側の二人もつられて笑い、青空の下、3人の笑い声が木陰に溶けていった。





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