第98話 事務局のお姉さん
何がしたかったのか分からない歓迎セレモニーを終え、俺とミーシャは編入手続きのため、事務局へ向かう。
「おい、なんのまねだよ。」
ミーシャは移動中、腕をからませてくる。
外見的には恋人同士だろう。
そのため、周囲の男子生徒たちからの視線が痛い。
「あんなヤツが、俺のミーシャに手をだしやがって。」
「やっと戻ってきたと思ったら、これかよ。」
「あんなヤツより、俺の方が上だろ。」
「ぜってーぶっ殺す。」
超絶美少女のミーシャと懇意にしてたら、男子生徒どもの反感が半端ない。
これで俺も超絶美形だったら、ミーシャにも女子生徒からの反感がいくのだろうが、あいにく俺のルックスは並み程度。
あざけりの視線はあれど、反感や嫉妬の類いの視線は、女子生徒どもからは感じない。
「ふふ、あんたは私の下僕でしょ。面倒な男どもの事は、頼んだわよ。」
ミーシャは小声でつぶやきながら、まぶしい笑顔をみせる。
直視出来ずに視線をそらすのだが、今度は面倒な男どもの視線が入ってくる。
これではまともな学園生活は、送れそうにない。
俺の学園生活への憧れは、早くも崩れさってしまった。
事務局に入ると、ミーシャは腕組みを解く。
そう、俺はあくまでミーシャに対する生徒どもからの防波堤にすぎない。
事務作業してたひとりの女性スタッフが、受付窓口にくる。
学生世代より、少し上な感じのお姉さん。
ギルドのルル姉たちよりかは、歳は下っぽい。
学生人気はありそうなお姉さんだ。
「はーい、どうかされましたか。」
そのかわいらしい声に聞き惚れてたら、ミーシャが肘で突ついてくる。
「あ、えと、へ、編入手続きに来ました。」
ミーシャに喋るタイミングを狂わされ、まともに言葉が出なかった。
くそ、かわいいお姉さん相手に、第一印象最悪だ。
「くすくす、あなたがサム君ですね。アディシア先生から話しは聞いてますよ。」
お姉さんに笑われてしまった。
「一応、身分証を見せてください。」
気落ちする俺に、お姉さんは続ける。
「は、はい。」
俺は降魔の腕輪から、ギルドカードを取り出し、お姉さんに渡すのだが、その手をミーシャがつかむ。
「他人に渡しちゃ駄目よ。見せる時でも、しっかり持ってなさい。」
ミーシャなりのアドバイスだが、お姉さんの視線は別の所に固まってる。
なんか、俺の降魔の腕輪をガン見している。
アディシア先生もアンティークな腕輪って言ってたし、お姉さんもそんな興味があるんかな。
「あの、お姉さん?」
「は、な、何でもないわ、み、身分証の確認ね。」
俺が声をかけたら、今度はお姉さんがテンパった。
この降魔の腕輪、そんなに珍しいのかな。
見る人が見たらドラゴンとバレる代物だが、それを知ってる人自体限られてるし、一介の事務局のお姉さんに分かるはずないのだが。
「あれ、C級ですか?アディシア先生からはF級だと聞いてたんですが。」
「え?」
お姉さんの言葉に、ミーシャも俺のギルドカードを覗きこむ。
「ちょっと、なんであんたが、私と同じCランクなのよ。」
「えと、」
これ、どう説明したらいいんだ?
幻想旅団の討伐達成を、F級でこなしたら動物変化と疑われるからC級にしたんだけど、元々F級だった事を知ってる人には、意味がないよね。
「ははーん、これってアレね。」
ミーシャが何やら思いつく。
「幻想旅団を討伐したから、特別昇級ってヤツね。」
「えー、あの噂って、本当だったんですか?」
ミーシャの思いつきに、お姉さんが驚く。
「はあ、」
「た、確かに、あの幻想旅団を撲滅したのなら、特別昇級もあり得るわね。でもその場合、A級が妥当だし、なんならS級だってあり得るわ。なんでC級なんて中途半端なのかしら。」
俺のあいまいな返事に、お姉さんは考察を始める。
「いやいや、俺が討伐したのは、この近くの森のヤツらだけで、撲滅なんてしてませんよ。」
俺は慌てて、でかくなりすぎた噂を否定する。
「あ、あの森の一団ですか?あそこには神獣族と幻獣族の動物変化がいるから、は、まさかあなた、」
「あっと、余計な事は口走らないでね。」
俺が動物変化だと気づくお姉さんを、ミーシャが制する。
「そ、そうね。これはこの学園では不問だったわね。」
お姉さんは落ち着きを取り戻すが、ちょっと疑問がある。
「あの、なんで幻想旅団に詳しいんですか。」
「え、えーと、それは、、」
俺の問いかけに、お姉さんの目が泳ぐ。
「それと、幻獣族なんて居たんですか?俺が会ったのは多分神獣族だけなんですが。」
おそらく幻獣族とは、警備隊本部で聞いた結界師の事だろう。
神獣族は当然、あの白虎の事だが。
「そう、幻獣族には会ってないのね。」
なぜかお姉さんは、ホッとする。
「あなた、何か知ってそうね。」
鈍いミーシャも、それに気づく。
「う、噂よ。噂で聞いたのよ。」
「噂?」
「こ、この学園の事務員をやってれば、そう言う噂も耳にするのよ。」
「それもそうね。」
ミーシャはお姉さんの言葉を信じてしまう。
あの幻想旅団が動物変化の集団だった事は、ギルドも警備隊本部も把握してなかったのに、なんで事務局のお姉さんの耳に入るんだよ。
実体も無く忍び寄る白い影。
幻想旅団とは案外、身近に潜んでいそうだな。
ども(・ω・)ノ
とりあえず人気の出そうな女性キャラを、どんどん登場させようという昨今の流れ、嫌いじゃないぜとは言えません。
名前考えるのも面倒ですしおすし。
この学園は、人間とドラゴンとの友好のために創られたって設定は、以前本文中に書いたと思います。
だからドラゴンが混じってるのは、学園内の誰もが知る暗黙の了解です。
ちなみにこの学園の制服には首輪と言うかチョーカーがあって、これが封じの首輪の役割を果たします。
でも人間の服装はドラゴンにとってのウロコと同じ。
この被服調整が出来る個体には、意味のない装備になってますが、それが出来る個体も限られてる設定です。
ミーシャも主人公も、普通にこなしますが。




