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混ぜし鬼よせ

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 反射神経クイズ~! 吸血鬼の苦手なものはなんですか? はい、ドーン!

 十字架! ニンニク! 聖水! 流水! 太陽光! パイルバンカー! のばら! 塩! コミュ障待ち! 粒・網目大好き!

 ……て、ちょ、ちょ、ちょ! なんか後半がどんどん尊厳破壊の域に入ってきてませんか~? 仮にも「鬼」つくヴァンパイア様ですよ~?

 そりゃ招かれない限り建物には入れませんし、粒とか網目を数えだすと止まらなくなる性質がありますねえ。

 つまりは標的出待ちで、家の外をいまかいまかとうろつきまわり。いざ入れてもそこが超高層マンションで、たまにはエレベーターでも使おうと乗り込んだが最後、中の階層ボタンを全部数えるまで動けないというわけです。

 天下の「鬼」サマがこれなんですよ? かわいいとか萌えとかてえてえになるんですかね~。想像力はかくもものすごいものです。


 しかし、これら弱点は独立分詞構文だからこそ、役に立つもの。

 寿司にラーメン、プリンが好きだからって、ひとつのどんぶりに全部ぶっこめばいいというものじゃあありません。舌もお腹も拒絶反応でしょう。

 弱点に関しても同じようなもの。いろいろなものを混ぜ込んだ結果、望んだ効果を得られないばかりか、別のやっかいごとを招く恐れもある。知識、経験、人のツテ……どれもおろそかにしていると危ないものですね。

 さて、百物語は私の番でしたね。何話そうか迷いまして、最初はクイズにしましたが、これにいたしましょうか。


 私の友達の話なんです。

 友達は小さい時分からお化けのたぐいが、とっても苦手なようでして。理由を尋ねると、現実のルールにのっとってくれないからだ、と。

 空を飛び、壁をすり抜け、走ったならばあり得ない速さで行く道に先回りをする……そのような得体の知れなさが恐ろしいのだと。

 タネが割れるまでの奇術も、似たようなものですよね。分かるまではハラハラドキドキするのに、分かったとたんに見向きもしなくなります。分からないことは怖い反面、興味が湧くのもしばしばですからねえ。

 友達は怖がりのくせに、怖い話はやたらと聞きたがります。同じ話には興味がなく、ひたすら手広くそろえていく。ちょっとでもお化けの「タネ」を知りたいと、必死だったんでしょうね。


 その友達も学校で怖い話をよく聞きたがっていたんですが、あるときから十字架のネックレスを首から下げるようになったんです。

 シンプルなデザインじゃなかったですね~。東京タワー? エッフェル塔? いずれにせよ、何かしらの高層建築物とその足元をひっくり返したような格好をしていました。

 個人のファッションセンスそのものを、とやかく言う気はないんですがね。問題なのが、その十字架がいつも水気を帯びているということなんです。

 常に着込んだ服のペンダントまわりは濡れているし、床へ水滴が零れ落ちることも珍しくありません。いちど注意されたので先生の前では自重しますが、生徒しかいないときにはつけます。

 いわく、吸血鬼対策なのだとか。


「吸血鬼は十字架に、水が苦手なんでしょ? だったら2つを合体させれば効力バイバイ―ンになったりするんじゃないかなあと」


 いや、その水流れてないでしょ。したたっていればオッケーなのかな?

 どうせならもっと有名どころなニンニクをしみ込ませたりしないのかなあ。いや、人前でそれはアウトのすれすれ。せめて日光に当てることくらい……などと、友達の告白を聞いて私はつたない灰色の脳細胞を回しに回したわけなのです。

 私、吸血鬼じゃありませんからね。効果がどれほどあるのか分かりませんから、うかつなことは言えません。

 ひょっとしたら効果が出ているかもですしね。素人で畑違いの人間がいう適当さほど命取りになるものはありません。

 ゆえに彼女のことをリスペクトして、深くはツッコまなかったのですが。


 何日もすると、その彼女の様子がおかしいんです。

 ペンダントから水滴がぽたりと落ちるとですね、毎度びくりと肩をふるわせ、状況が許すならあたりを見回すようなそぶりをするんです。「いま、足音が聞こえなかった?」とも付け加えて。

 例の十字架に何かしたのか? と私は問います。あまりにしずくが垂れるのと挙動不審ぷりが合致していますから、十字架の細工を疑うところ。

 そうすると彼女、薔薇の香水をかすかにつけ始めたというんです。

 先ものばらが吸血鬼の弱点としてあげられましたが、前に出たものと比べると苦手かどうかは賛否がありますね。

 一説だと愛を知らぬ吸血鬼は薔薇を嫌い、逆に知った吸血鬼は薔薇を好むようになるとか。後世の付け足しの中でも、いろいろそそられるものです。


 ――ああ、そういうことか。


 おびえる彼女を前に、私はひとり納得してしまいます。

 私自身の嗅覚すらも感知しきれないほどかすかなものでも、私の身体が反応してしまうのですから。

 このときだけ、私の心臓の鼓動。人の足音にそっくりになって、外へ漏れるんですから。

 彼女の怖がる姿が面白かったので、いちいちそれは口にしませんでしたよ。おかげで彼女はあのペンダントをつけての学校生活中、私がそばにいるときは足音をずっと警戒していましたが。


 と、まあ私の話は以上なんですが、どうしました皆さん? 落ち着きがなくなっていませんか? エリ先輩が話の途中で部屋に入ってきたときからですね。

 ずばり聞きましょう、先輩。薔薇関係の香水、なにかつけてきましたか?

 オーデコロン、でしたか。そのレベルでもやはり。

 ん? じゃあ話の証拠を見せましょうか。先輩、ちょっとそばへ寄りますよ……。


 ほーら、足音がしませんか?

 部屋の真ん前を、壁一枚はさんで行き来している大人たちの足音が。

 こうも近くで、しかも十字架などをはさまずに地肌に振りかけてますからねえ。もうドキドキしちゃう。

 ああ先輩……私にちょっと血を吸わせてくれません? 首とかいわず、指先でもいいですよ。ほーら、私の犬歯、鋭いでしょう?

 これで真っすぐひとつき。ぷつりと音が立てば、それで終わりですよ。なあに、ほんのちょっぴり痛むだけです……なんてね。

 血がなくとも、薔薇で生きていけるといった通り。私は吸血鬼じゃあなく、愛を知った吸血鬼なんですからねえ。人への愛を。

 ふふふ。


 さあ、私の話は終わりです。怖がらずに続けましょ?

 胸おどる時間はまだまだこれから。ふふ、楽しくなりそうです。

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