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『ゾンビだらけの世界でただ1人の魔法使い』  作者: mixtape
第1章:インセプション
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第11話:信憑



「よし。これで大丈夫だと思う」


「すごい・・・・・・本当に傷が治ってる!」


ゾンビの群れを魔法で海へ押し流した後、繋は男性の治療を先に済まし、それから少女の手当てに取り掛かった。繋は彼女の手足に残る切り傷に、回復魔法をかけていく。

女の子の治療をしている際に、傷があるところを繋は見せてもらっていたが、繋はふとアキレス腱のあたりに小さな噛み跡のような痕を見つけた。心配した繋は彼女に尋ねる。


「・・・・・・ゾンビに、噛まれたことがあるんです。でも・・・・・・感染しなかったんです」


意外な答えに繋は目を大きく開ける。

繋は彼女に抗体を持っているのかと聞いてみるが、少女は小さく首を振った。


彼女が言うには自分だけでは無いらしい。


「私だけじゃないんです。ゾンビに噛まれても、感染しない人がいるんです」


繋はてっきりゾンビに噛まれた人間全員同じようにゾンビに感染すると思っていた。

だが、目の前の少女はゾンビになる人とならない人が居ると言う。


繋はさらに詳しく聞いた。


内容を纏めるとこうだ。


ゾンビに噛まれた後、必ず高熱を出す。


高熱を出した後だが、どうなるのかは3通りに分かれる。


ひとつは、高熱に耐えきれず死亡するケース。

ふたつめは、ゾンビへと変異するケース。

そして最後が、高熱を乗り越えて人間のまま回復するケース。


熱を克服できた人間がどの割合まで居るのか分からないが、ただそれでも、生存者が少ない理由は感染よりも、ゾンビそのものの攻撃力が人間にとって致命的であるからだろう、と彼女は言った。


男性と女の子の治療も無事に終わり、息ついたところで、繋は男性の血だらけの包帯とガーゼを回収しながら女の子と自己紹介を交わした。


女性の名前は赤井あかい 菊香きっか、高校3年生。

そして彼女と行動を共にしていた男性は豪打 ヒカル(ごうだ ひかる)というらしい。


繋は、二人を安全な場所で休ませるべく、繋は来る途中に見かけた道の駅へ向かうことを提案した。


繋は軽量化の魔法を使ってヒカルを背負い、歩き出す。

その後ろからは、繋の魔法のトランクケースを両手で抱える菊香の姿があった。





「あの・・・・・・渡さんって何者なんですか?」


菊香はヒカルをおぶる繋を見ながら恐る恐るずっと聞きたかったことを質問した。


繋はとうとうその質問が来たかと思い、そして彼女に何て答えようかと悩んだ。

説明のしようがない。自分は魔法使いだ――そんなことを言えば、普通は信じてもらえない。


だからと言って、他に良い代わりとなる説明があるわけでもない為、繋は内心ハラハラしながら自分は魔法使いだと答えた。


「僕・・・・・・魔法使いなんだよね・・・・・・」


「・・・・・・やっぱり・・・そうですよね」


「えっ!?」


「えっ?」


「まってまって! 自分言うのもなんだけど嘘だと思わないのかい?」


繋が驚いて聞き返すと、菊香は少し照れたように笑って答えた。


「うーん、正直・・・・・・今も頭が混乱してます。でも、目の前で見たあれが夢でも幻でもないなら、そういう説明じゃないと納得できないというか・・・・・・」


彼女の声は戸惑いと好奇心が入り混じったような不思議な響きを持っていた。


「それに、こんな世界ですし、今更魔法使いと名乗る人が現れても不思議じゃないというか可笑しくないかも」


繋はその言葉に思わず笑った。


「ふふ。クールだね。まあ、確かに今さら何が起きても不思議じゃないよね、この世界」


そんな言葉を交わしながら2人は笑い合う。


「・・・・・・でも、魔法ってすごいですね。何でもできちゃうんですね」


後ろから聞こえる声は何処か好奇心を含んだ声で、その声に繋は振り返る。


「魔法・・・・・・興味あるの?」


繋はそう尋ねると彼女はコクンと頷いた。


「魔法を使ってみたい?」


「えっ?! 出来るんですか?」


彼女は繋の言葉に反応する。クールな子だと思ってただけに、目を輝かせながら魔法に興味を示した菊香に繋はこういう所はまだ子供だと安心をしながらも、彼女の問いに繋は申し訳なさそうに首を横に振った。


魔法を使うには、生まれつき魔力回路が備わっていなければならない。

魔力回路を持たない人間が魔法を使うには、無理やり体内に魔力回路を身体に作るしかない。


───ただし、それには壮絶な痛みを伴う。


そして無事回路が開いてくれれば良いが、運が悪ければ死んでしまう。


よっぽど、魔法を使って何かを成し遂げたい。


魔法を使ってまで『何か』叶えたい。


そんな狂ったような熱が無ければ死ぬ可能性があるのにも関わらず、後天的に魔力回路を作ってまで魔法を使いたいなんて、異世界の人達から見たら有り得ない行動だ。


「そこまでして魔法を使おうとする人間なんて、向こうの世界でも稀だったよ。最悪死ぬ可能性だってあるからね」


繋がそう説明すると、菊香は少し肩を落とした。


「そっかあ・・・・・・ちょっと残念です」


「まあ、魔法があっても、何でも出来る訳じゃないからね」


「そうなんですか?」


「意外とね。まあ・・・・・・君たちの傷を治したり、さっきまで居たゾンビの大群を何とかしたりする事は出来るけど、本当に・・・・・・」


繋は一瞬噤む。

そして困ったような笑顔で言葉を続ける。


「本当に・・・・・・一番大事で、ここぞという時には役に立たないんだよね」





「渡さんって元々こっちの世界の人だったんですね」


少しづつ。少しづつではあるが、ぽつりぽつりと警戒しながら会話をしていた菊香も繋の雰囲気がそうさせるのか、最初の警戒心程ではないが、お互い気楽に会話をするぐらいの距離になっていた。


元々好奇心旺盛な性格の菊香は繋の魔法を見たことで他にどんな魔法があるのか、何処から来たのか、等々繋に様々な質問をしていた。


繋は、異世界に迷い込んだ経緯や、その世界でどんな暮らしをしてきたかを話した。


その語り口はどこか淡々としていたが、菊香にはまるで物語を聞いているように感じられた。


菊香は繋の話を聞いてあれ?と疑問に思い繋に尋ねる。


「・・・・・・渡さんって今お幾つなんですか?」


「・・・・・・実は、というか本当はと言うか、僕30歳なんだよね・・・・・・」


嘘!?と驚く声が隣から聞こえる。菊香はそれも魔法で若返っているのかと聞いた。


「それがね分からないんだよね・・・・・・。地球に戻ってきて気づいたときにはこの身体になってたから・・・・・・まあ、でも魔法による原因なんだろうとは思うけどね」


「な、なるほど・・・・・・」


それを聞いて、菊香は「この人、自分の身体に異変が起きてるのに、こんなに呑気でいいの?」と少し心配になった。


けれど、繋と過ごすうちに、彼女の中にあった今までの大人への不信感は、徐々に薄れていった。


(この人、多分というか、いや、絶対に良い人なんだろうなあ・・・・・・)


見ず知らずの自分達にここまで手を差し伸べてくれる人は今まで居なかった。

ヒカルとの旅を思い出しながら、菊香はそう思う。


(この人の旅の目的はまだ分からないけど、出来るなら仲間になってほしいな・・・・・・)


(もし、この人が旅の仲間になってくれたら、どれだけ心強いだろう)


もちろん、魔法が使えるという繋に対して打算的な気持ちもあった。

でもそれだけじゃない。


魔法の便利さ以上に――

少しの時間ではあるが、繋の言葉や、態度や、ふとした瞬間の気遣いが、彼の纏う雰囲気が、過酷な旅で荒んでしまった自分の心を少しずつほぐしてくれているのだ。


(向こうの世界でも過酷な旅をしてきたって言うのに、こんなに穏やかにいれる人っているんだ・・・・・・)


(おじさん次第にはなるし、もし許してくれるなら・・・・・・渡さんに絶対迷惑はかかるけど、一緒に旅をしてくれませんかって、お願いしてみよう)


繋と一緒に歩く道は、きっと危険で、大変で――

それでも、どこか楽しくて、心が温かくなる、そんな旅が出来るんじゃないかと菊香はそう思わずにはいられないのだ。





繋はこれからの事を考えていた。

ヒカルが目を覚ました後、彼女たちを見送るべきなのか。


それとも、一緒に行動するべきか。


繋の中である程度答えが出ており、両親の件については後にしてでも、彼女達をこのまま放っておく事は出来なかった。


(・・・・・・ひとまず、今日は休もう。考えるのは明日でいいかな)


(正直、そろそろ、自分の身体も限界かも・・・・・・)


ギラつく真夏の太陽が容赦なく照りつける中、大量の汗をかきながら歩き続けた繋たちは、ようやく人気のなくなった道の駅にたどり着いた。


「やっと着いた──!」


「渡さん、ここまでお疲れ様でした」


中へと入り、繋は少し開けたスペースを見つけると、ヒカルを休めるために、繋は菊香にトランクケースから寝袋を取り出して貰うようお願いする。


繋に言われた通り菊香はトランクケースを開くと中には何も入っておらず、首を傾げた。


「渡さん、中・・・・・・何も入ってないみたい」


「あっ、ごめん、一回ケースを閉じて、”寝袋出てこーい”って心の中で念じてから、もう一回開けてみて」


「えっ、なにそれ楽しそう!」


菊香は繋に言われた事を、少しわくわくしながら試した。


(こういうの。すっごくワクワクしちゃうなあ)


(えーっと。・・・・・・寝袋、出てこーい!)


菊香はそう念じた後、再びトランクケースを開ける。すると、先ほどは何も入ってなかったケースの中に一人分の寝袋がきちんと収まっていた。


「出てきた・・・!」と目を丸くしながらも、菊香は寝袋を取り出し、それをマット代わりに広げて、繋と一緒にヒカルをそっとそこへ横たえた。


仕事を終えた気持ちになって「ふぅ」と繋はひと息つく。けれど、やることはまだまだあるのだ。もうひと頑張りだ。と繋はもう一息だと意気込む。


この建物自体に結界を張るために、繋は近くに転がっていたちょうど良い大きさの瓦礫に魔法文字を刻み、菊香と一緒に建物をぐるりと囲むように配置していく。


すべてを配置し終えると、繋は玄関口に立ち、杖の先を地面にコツンと打ちつけると、ぱあっと、淡く虹色の膜が建物全体を覆っていく。


「わ、渡さん今の、なに?」


「結界だよ。今の僕じゃ一日しかもたないけど、これでゾンビも人間も中には入ってこられないんだ」


空は赤く染まり、ゆっくりと夜が近づいてきた。繋はランプを灯し、魔法で三人分の簡易テントを張る。


菊香はヒカルの容体を見る為に傍にずっと寄り添っていた。繋は、その様子を少し離れた場所にあったテーブル席に座り、菊香の為に夜ごはんを準備しながら見ていた。


(傷は治したとはいえ・・・・・・心配だよね)


(菊香ちゃんも、相当疲れているだろうし休ませなきゃ・・・・・・)


そのとき、突如として睡魔と身体の痙攣が繋を襲った。

ペンを持っていた手がカタカタと震え、意識が遠のいていく。


(・・・・・・魔力の枯渇がきた・・・・・・)


視界が歪み、意識が揺れる。


(やばいな・・・・・・僕も、限界・・・かも──────)


繋はテーブルの上で静かに突っ伏した。


テーブルの上に置いたサンドイッチと飲み物。それに、菊香への小さなメモ。


それらを、閉じかかる瞼の隙間から確認をした後、目を閉じ、そのまま最後の意識を手放したのだった。




もし良かったら、ブックマークかリアクションスタンプでも押して貰えると更にやる気が出ます・・・!

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