表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第一章: 黒猫と月夜の出会い

月が高く昇る夜、街は静寂に包まれていた。人々はそれぞれの夢の中へと旅立ち、夜の帳が全てを覆う。この時間、全てが止まり、時さえも静寂に溶け込む。そんな夜の中、一匹の黒猫が石畳を歩いていた。その黒猫、名をシドという。彼はこの街で最も恐れられ、そして最も謎に包まれた存在の一つ、夜の暗殺者であった。


シドは深夜の街を歩く。彼の動きは静かで、まるで影そのもの。彼が通り過ぎると、月明かりさえも彼を避けるかのように、その輪郭をぼやけさせた。街の静けさは、彼の孤独を一層際立たせる。シドにとって、この孤独は長年の友であり、唯一無二の伴侶だった。


しかし、この夜は何かが違った。彼の心の奥底に、わずかながらの期待が芽生えていた。それは、今夜がただの任務の夜ではないという予感によるものだ。彼の目的地は、街のはずれにある古い館。その館には、彼の新たなターゲットが待っている。


シドは館に忍び込む。彼の動きは音もなく、影から影へと移動する。館の中は、外の静寂とは裏腹に、緊張感が漂っていた。彼はターゲットの部屋へと近づく。しかし、その部屋の扉を開けた瞬間、予期せぬ出来事が彼を待っていた。


部屋の中央には、一人の女性が立っていた。彼女はシドをじっと見つめ、微笑んでいる。その女性、名をレナという。彼女もまた、夜の世界で名を馳せる暗殺者だった。しかし、レナはシドとは異なり、人間界での生活にも馴染んでいた。


「おや、これは珍しい。黒猫が私の目の前に現れるとはね。」レナの声は穏やかで、彼女の姿勢からは敵意は感じられなかった。


シドは沈黙を守りながら、レナを見つめ返した。彼はなぜか、この女性に対して敵意を抱けなかった。彼女の存在が、彼の中にある何かを揺り動かしているようだった。


部屋の中、レナの穏やかな声が静寂を破った。


「どうやら、私たちは同じ目的でここにいるようね。でも、私が先に来たから、今回のターゲットは私のもの。あなたには悪いけど、他を当たってほしいわ。」


シドは一瞬、緊張が走ったが、彼女の言葉には敵意がないことを感じ取る。彼は通常、言葉を交わすことを避けるが、レナの存在が何故か彼を引きつけ、彼の中の何かが彼女に応答するよう促していた。


「…君はなぜ、暗殺者になった?」シドが静かに尋ねる。


レナは少し驚いたようにシドを見つめた後、小さく笑った。「それは長い話よ。でも、簡単に言うなら、生きるためかしら。あなたはどう?」


「同じだ。」シドの答えは短いが、その言葉には深い意味が込められていた。


「ふふ、意外と話せるじゃない。黒猫さん。」レナが言う。


「人と話すことは少ない。」シドが静かに返す。


「でも、今は話している。奇妙な縁ね。」レナは柔らかく微笑みながら言った。彼女の目は、シドの深い闇を照らす光のように感じられた。


「…なぜ、笑う?」シドが尋ねる。


「だって、こんな夜中に二人の暗殺者が、ターゲットのことを忘れて会話しているなんて、滑稽じゃない?」


シドは無言で頷いた。彼は自分の中に芽生えたこの新しい感情が何なのか、まだ理解できなかった。しかし、レナとのこの短い交流は彼にとって新鮮で、どこか心地よいものだった。


「さて、私たちの夜はまだ続く。あなたの道は、どこに続いているの?」レナが立ち上がり、シドに問う。


シドは窓の外、月明かりの下に広がる街を見つめた。彼の道はまだ見えない。しかし、この出会いが彼の旅路に新たな意味をもたらすことを、彼は感じていた。


「まだ、わからない。」シドが静かに答える。


「それもまた、旅の醍醐味よ。」レナが優しく言った。「また会おう、黒猫さん。」


その言葉を残して、レナは影のように部屋から消えた。シドは一人、深い思索に沈んだ。彼女との出会いは、彼の心に新たな光をもたらし、これからの旅路にどのような変化をもたらすのか、彼はまだ知らない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ