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『ゾンビだらけの世界でただ1人の魔法使い』  作者: mixtape
第1章:インセプション
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第15話:訓練


それは突然の出来事だった。


今日もまた、繋は鼻歌を口ずさみながら朝食を作っていると、後ろから突然男の声がかかった。


この時間帯はヒカルも菊香もまだ寝ているはずだったため、繋は完全に油断していたのか、ビクッと肩を揺らし、変な声を出して驚いた。


「あ、お、おはよう」


「おはようさん」


声の主の方へ振り向くと、真剣な表情を浮かべたヒカルが立っていた。


繋は何かを感じ取り、コンロの火を止めた。


「なあ、俺に戦い方を教えてもらえないか?」


「・・・・・・・・・え?」


というわけで、繋は朝食作りを終えた後、ヒカルと海辺の砂浜で近接戦闘の訓練をしていた。


(まさか、戦闘訓練を頼まれるなんて、思ってもみなかった――)


本当は銃などの遠距離武器があれば一番良いのだが、勿論そんな物はない。現状ゾンビと遭遇した際の戦闘方法として、近接戦しか選択肢がない。


だからといって、訓練をすると言っても、相手はゾンビなのだ。


あまり対人専用の戦闘訓練をしたところで役に立たないかもしれない。


それに、繋の戦闘経験はすべて異世界の魔物に関するものなのだ。


そのため、繋はヒカルに役不足だと伝えたが、何もしないよりは良いとヒカルは教えを請うた。


そこまで言われたら繋も頷くしかなかった。


それに、繋も思い返せば自分の異世界での今までの経験を考えると何もしないよりはマシかと思いヒカルに肩を貸した。


手合わせをするにあたり、繋は試しに木製のサバイバルナイフをヒカルに渡して訓練を始めた。そして、いざヒカルと手合わせをすると、分かったことがあった。




(いやいや、訓練必要ないくらい動けているんだけど?!)


最初は繋もヒカルとの手合わせに手加減をしていたが、途中から手加減する必要もないくらいヒカルの動きには無駄が無く、ガッシリとした体格に見合った重たい一撃を繰り出してくる。


(・・・・・・っ! 教えることなんて無いぐらい強いじゃないか!)


繋は身体サイズの長さに戻した杖を使い、杖術の要領でヒカルの攻撃を受け流すが、受け流すだけで精一杯だった。


徐々にヒカルの猛攻に押されていき、ヒカルの重みのある一撃が繋に見舞われそうになる。


その瞬間、繋はヒカルの踏み込みに合わせ、杖を水平に構えて受け止めた。


「っ、重い・・・・・・!」


掌に伝わる衝撃に思わず後退しながらも、繋は冷静にヒカルの次の動きを読む。肩の捻り、拳にこもる重心。


(来る!)


杖を半回転させ、ヒカルの腕を弾き飛ばす。そのまま間合いを詰め、喉元に杖先を突きつけた。


お互いじっと見合ったまま時間が止まったかのように制止する。


そしてお互い同じタイミングで息を吐いた。


繋は汗を手で拭いながら一息をつくと、砂浜の上に力が抜けたようにどさっと座ったあと両足を投げ出した。


ヒカルは腰に手を当ててさざ波の近くをふらふらと歩いて立ち止まると一息ついていた。


お互い少し落ち着いた後、繋はヒカルに質問をする。どう考えても彼の身のこなしはただの一般人だとは思えなかった。むしろ元軍人だったりするのではないかと思い問いかける。


「・・・・・・ねえ、ヒカルさん、何処か入ってたりしてた?」


ヒカルはというと訓練で火照った身体を少しでも冷やすためなのか、波打ち際に立つとさざ波に裸足の足を預けていた。


繋の質問に少し間を開けて、ヒカルは「いいや何処にも」と答える。


ヒカルは実は自分でも驚いていた。気絶してからというもの、身体が異様に軽く先ほどの訓練でもどこに攻撃をすれば良いのか、どのように動けば良いのか身体が勝手に理想の動きをしてくれていたのだ。


「じゃあ、何か武道とか習ってたりとかは?」


「それも無い・・・・・・な」


(・・・・・・? でも、あれだけの動きで何もしてなかったってのは有り得ないと思うけど・・・・・・)


自分の事なのに何処かしっくりこない回答をするヒカルに繋は思う所があったが、何かしら生まれついた才能なのかもしれないと思い追従するのを止めた。


取り合えず、今の彼に繋から教えられる事はあまり無いと思い、その事をヒカルに話す。


「ほかに何か出来る事はないか?」


あまり府に落ちていないヒカルにどうしてそこまでして強くなりたいのかヒカルに聞くと、ヒカルは少し考える素振りをした後、今のままじゃ自分自身に何かあった時、菊香を助けられないと話す。


昨日や一昨日のようにゾンビに囲まれたら自分の身を守るだけで菊香の身まで守ることが出来なかったと、ヒカルはいざという時に何も出来ない事を自分を厭わしく思った。


それに、とヒカルは続ける。


「お前ばかりに頼ってられねぇよ」


繋は目をぱちくりとさせる。


ヒカルはさざ波から離れ、繋の横に片膝を立てながら座ると、お前が居ると俺がダメになりそうで困ると不満を漏らした。ただそれは、攻撃的な言い方ではなく困ったように、自分自身への不満を漏らしたような言い方だった。


「寝る場所やら飯やら、何でもかんでも世話になりっぱなしで、おまけに戦闘までこなせるなんて、お前一人だけで良いってなってしまいそうになるんだよ」


だから、せめて、俺は戦えるようにならないといけないと視線を海の方向に向けながらヒカルはそう語る。


繋はそれを黙って聞く。彼の真剣な言葉に対して繋は返す言葉が見つからなかった。


自分ばかりに頼ってられないと言われた事で繋は嬉しいと思う半面、そのまま頼って貰っても良いのにと矛盾する感情を感じていた。


ヒカルの言葉に棘が刺さったかのような小さな痛みを感じ、繋は複雑な心境になる。


(だって、僕は2人の為にここに存在するんだから)


「でも、まあ、今回の戦闘で分かった事がある」


雰囲気が変わり、少し揶揄うような喋り方に変わり、繋は「うん?」とヒカルの方を向いた。


「お前、魔法以外の戦闘はそんなに強くないって事が分かっただけでも俺的には収穫だわ」


「うっ!」


繋は痛い所をつかれ情けない気持ちになる。そんな繋にヒカルは繋の背中を強く叩いた。


「いだっ!」


「丁度いいんだよ。これで」


だって、この方がフェアだろと言うヒカル。


フェアという言葉に繋は目を丸くする。まるで、どこかの誰かと似たような言葉を言うものだから。


な!と再度背中を叩かれ二っと笑うヒカルに繋も釣られて笑みを零した。





「なあ、銃とかなんか武器になるもん持ってたりしねえか?」


家へ戻る帰り道、ヒカルは繋に尋ねる。


繋はふむと顎に手を当てる。ヒカルに尋ねられた事で、確かトランクケースの中に試作段階の魔法道具が幾つかあった事を思い出す。


「・・・・・・あるかも」


「お!」


「でも流石に銃は無いけど、何かヒカルさん専用の武器でも見繕おっか」


繋はヒカルに提案をする。ヒカルは自分自身専用と言われ、どういうことだと聞く。


異世界で仲間達の為に作った試作段階の武器があるのだと説明し、その中からヒカル専用の武器を見つけようと話した。


ヒカルの体格や先ほどの動き方を考えると、ナイフを使った戦闘より打撃寄りの戦闘方法にした方がいいと繋は考えた。


(見た限り、近接に関して頭ひとつ抜けている。肉弾戦に特化した物・・・・・・)


確か魔道具の中に、ヒョードル用に作って余ったナックルダスターがあったと繋は思い出す。


安全面を考えたら飛び道具が一番だとは思うが、馴れない武器を使ったとして使い慣れるまでの事を考えると、ヒカルの今の要望には答えられないと思い、なら、最善策としては打撃攻撃に全振りしたほうが良いと繋は考えた。


家に帰ったらヒカルに一度着けて貰い、微調整をしてみようかと提案をした。


戦闘経験が豊富なお前が言うならそうするとヒカルは了承する。


「じゃあ、お腹も空いてきたし、朝ごはんでも食べよっか」


2人が帰り着き玄関を開ける。すると「おかえりなさい〜」と明るい声が聞こえた。

朝から2人ともお疲れ様と菊香は朝食を乗せたお盆を持った状態で玄関ホールまで出迎えてくれた。


「あ、あれ、なんで分かったの?」


「朝起きて、二階の窓を開けたら2人が訓練?をしているのを見まして」


ヒカルが菊香に起きていたならお前も来たら良かったのにと言う。


「うーん、なんか邪魔をしちゃいけないかなって思って」


何時もと何処か違う菊香に、ヒカルは繋と顔を見合わせると互いに首をかしげた。


3人で朝食を食べた後、繋はトランクケースからハーフフィンガータイプのナックルグローブを取り出す。


「じゃーん!ナックルグローブ!」


「お、おう・・・・・・」


繋の良くわからないテンションにヒカルは少し引いた。


繋が渡した物はステンレス鋼の保護シェルが手の甲とナックルに取り付けられている黒いグローブだった。それを、繋は「はい」とヒカルに手渡す。


ヒカルはグローブを装着すると、装着感を確かめるためにぐっぐっと拳を握る。


「ちなみに、ただのグローブじゃないんだよ」


普段使わない時は念じると両手にリストバンドに変形して何時でも身に着けられるし、また逆もしかりで使いたい時に念じれば直ぐにグローブに変形すると繋は説明した。


「そして何と、その人の魔術回路によってグローブに属性付与させる事もできます」


と言っても、前にも言った通り先天性で魔術回路を持ってる人なんて地球には居ないから、ヒカルさんには唯の頑丈で攻撃力高めのグローブになっちゃうんだけどねと笑いながら繋が話していると、バチバチッと弾ける音が耳に入り、繋は「え・・・」と言葉を漏らす。


繋の目に映ったのは、ヒカルの握られた拳からバチバチとオレンジ色に発光する電気が纏っていた。


「まって! なんで!? ヒカルさんには魔術回路なんて無いのに!」


繋は自分の手にも電気を纏い、繋の右手を強く掴む。


自身の魔力をヒカルに流そうとするが、流した魔力は途中で塞き止められる。


ヒカルは急に自分の手を掴んだ事に驚くが、余りにも真剣な繋の様子にヒカルは黙りこむ。


「・・・・・・なんで」


(ありえない・・・だって、この魔道具にはエンチャント(属性付与)すら施してないのに)


考え込む繋に上から、ヒカルが声をかける。


「まあ、良いじゃねぇか」


「むしろこれで、俺も役に立てそうだしよ」


あっけらかんとした様子でヒカルは手をひらひらと振る。どんな要因で俺が電気を身に纏えているのか分かんねえが、結果オーライだと繋に言う。


繋は頭に手を置いて一歩後ろに下がる。


気がかりを感じつつも要因が分からない為、これ以上調べる事も出来ない。


もしかすると、自分が知らないだけで、魔術に代わる力があるのかもしれないと、そう思う事にして繋は一旦、今回の事については熟考する事を止める。


取り合えず、ヒカルの言う通り結果オーライなのだ。使える力は使えた方が良いに決まっている。


ヒカルの異能については追々調べる事にしようと後回しにする。


「電気を発生させる? 異能も使えるみたいだし、後でグローブがその力に馴染んでくれるか調整とかしてみよっか」


ヒカルにそう言うと、頼んだと返される。そして、ヒカルからこの力で何か出来ないか一緒に考えてくれと言われ、繋はもちろんと答えた。


(なんかスノトラと一緒に自分専用の魔法を作る為に試行錯誤した頃を思い出すなあ)


繋は過去の思い出を思い出し、懐かしさで頬が緩む。


(・・・・・・そういえば)


繋はそういえばと気になった。菊香が静かな事に。


普段なら珍しいものを目の当たりにすると、ほぼ必ずはしゃぐ菊香だが、今回の彼女は静かに何か考えるように2人の様子を見ていたのだった。





もし良かったら、ブックマークかリアクションスタンプでも押して貰えると更にやる気が出ます・・・!

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