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『ゾンビだらけの世界でただ1人の魔法使い』  作者: mixtape
第1章:インセプション
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第20話:平行

「で、お前はどうやって帰るんだ」


2人は少し休んだ後、折角繋も市内に来たというのもあり、再度モール内へ物資を確保しに戻った。


持ち帰れる人が1人分増えたことにより、ドラッグストアで医療品と医療機器を回収し、更には缶詰め等の保存食も持ち帰れる分持ち帰る事が出来た。


ある程度回収が出来た後、頃合いを見て2人は帰る準備をする。ヒカルは自分の荷物をバイクの後ろにストレッチコードでしっかり固定しながら積載する。


繋の方はお馴染みの魔法のトランクケースを今日は持ってきていなかったため、モール内に粗雑に落ちてあったリュックサックを修復かつ拡張魔法を施したリュックに資材を物資を詰め込んだ物を背負った。


2人はそれぞれの身支度を終え、後は家に帰るだけの状態だったが、ヒカルはそういやと疑問に思い、冒頭の言葉を繋にかけたのだった。


ヒカルは繋が杖に乗って空を飛べる事を知らない為、帰る際の方法を聞く。


乗り物らしきものは無いし、恐らく魔法の類で此方の場所まで来たのだろうけど想像がつかず、ヒカルは繋にバイクの後ろにでも乗るかと誘う。


「あ・・・・・・うん。ありがとう、でも僕は空を飛びながら帰るよ」


繋は謎の間を空けた後、右手に持っていた長杖を見せながら空を飛んで帰ると答えた。


不自然に目を明後日の方向に逸らしながら答える繋にヒカルは首をかしげる。


繋自身、ヒカルからの申し出自体は嬉しく思ってはいた。嬉しい事は嬉しいのだ。だが、断るしかなかった。


内心、決して、バイクが怖いという理由ではなく。


「よし! そろそろ帰ろっか」


話を変えたいのか早く帰ろうと急かすように言う繋を見て、ヒカルはもしやと思い口にした。


「・・・・・・お前、怖いんだろ」


「なんのことかな」


クリティカルにヒカルに心の内を当てられて繋は真顔かつ早口で返答する。余りにも怪しい仕草にヒカルは、ついちょっかいをかけたくなった。


「まあまあ、試しに乗ってみろよ。意外と好きになるかもしれねえぜ」


じりじりと獲物を追いつめるかのように、ヒカルは繋にバイクに乗るよう詰め寄った。


そんな、ヒカルに繋は笑顔を引きつらせながら、距離を徐々に詰め寄ってくるヒカルから後ずさりをして距離を取る。


繋は心の中で、怖い怖い!なんでこんなに引き下がらないのさ!と嫌でも自分をバイクに乗せたがるヒカルに恐怖を感じていた。


2人の歩く足が止まり、2人の間に変な緊張感が走る。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


バっと、初めに動いたのは、繋だった。


長杖に足をかけ、そのまま上空へ飛んでいく。


上空へ逃げていく繋にヒカルは「おい! ずるいぞ!」と不満気に下から叫んだ。下から飛んでくる文句を繋は敢えて無視をする。


そして、チっ!とわざと繋に聞こえるくらい大きな舌打ちをすると「意外と乗ってみりゃバイクの良さが分かるのに」と、不服そうに言葉を漏らしながらしぶしぶとバイクに跨った。


そんな、ヒカルの様子を見て「こ、このバイク狂め・・・」と繋は思わず無表情になってしまうのだった。


帰り道。


夕が落ちかける海沿いの道路に2人の影が写る。


静かな夏の海が見える道路をヒカルが走らせるバイクの音が響く。


その直ぐ上空では、バイクの走るスピードにぴったりと並走しながら繋が空を飛んでいた。


「なあ! やっぱりバイクの方が良いと思うんだが!!」


「くどいんだけど?!!」


ヒカルは空を飛ぶ繋を見て、バイクみたいなものじゃやないかと思い、なぜ怖がる必要があるんだと、バイクとさして変わらないじゃないかと繋に再度勧める。


繋はそれに、バイクに乗った事がないから怖いということ、こうやって普通に空を飛べるのも最初は怖かったのだと、心の準備が必要なのだと答えた。


しかし、ヒカルは譲らない。


物は試しだと、大して違いはないと言うものだから、繋は再度しつこいです!と言葉を返す。


「・・・・・・」


(くっ・・・!)


急に黙り込んだヒカルに、繋は急に罪悪感を感じる。


今でこそ、こうやって空を飛ぶことは慣れたのだが、怖いものは怖いのだ。


確かに、ヒカルの言う通りバイクと似ている所があるのは理解している。


同じ姿勢をずっとキープしないといけないこと、そして体全体を使って操作するところ。


そして、車と違って身を守る外装が一切何もない事。


せめて心の準備をさせてくれたら乗っても良いとは思うのだ。


それにだ。


何時もは年長者として余り自分を出さないヒカルが、こうやって友人かのように趣味を勧めてくれるのだ。


それを、嬉しく思わないわけがない。


それに、最初こそ、見定める様に繋と距離を置いていた彼がこうやって心を開いてくれている。


繋は色々考えた結果。


しょうがないあと、困ったように笑い、また折れた。


「今度・・・・・・」


「なんて?」


風の音で聞こえないとヒカルは再度聞き返す。


「今度! 全部終わって落ち着いたら乗っても良い!!」


「よし! 言ったな!」


約束だぜ!とヒカルは口角を上げ嬉しそうに笑った。


内心、此方が引けば繋は折れてくれるだろうと思っていた事は内緒だが、ヒカルは浮き立つ思いでアクセルを強く捻りスピードを上げた。


「えっ、あ! ちょっと待ってよ!」


急にスピードを上げたヒカルに繋は驚き、引き離されないように繋もスピードを上げ、ヒカルの後ろ姿を追った。





「二人ともお帰りなさい」


菊香の出迎えに、ヒカルは「おう」と答え、繋は「ただいま」と答えた。


「おじさん怪我とかしてない? 大丈夫だった?」


「そこまで酷いのは無かったよね」


ね。ヒカルさんと声をかけられたヒカルは戸惑いつつ、ああと答えた。まさか、菊香の心配にヒカルはどう答えようかと悩んでいたら、思わないところから助け舟が出てヒカルは驚く。


思わず繋の方を見ると、繋はヒカルに目配せをした。


恐らく菊香に心配をかけさせない為に言ってくれているのだろうと気付き、ヒカルは繋に感謝した。


菊香はヒカルの全身を見て、確かに大きな傷等が無いことを確認して、そして安堵の息を吐いたと思ったら、まさかの発言に2人は固まる。


「渡さんの事だから、きっと酷い怪我を負っても治してくれてたんでしょ?」


だからって無理をしないでよねとヒカルに注意する菊香にヒカルは口を開けてしまう。


菊香は、その場で固まってしまった繋と口を開けて呆けるヒカルに気付くと、肩をすくめながら、やれやれと言わんばかりに笑いながら説明する。


「これだけ、長く一緒に居れば渡さんの考える事もある程度分かるし、おじさんに至っては何年一緒に居ると思ってるのよ」


そう言った菊香に、繋とヒカルは目を合わせ、菊香に対し素直に謝ると同時に降参の意味合いも含めて両手を上げた。


3人は居間に置いてある丸テーブルを囲むように座る。そして、本日あった事をヒカルは菊香にも説明をした。


「渡さんと、おじさんを迎えに行くべきか話しをしていたんだけど、渡さんが行ってくれて本当によかった・・・・・・」


ヒカルを見送り、暫く経った後、菊香は繋に念のため迎えに行った方が良いかもしれないと繋と話しをしていた。


虫の知らせ等ではなく、単に無理をしていないかと心配だったという理由で迎えに行って欲しいと繋に頼んだのだが、まさかそれが功を奏したとは思わなかった。


進化をしていくゾンビに、これからどうやって立ち向かわなければいけないのかと考えると3人は暗い雰囲気になる。


「難民キャンプに行く途中に遭遇しても、なるべく逃げる方向が良いかもね」


繋は2人にそう話すと、ヒカルから「お前の魔法でもキツイのか」と聞かれる。期待が含まれている事を感じ、繋は正直な事を話した。


「う~ん、どうだろう・・・・・・正直class3と実際に戦って見ない事には分からないけど」


「けど?」


「ある程度の敵なら倒せると思う」


そう断言する繋に、ヒカルは「おお、言うじゃねえか」と揶揄うように笑われる。


カッコつけるつもりで言ったのでは無かったが、そう捉えられてしまったのか、ぽっと頬を染めた。


頬を掻きながら少し赤くなった顔を隠すように下に俯いたあと、「だけどね」と繋は話しを続けた。


でも、複数体来たら、流石に対処しきれないかもと、1人なら兎も角、2人を完全に守りながら戦うとなると厳しいかもしれないと不安を口にする。


そんな繋の言葉にヒカルは繋の頭を手刀を振り下ろした。


「いだっ!」


小気味良い音が鳴り、チョップを受けた頭を両手で擦る。


「誰がお前ひとりに任せるつってんだよ」


ため息をつくように言われたヒカルの言葉に繋は「へ?」と間の抜けた声を出した。


ヒカルの言葉に菊香も続く。


「そうですよ! 私もまだまだですけど、何かあっても3人で乗り越えましょ!」


その為に、沢山の訓練をしてきたのだから一人で何でも背負い込まないで下さいと言う菊香。


2人は今まで繋に任せきりだった分、自分達にも出来る事が増え、頼って欲しいという気持ちで繋へ言葉をかけた。


「うん・・・うん、そうだね」


2人とも有難うと微笑みながら感謝の言葉を返す。


繋は気持ちを切り替えるために、繋はそろそろ夜ご飯でも食べようかと話を切り上げる。


菊香が「今日は自分が夜ご飯を用意したんだよ」とにこやかに語り、ヒカルと繋は楽しみだと返した。


繋は菊香と共に夜ご飯の支度をしに、台所へ向かう。ヒカルも手伝おうとしてくれたが、流石にクタクタになっているヒカルを手伝わせるわけにはいかなく、繋は居間に居座らせた。


(・・・・・・もし、class3と遭遇する事があったら2人には内緒で戦ってみよう)


先ほど2人に向けた言動とは裏腹に、繋は自分の不甲斐なさに喝を入れていた。


繋は異世界に居た頃を思い出せと自身に語りかける。


それに、ヒカルに言ったのだ。


複数体出ようが、予想外の敵が出ようが、守るんだ。


例えオルタナティブマジック(概念抽出魔法)が今は使えなくても、今ある全てを使ってでも。


菊香とヒカルの思いは残念ながら繋には届いておらず、お互いを思う気持ちは平行線をたどったまま、今日も一日が終わる。




もし良かったら、ブックマークかリアクションスタンプでも押して貰えると更にやる気が出ます・・・!

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