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『ゾンビだらけの世界でただ1人の魔法使い』  作者: mixtape
第4章:■■■■■■■■
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第三話:リベンジ

「前衛部隊、構え!!」


襲い来るゾンビと化した野犬の群れ。不気味な唸り声と共にやってくるClass2の大群へと、機関銃とライフルが絶え間なく火を吹く。


火薬の匂いと無数の薬莢やっきょうが地面に、流れるように降り注いでいく。


そして別の場所では、Class1同士が共食いを始めていた。

──共食いをするということは進化をするということ。ゾンビ同士の共食いを止めるため、煌夜と皐月が必死で戦うも、すでに繭化が始まってしまっていた。


絶望を孕んだ肉の塊のような繭がドクンドクンと胎動する。


さらに、新たな存在を守るかのように――まるで子供の誕生を守るかのように、1体のClass3が二人の前に立ちはだかる。


class3は皐月の刀と煌夜のサバイバルナイフを両手で受け止め、そのまま握っては2人の動きを止めた。


「くそ……ッ、間に合わない!!」


「こんままじゃ全滅たい!」


煌夜は脳裏に繋の姿を思い描く。先の戦いで自分たちを守って重傷を負った友人が、今は病室で深い眠りについているはずの繋の存在を。


(分かっている……!! 分かっているが……)


こちらの切り札に一縷の望みを託してしまう。


繋が目を覚ましてこの場に駆けつけてくれる可能性は限りなく低い。

そんな奇跡はそうそう起こり得ない。

でも、煌夜こうやが願わずにいられなかった。この状況を唯一覆す事が出来る存在がこの場に駆けつけて来てくれる事を。


(くそったれ……)


胸の中で悪態をつく。姉の死で異能を手に入れても、満足に扱う事も出来ない。class3ですら倒せない。

果てには重症を負っている友人に助けを望んでしまっている自分が情けなくてたまらなかった。


不甲斐ない自分への叱咤も、悔しさもあるが、今は目の前の状況を打開すべく、煌夜は強く唇を噛んだ。


「……生まれるばい」


皐月の顔が、いつもの飄々とした表情が絶望へと塗り替わる。


肉壁のような卵が割れ、割れた隙間から一瞬、手が見えたが、ソレはすぐに上空へと飛び雲の中へと隠れた。


「なにをしてくるんだ……ッ!!」


銃を構えた軍人が空を見上げ、震える声で叫ぶ。それは誰しも最悪の状況だと認める瞬間だった。兵士や煌夜こうやたちの背筋がじわりと冷たく染まっていく。


空は曇天。灰色の雲を裂くように、それは現れる。


鋼の白翼二対。肌も、これまでのグロテスクなゾンビとは違う、真っ白で艶やかな陶器のようだった。おぞましさは一切ないが、生理的嫌悪を感じさせるその顔には、目も鼻も口もない。ただ滑らかな曲面だけがそこにある。


まるで天使のような美しさと、悪夢のような無機質さが、この世ならざる存在を主張している。


感情も意志も読み取れない、空虚な顔。


その人形は上空で静止し、円環状の熱線を展開する。


幾重にも重なる太陽の光を吸収した光の輪が唸りを上げ、次の瞬間、無数の光線が雨のように降り注ぐ。

無慈悲な光が兵士達が用意した物見台、砲台、戦車をすべて一瞬にして焼き払ってしまう。


誰もが「もう終わりだ」と、命の終わりを本能で感じる。絶体絶命な現実を前に、足の震えを止められない者さえいた。


立ちふさがっていたClass3をどうにか倒し、満身創痍で息を荒げる二人。 もう指先に力が残っているかさえ分からない。


呼吸を整える暇もなく、息をつく間もない。 それでも、煌夜こうやは勝ち目はなくとも出来るために心を折らずに立ち上がるしかなかった。


「せめてお前たちは逃げろ!!」


背後で銃を構えている部下たちに向かって大声で叫ぶと、煌夜は黒炎をドーム上に展開する。上手く調整できているわけでもない、ゆらゆらと陽炎のような不格好な防御壁だった。


(これで凌げるかは怪しいが、ないよりマシだろ!)


今できることを、全部やるしかないと己に言い聞かせて、未だに使いこなせてない異能の炎をせめて防御にまわし、次に降り注ぐであろう光の雨を遮る大きな傘を兵士の為に展開した。


「あんたも逃げろ!」


煌夜は隣に立つ皐月にも怒鳴るが、彼はにへらと笑いながら刀を構える。


「いやいや、他ん隊員ば逃がすにはもう一人、殿しんがりが必要ばい」


そう言う皐月の声は、冗談めいた軽さとは裏腹に、決意のこもった本気の声だった。


一触即発の空気。ひりひりと空気が焼き付く。


Class4の熱線が発射されるまでの時間が、永遠にも感じられるほど長い。 一秒ごとが、心臓の鼓動を何度も速くさせていく。


「───お待たせ」


柔らかく穏やかな声が、戦場の中央に響いた。


その声は戦場なのにも関わらず場違いなほど優しく、力強く、戦場の空気を一変させる。

その声の主にみんなが無意識に視線を向けてしまう。


その声に、主に、青年に。周囲の視線が集まる。戦場の主役が変わる気配がした。


彼の存在を知る者は思わず敬礼する者もおり、拳を握って歓喜に震える者もいた。


その存在が、希望としてみんなの胸に灯火のようにともる。


多くの兵士たちが一人の青年のために道をあけ、その前へと歩み出る。


煌夜はその姿を目にした瞬間、安堵と喜びが入り混じった声でその名を叫んだ。


「繋……ッ!」


「やあ、お待たせ」


繋は軽く手を振って煌夜に微笑みかける。そしてふっと上空に視線を向ける。 その落ち着きは、嵐の只中に咲く花のようだった。


凪いだ海のような静けさを湛えながら、言葉を紡ぐ。


概念抽出魔法オルタナティブマジック起動」


空気が震える。繋のまわりにオレンジ色、そして赤色の花びらが吹き荒れる。


繋からあふれ出す魔力が、焼け焦げた戦場を温かい色で染め上げていき、それはまるで世界そのものが、鮮やかに塗り替えられていくかのようだった。


「繋くん!! 病み上がりですまない! 頼んだ!!」


遠くから皐月の声が飛ぶ。謝罪と信頼が混ざった声だ。


「任された」


繋は小さく微笑み、力強くうなずいた。


兵士たちからの固唾かたずを呑んで見守る視線。 煌夜からの熱い視線。 皐月の申し訳なさに満ちた視線。 それらすべてを背に受けて、穏やかに唱える。


目の前に一枚の栞が現れる。そこには赤いグラジオラスの花が挟まれていた。 栞はゆっくりと解け、花弁となる。無数の赤い花びらが宙に舞い、やがて一点に集束する。


形作られるのは、真紅の剣。


(うん、大丈夫。さっきのClass3やClass2との戦いで準備運動はできたかな)


内心で微かに笑ってみせる。だが、胸の奥では確かに闘志の炎が燃えていた。


初めてのClass4との戦いではリミッターを解除しても、グラジオラスの剣ではClass4の肌に満足な傷を与えられなかった。


(でも、今の僕なら──この一撃だけでも、致命傷を与えられる)


生成された真紅の剣にさらに魔力を込める。 剣は赤く輝きだし、その周りにはあふれ出す魔力が赤い花びらとなって瞬く。


その手に伝わる緊張感が、全身を駆け巡る。


繋は上空を見据える。敵は完全に油断しきっている。 攻撃の準備に入った今、完全に無防備。この隙を逃すわけにはいかない。


「さあ、リベンジマッチだ! グラジオラス──射出!」


ゴウッ!と赤い剣が唸りを上げ、空気を裂いて放たれる。


此方の攻撃に気付いたclass4は攻撃に移り光線を放った。


その瞬間、誰もが奇跡を祈った。


光線が地上へ届くよりも速く、赤い軌跡を描きながら剣は一直線に駆け抜ける。


次の瞬間。


Class4の胴体を、容易く貫いた。その光景に、誰もが目を疑った。


陶器のような身体に亀裂が走る。無音の絶叫のようにひび割れが広がり、白い肉体は灰となって崩れ落ちる。


翼が砕け、熱線の輪が消えた。


一瞬、時間が止まった気がした。


静寂が訪れる。 先ほどまでの喧噪が嘘のように、戦場は凍りついたような静けさに包まれる。


灰が風に舞う。


その中で、魔力を解いていつもの穏やかな微笑みを浮かべた。


それは、戦場に差し込む一筋の光に見えた。


「よし、とりあえず勝利!」


控え目にVサインを掲げ、にっと笑う。


「うおぉおおおおお!!」


場違いなほど明るい声が響いた瞬間、わっと一斉に兵士たちの勝利の咆哮が戦場に響く。


繋のその一言で、兵士たちの張り詰めていた空気が解けたのだった。


誰かが安堵の息を吐き、誰かが震える膝をつく。 笑い合い、抱き合う者もいた。


「繋くん!!」


「うぐぅッ」


大きな体が思いきり強く繋を抱きしめた。身長差も相まって、繋は潰れたカエルのような声を上げてしまう。


「よかった、無事に目覚めて! それに助けに来てくれてありがとう!」


抱き締める腕が緩まり、繋の肩に手を置いて感謝の言葉を告げる。それに対して繋は「ううん、僕の方こそ奈良での戦いで負傷してから目が覚めるまで守ってくれてありがとう」と伝えた。


「それに関してだが、功労者がいてな」


途端、煌夜の表情が何とも言えないものになる。口を真っすぐに噤んで唸り声を上げ始めた。

もしや、感知魔法で煌夜の近くにいた人物なのかなと繋は予想した。てっきりシグル達が応援に駆けつけてきて来てくれたのだと思っていると、聞きなれた方言が耳に入った。


それは、自分が両親と生活していた地域で、所謂博多弁だった。


「よかった、目が覚めて。 わいの名前は皐月っちゅうとよ、よろしくね」


繋はその声の主の方に顔を向ける。なんだろうか、聞きなれたはずの方言なのに、見た目なのか、男の雰囲気のせいなのか──いや、へらへらした顔のせいだ。


「すっごく、うさんくさい」


「だろ」


間髪、煌夜が同意した。





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